人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2019/01/21 (連載 第116回)

DXジャーニーを楽しもう

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 2019年の幕が開けました。
 今年は新しい年号に代わるという一大イベントがあります。
 「国の内外、天地あまねく平和が達成されるように」との願いを込めて制定された「平成」の年号は、その30年間に戦争のない時を過ごすことができそうで、年号に込めた思いは実ることとなるでしょう。日本においては、年号の持つ意味 合いは大きく、新しい年号が、どんな年号になるのか期待して発表を待ちたいと思います。

 このコラムを書き始めたのが2009年6月でしたので、今年は10年目を迎えることになります。
 この10年の間に私自身の視点の変化もありました。
 ドラッカー博士の「マネジメント」を引用しながら、マネジャーを対象に「部下を育てる」ことを中心に書いていた時代。
 野中幾次郎氏から学んだ「ミドルアップダウンマネジメントの実践」をコラムにして中間管理職の役割やその重要性を訴えたコラム。
 京セラを創業した稲盛さんから学んだ「働くことの意義」についてもお伝えしてきました。
 管理職といわれる人たちの存在意義と役割に焦点を当てることが多かったものの、昨年フレデリック・ラルーの「ティール組織」に出会い、大きな時代の変化、とりわけ「タテ社会」から「ヨコ社会」への変化を実感するようになりました。

 とはいえ現在も多くの企業の組織構造は変わっておらず、これまで書いてきた管理職の役割は引き続き重要なものです。
 変化というというものは、ある日突然劇的に変わるものではなく、時間をかけてその時代に求められる姿に順応して変わっていくものなのでしょう。自分への期待・役割が変化していくのを肌で感じ、順応していく能力がこれからの時代に 必要なことだと思います。
 何がこの変化をもたらすのか?
 デジタルトランスフォーメーション(DX)がその源流にあるといって良いでしょう。

 このDXについて、興味深い記事があります。
iSRF代表が、IT Leadersオピニオン記事に掲載した
「Digital Transformationの意味を曖昧にとらえてはいけない、その理由」
https://it.impressbm.co.jp/articles/-/17054?page=3
です。
 このコラムをお読みになっている方ならきっと田口さんの記事には目を通されているかと思いますが、一部を紹介しながらコラムを続けます。
 さてここまで読んでいただいた読者には、冒頭の「曖昧な理解のままではかなり危険だ」の意図をおわかりいただけたのではないだろうか。仮にクラウド、モバイル、IoT、AIなどのテクノロジーを使いこなし、製品やサービスを進化させ ることができたとしても、それはDigitalizationでしかない。それとて困難な取り組みであることは確かだが、しかし組織風土や行動様式、社員の考え方などをアナログ時代のままにして、製品やサービスをDigitalizationするだけでは早晩、行き詰まる可能性が大きい。

(中略)

 比喩的に言えば、デジタル化が急速に進む社会・経済環境の中で、紙や電話の時代に育ったビジネスパーソンと、生まれた時にインターネットが存在していたデジタルネイティブの人材とでは、どちらが生き残る可能性が高いかの違いであ る。これからの企業はデジタルネイティブに選ばれ、デジタルネイティブが活躍できる組織になるよう、自らを転換する必要があると言えるかもしれない。
 田口さんは、DXの定義についても触れています。
 単に何かを変えることではなく、自らのあり方を質的に転換するわけだ。企業の場合、それは組織文化や業務のあり方、意思決定の行われ方、組織と社員の関係や働き方、取引先や顧客との関係などを、デジタル時代(環境)に適応するようゼロベースで見直し、再構成することを意味するはずである。
 そして、「DX以前」と「DX以降」の違い という比較表を独自の視点で作成されています。
https://it.impressbm.co.jp/mwimgs/3/d/-/img_3d9354a484681b5b16d31719f3e3c17847582.png
 ここで展開された「経営トップの役割」と「組織のあり方」に着目すると、
経営トップの役割は、
【DX以前】指示、スポンサーシップ【DX以降】ビジョン、リーダーシップ
組織のあり方は、
【DX以前】縦割りの階層型組織【DX以降】ネットワーク型、ワイアラキー型

 トップが、来るべき環境の変化をとらえ、組織の構成員にビジョンを持って伝え、既存組織の壁を越えて、目的ごとに編成されたチームが、目標に向かってまい進する。これがDX以降の姿であると提起されています。
 この提起は、視点は異なるものの「ティール組織」が伝えている姿に合致します。組織の在り様は、この先時間をかけて変化し続けることになるのでしょう。

 DXがもたらす変化、その先の未来を考えるなら、イスラエル人の歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの著書
「ホモ・デウス(テクノロジーとサピエンスの未来)」(河出書房新社刊)
を一読されると良いでしょう。
 ここの先のAIの進展による可能性として、人類に深刻な問題をもたらすことを警告しています。実にリアルにこれまでの歴史の事実を論理的に積み重ね、本当にAIの配下で生活する人類の姿を考えさせられます。一部を引用しましょう。
「無用者階級」

 二一世紀の経済にとって最も重要な疑問はおそらく、厖大な数の余剰人員をいったいどうするか、だろう。ほとんど何でも人間よりも上手にこなす、知能が高くて意識を持たないアルゴリズムが登場したら、意識のある人間たちはどうすれ ばいいのか?

 歴史を通して求人市場は三つの部門に分かれていた。農業、工業、サービス業だ。1800年頃までは、大半の人は農業に従事しており、工業とサービス業で働く人はほんのわずかだった。その後、産業革命の間に、先進国の人々は農地や 家畜から離れた。大多数は工業の分野で働き始めたが、サービス部門で仕事に就く人もしだいに増えていった。過去数十年間に、先進国は新しい革命を経験した。工業の仕事が消え、サービス部門が拡大したのだ。アメリカでは2010年には、農業で暮らしを立てる人はわずか2%、工業部門で働く人は20%だったのに対して、78%の人は、教師や医師やウェブページデザイナーなどの職に就いていた。心を持たないアルゴリズムが人間より上手に教えたり、診断を下したり、デザインをしたりできるようになったら、私たちはどうしたらいいのか?
 ハラリ氏のいう通り本当に私たちの仕事は、AIにすべて置き換わってしまうのでしょうか? 2015年に行われた株式会社野村総合研究所と英オックスフォード大マイケルA.オズボーン准教授との共同研究が、この疑問に答えています。
 人工知能やロボット等による代替可能性が高い労働人口の割合が、日本は49%、英国35%、米国47%とその調査で報告しています。
 注目したいのは、この数値よりも「AIやロボットによる自動化が難しい職業には、3つの特徴」があるということです。

「創造的思考」
  • 抽象的な概念を整理・創出することが求められる
  • コンテクストを理解した上で、自らの目的意識に沿って、方向性や解を提示する能力

「ソーシャル・インテリジェンス」(社会的知性)
  • 理解・説得・交渉といった高度なコミュニケーションをしたり、サービス志向性のある対応が求められる
  • 自分と異なる他者とコラボレーションできる能力

「非定型」
  • 役割が体系化されておらず、多種多様な状況に対応することが求められる
  • あらかじめ用意されたマニュアル等ではなく、自分自身で何が適切であるか判断できる能力

 この3つの特徴は、現時点ではAIで実現することが難しいということなのでしょう。
 2019年、今年も新しい技術の発明、進展があることでしょう。
 「AIと共存する未来」を考えながら、デジタルトランスフォーメーションの旅路(ジャーニー)を楽しんでいきたいものです。


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