人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2018/9/20 (連載 第112回)

ティール組織に学ぶ(4)マネジメントの常識を覆す

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 「ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」 フレデリック・ラルー著(英治出版刊)から、課題を提起し、そのテーマについて展開するシリーズの4回目になります。

 今回のテーマは、「マネジメントの常識を覆す」についてです。
 著書より引用します。
 現代が抱える気の遠くなるほどの諸問題を克服しようとすれば、新しいタイプの組織、つまり今よりも目的意識の高いビジネス、人間味にあふれた学校、生産的な非営利組織が必要となろう。殻を打ち破って新しいことに挑戦しようとする者はたいてい抵抗にあうだろう。「あいつは理想主義者だ」あるいは「ばかだ」と呼ばれるのだ。人類学者のマーガレット・ミードはかつて「世界を変えることに打ち込んでいる少数の人々の力をあなどってはならない。実際、それこそが世界を変えてきたのだから」と言った。読者がもしすでにその一員で、ほかの組織 よりも情熱的で、目的意識が高く、生産的な職場をつくっているという使命感をいだいているなら、本書は「できる」という自信を高めてくれるだろう。
 さて、ティール組織がもたらす変化、これまでのマネジメントの常識を覆す、その代表例の一つが「ミドル・マネジメントが存在しない」ことです。

 先月のコラムでも紹介したビュートゾルフで実践されている組織運営でその紹介がなされています。
 ビュートゾルフのチームには管理職がいない。こう聞くと、「もしそうだとしても、組織内のはるか上には、たとえば、たくさんのチームを統括する地域マネジャーといった強力なリーダーが存在するのではないか?」という疑問が湧くだろう。ご想像の通り、答えは「ノー」だ。この組織には地域マネジャーは存在しない。その代わり、「地域コーチ」がたくさんいる。これは言葉遊びではない。一般的な地域マネジャーとは違って、ビュートゾルフの「コーチ」はチームに対する意思決定権を持っていない。チームの成果に関する責任も問われない。売上目標はないし、収益責任も負わない。チームが好成績を上げたからと言ってボーナスをもらうわけでもない。既存のピラミッド型組織でなされる権限の垂直的な伝達は全く存在しない。看護師たちのチームは、組織内の上部から権限を与えられているわけではない。自分たち以上の意思決定権を持つ階層に支配されていないがゆえに、真の権限を持っているのだ。

 従来型組織では、地域マネジャーというポジションは若手社員の育成のために用意されていることが多い。しかしビュートゾルフには上るべき出世階段がない。コーチは教えることのできる能力に応じて選抜される。大半のコーチは比較的年配で、対人関係スキルに秀でた経験豊富な看護師だ。ほかの看護組織で管理職を経験した人がコーチになる場合は、それまでとは全く異なる方法が求められる。あるコーチは次のように指摘する。

 私は、かつては管理し、統制するための教育を受けていましたが、この会社ではその頃の働き方を捨て、自分を解放しなければなりませんでした。前職との大きな違いは、「私には本当に責任がない」という点です。責任はそれぞれのチームと、創業者のヨス・デ・ブロックにあります。
 私は2010年9月のコラムで「ミドルアップダウンマネジメントを採用せよ」のタイトルでミドルマネジメントの重要性を訴えました。(» 2010/9/2「ミドル・アップダウン・マネジメントを採用せよ」
 このコラムでは、野中郁次郎氏と竹内弘高氏による著書「知識創造企業」の一節を引用して、
「ミドルは、トップと第一線マネージャーを結びつける戦略的「結節点」となり、トップが持っているビジョンとしての理想と第一線社員が直面することの多い錯綜したビジネスをつなぐ「かけ橋」になるのである。彼らは知識創造の真の『ナレッジ・エンジニア』」なのである。」を紹介しました。
 このミドルマネジメントの役割は、目標管理を基調とした達成型組織においてはなくてはならない存在であることは、現在も変わりがありません。
 いや、目標管理に加え、「働き方改革」に取り組む推進者としてミドルマネジメントの期待・役割はますます重要になっているといえるのではないでしょうか。

 ところが、ティール組織においては、「ミドル・マネジメントが存在しない」といいます。
 ティール組織を読んで、最初に疑問に感じた点は、「本当にミドルマネジメントをなくしても組織は成り立つのか?」でした。
 これまでの常識でティール組織を理解しようとすると、このような疑問がいくつも湧いてきます。
 まさに、ラルーが著書の冒頭でいっている「あいつは理想主義者だ」あるいは「ばかだ」、とまでは思わないにしても、殻を打ち破って新しいことに挑戦しようとする理論に疑問を抱いていたというのが、ティール組織に出会った際の実感でした。

 しかし、現在世の中で起こっている変化を踏まえれば、マネジメントの存在、あるいは新しいリーダーの形は、ティール組織に向かっている。具体的には、以下の3つの潮流がそのことを示唆していると思います。
(1)目標による管理の終焉
(2)ミドルマネジメントが責任を負うことの限界
(3)支配型リーダーシップからサーバントリーダーシップへ
 本来、自立的成長を目的としてピーター・ドラッカーが提唱して導入された目標管理制度はいつのまにか毎年の業績確保のための売上目標、利益目標達成のための制度として運用されました。この結果、個人主義が進み、日本の強みであったはずのチームによる運営、助け合う精神、こういった組織文化が失われつつあります。
 現在の目標管理制度見直しの機運は、組織の一体感を取り戻すために急速に拡がっています。個人別に設定すべき目標は、原点に戻り「個人の成長を促すための制度」になることが求められています。

 ミドルマネジメントの負う責任はますます増大し、組織の目標達成から働き方改革の実践までなんでもマネジメント層の責任とされ、疲弊するマネジャーの姿が問題となっています。
 なかでも目標管理面談が、精神的にも負担となっているマネジャーを数多く見かけます。短期的な売上・利益の業績目標の達成度の会話中心であれば、メンバーに対する動機付けも思うようになりません。「本当に大事なことは何か」このような疑問をミドルマネジャー自身が抱いているのです。

 さて、支配型リーダーシップからサーバントリーダーシップへの変化は、個々人の自立化を求めるなかで生まれたリーダーシップスタイルです。その特徴は、下表の通りです。
支配的リーダーに従うメンバー行動サーバントリーダーに従うメンバー行動
主に恐れや義務感で行動する
主に言われてから行動する
言われた通りにしようとする
リーダーの機嫌を伺う
役割や指示内容だけに集中する
リーダーに従っている感覚を持つ
リーダーをあまり信頼しない
自己中心的な姿勢を身に付けやすい
主にやりたい気持ちで行動する
主に言われる前に行動する
工夫できるところは工夫しようとする
やるべきことに集中する
リーダーの示すビジョンを意識する
リーダーと一緒に活動している感覚を持つ
リーダーを信頼する
周囲に役立とうとする姿勢を身に付けやすい
 サーバントリーダーシップの理論は、ロバート・グリーンリーフが1970年に提唱したものですが、目標管理の見直しの機運が高まっている今、求められているリーダーシップスタイルといえるでしょう。
 しかし、達成型組織のなかで強い意思決定をなさなければならないリーダーがサーバントになれるでしょうか?
 いつの時代にも素晴らしいリーダーがいます。人望のあるリーダーは、どんな組織スタイルでも(達成型組織においても)、上述の「サーバントリーダーに従うメンバー行動」を引き出すことができるでしょう。
 一部の優秀なリーダーを除けば、達成型組織においては「支配的リーダースタイル」をとらざるを得ないのが実情ではないでしょうか。

 と、考えれば、少人数のチームに自主経営(セルフマネジメント)させ、その経営がうまく進められるよう「地域コーチ」を配置して、様々な助言をしていく。責任はチームが負い、地域コーチはあくまでも助言する役割を負う。地域コーチの評価は、チームがそのコーチからどれだけ有効な助言をもらえたかの評価によって決める。
 このような「ティール組織」への変化。この変化を受け入れることで「真の働き方改革」につながると思うようになってきました。
 みなさんは、どう思いますか?


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