人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2017/12/20 (連載 第103回)

ラーニングリーダーから学ぶ新たな方法で考えるための10のストーリー ~ATD 2017 JAPAN SUMMITレポート~

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 今年で3回目となったATD 2017 JAPAN SUMMIT、今年も御茶ノ水のソラシティを会場としてAssociation for Talent Development(ATD)と日経ビジネスの共催で開催されました。180名の定員に対してほぼ満席と盛況なセミナーでした。

 プログラムのなかで近くの参加者とともにダイアログをする機会が設けられ、私が参加したグループのなかには、製造メーカーの現場リーダーという30代前半の方がいました。
 「どんな動機で参加されたのですか?」と伺うと、「私は現場でマネジャーの補佐として10数人の人をまとめていますが、自分自身のリーダーシップやマネジメント力に加え、チーム全体の人材育成について興味を持っています。一人ひとりが、学ぼうという姿勢で取り組むためには何をすればよいか、そのヒントを得たくて本日のセミナーに参加しました。個人で本日は有休をとっての参加です」。
 参加者の大半は、人財育成に関わっている方で仕事で来ている人でしょう。そのなかに、自費で有休をとって参加されていることを伺い、感心するとともに、目の輝いた前向きな姿を拝見し「まだまだ日本はいけるぞ!こういう気持ちのある人が達成感を得ながら成長していってほしい」と、うれしさとともに今後の成長を祈る気持ちでした。

 さて、今回もATD 2017 JAPAN SUMMITの基調講演の内容をご紹介します。
 講演者は、ヒルトン ワールドワイド 副社長 グローバルワークフォース担当 Kimo Kippen氏です。タイトルは、「ラーニングリーダーから学ぶ新たな方法で考えるための10のストーリー」です。

1.ア・ロ・ハ

 私はハワイ出身です。日本には6週間ほど短期留学した経験があり、東京で4週間、広島で2週間過ごしました。そんな縁もあり、ホストファミリーとして、これまで25人の広島の方を受け入れてきました。
 また、ハワイ出身のクラスメートが東京で過ごしており、昨日30年ぶりに再会することもできました。
 私は、ヒルトンCLOとして人財育成に取り組んでいます。また、ATDのタレント開発にも長年携わってきました。
 私は「学び」ということに大変興味を持っています。学びについて謙虚な気持ちで皆さんにお話ししたいと思います。
 (kimoさんの笑顔がとてもすてきで、聴衆に語りかけるその姿にひきこまれます)

 最初に「ア・ロ・ハ」
 私はハワイ出身です。もちろんあいさつはア・ロ・ハ。
 このあいさつは、「アロ」(与える)と「ハ」(息吹)を組み合わせた言葉です。ですから相手に対して「人生の息吹を与える」という意味があります。
「愛」という意味も入っています。
 それぞれのあいさつの言葉にはいろんな意味があるものです。後ほど紹介する文化を知り、その文化に合わせる必要性がありますね。

2.あなたの職場は、学習する組織のどの段階にありますか?
  1. INCIDENTAL TRAINING(単なるトレーニングを展開している段階)
  2. TRAINING & DEVELOPMENT EXCELLENCE(トレーニングと人材開発に取り組んでいる段階)
  3. TALENT & PERFORMANCE IMPROVEMENT(才能とパフォーマンスのさらなる向上を目指す段階)
  4. ORGANIZATIONAL CAPACITY DEVELOPMENT(組織的な学習を展開している段階)
 組織が現在どの段階にあり、どうやって(4)の組織的な学習段階にもっていくか、これが重要な課題です。そのためには3つの要素、すなわち

(a) Executive Sponsorship(経営トップの参画)

(b) Learning Councils(学びの組織)

(c) Business Objectives(事業の目的)


 この3つの要素がすべて満たされて、初めて変革が可能になります。

 ヒルトンは、もうすぐ100年、現在98年の歴史を有しています。全世界で36万5,000人が働いており、1.7日に1つのペースで新しいホテルが開業しています。
 何のために事業を行っているのか、その事業目的を明確にして社員と共有する事が大切です。ヒルトンの経営ビジョンは、HILTONに合わせ
HOSPITALITY
INTEGRITY
LEADERSHIP
TEAMWORK
OWNERSHIP
NOW
です。このビジョンを社員と共に共有することで「学習する組織」を構築することができます。
 さて、どうやって共有するか、私は私自身がこれまでの人生の中で経験し学んだことをストーリーにして話し、その話から共感を得て、互いの学びにつなげていこうとしています。
 本日は、その10のストーリーを紹介します。

3.私が人生で学んだ10のストーリー
  1. マウイでの出来事
  2. 銀の皿を磨く指示は難しい
  3. 文化が違えば受け取り方も異なる ①フランクフルトにて
  4. 文化が違えば受け取り方も異なる ②ワルシャワにて
  5. 相手を不快にしてしまった出来事
  6. 日本での出来事
  7. 何も無駄にしない会社
  8. ヨルダンでの出来事
  9. ソリューションが先ではない
  10. 人材開発チーム
 上記10のストーリーから3つほど内容を紹介したいと思います。

(1)マウイでの出来事

 私がレストランマネジャーをしていた頃、本社から抜き打ちの視察があった。レストランでいたらないことが見つかり、ゼネラルマネジャーが本社からの指導を受けた。そしてゼネラルマネジャーは私に対してこのように指導した。
 「弓矢の矢があなたを貫通して、私にヒットした!」
 さて、皆さんはこの意味をどのように感じますか?
 私は、GMに迷惑をかけたことを、直接指摘を受けるよりも強く感じ、そしてレストランの改善に取り組んだ。

(3)文化が違えば受け取り方も異なる ①フランクフルトにて

 私たちの毎日は、従業員とのあいさつから始まる。
 フランクフルトのホテルにいたころこんな経験をした。
 私は、ある従業員に「はーい、元気?」と当たり前のようにあいさつをした。すると、その従業員は「最近ここが痛い」とか、「あそこが痛い」といったようなことを長々と説明を始めた。私がそのあいさつで求めていたのは、「はい、元気です」とその一言だけだったにもかかわらず、相手は私に質問されたと思い、克明に説明をしてきた。
 これは、その国の文化や慣習による違いからおきた違和感である。
 世界中を相手にしているヒルトンにおいて、それぞれの文化慣習を理解することの大切さを学んだ出来事である。

(4)文化が違えば受け取り方も異なる ②ワルシャワにて

 ポーランドの首都ワルシャワでの出来事である。ベルリンの壁が崩壊したのが1989年、それよりも前の出来事である。
 当時私はTQMトレーニングの推進者として活動していた。TQMを皆に理解してもらい、運動を盛り上げようと私はポスターを作製して、ホテル中のいたるところにそのポスターを貼り付けた。
 当時のワルシャワは、プロパガンダを嫌い、押し付けられることを最も嫌っていた文化であったので、私の貼ったポスターが従業員にどのように映ったか。もはや、語る必要もないであろう。


4.学習する組織を構築するために
 何から準備をしますか?
  1. 事例を用意する
  2. 学ぶ文化作りに着手
  3. 繰り返し繰り返し学ぶ
  4. 率直な話し合いを行い
  5. リーダーになる

学習する組織にするためのレッスン
  1. 成功するためにはトップの理解が欠かせない
  2. 正しい戦略、人材、組織、プロセスを持つ
  3. 勝利をもたらすチームにする
  4. 伝え、伝え、伝え、の繰り返し
  5. 学ぶことが、ミッション、ビジョンそしてあらゆる価値にとって不可欠
 kimoさんの講演内容は、本コラムでも取り上げてきたOJLの推進やピーターセンゲの「学習する組織」の領域にある話で、特別新たな理論や方式を学んだわけではありません。しかしながら、とても共感のできる話し方や進め方だったのが印象的です。

 学ぶ組織を構築するために、「トップと握ること」「一人ひとりの思いに火をつけること」そのために推進役である人材開発部門が「繰り返し繰り返し伝えていくこと」その伝えるために今回のkimoさんのような「自身の体験からのストーリーを展開すること」が重要であることを確認しました。

 それにしても終始、笑顔で語りかけるkimoさんのプレゼンテーションが実に印象的でプレゼンターのあるべき姿を学んだ講演でした。


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