人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2019/07/22 (連載 第122回)

AI時代の人材確保策

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 7月5日朝日新聞の夕刊一面で「面接官はAI」の記事が掲載されていました。
 AIに書類選考や1次面接の初期段階を任せ、採用に関わる作業の軽減に役立てる。学生側にも就活費を抑えられるなどメリットがあるものの、AIに判断されることには戸惑いも残る。AIの波が効率化を生む一方で、AIでは代替できない人材が求められるようになってきた。
 朝日新聞の記事では、初期の選考過程でAIのツールを活用し、最後に人が判断する事例の紹介が中心でした。
 記事中リクルートキャリアの「就職白書2019」より、新卒採用活動にAIを導入する企業は2.3%(前回調査比1.9ポイント増)、従業員5,000人以上の企業では「検討している」が25.7%との数値を紹介しています。

 一方、AI活用により役員面接を不要にした事例も紹介されています。
 「日経プレミアシリーズ AI2045(日本経済新聞社編)」から引用します。
 ネット広告のセプテーニ・ホールディングスは社員の実績や性格、相性などを数値化し、機械学習によって人材の採用や配置を決めている。人が機械に従うことに抵抗はないのか。先進企業の職場をのぞいた。

 「最初は半信半疑だったが、退職率は目に見えて下がった」。第一コンサルティング部の本間崇司部長はこう話す。本間部長は半年に1回、AIがはじき出したデータを参考に人事を見直している。仕事への適性や社員同士の人間関係など、部のパフォーマンスを左右する目に見えない要素をAIが数値で示し、本間部長がそれを参考に人事を決めている。

(中略)

 採用にもAIを活用する。学歴や性格診断、グループワークでの活躍度、面接での評価から、実際に入社する可能性のほか、3年後の業績と定着率を点数にした。AIが高得点をつけた学生は、役員面接でも95%が合格した。このため、役員面接を不要にした。

 上野勇専務は「優秀な学生だけに内定を出しても他社に行ってしまう。入社してくれ、戦力になる人材を選び出す部分を機械化した」と説明する。
 事務の合理化だけでなく、判断業務にも実際に活用されはじめたAI。
 使う側が、しっかりしていないとAIに振り回され、結果的にAIに使われることになりかねません。

 「AIを活用して、AIでは代替できない人材を確保する!」
 面接の場は、出会いの場であり、採用する側が人物を確認すると同時に、面接される側も面接官や採用スタッフを通じて、「この会社は自分のキャリア形成にふさわしいか?」を確認する機会でもあることを強く意識する必要があります。
 一つのブームに乗って、単にツールを導入したということにならないよう、採用部門のビジョンと戦略の策定から取り組むことが必要です。

 「優秀な学生を採用したい!」
 「AI時代に適合した即戦力となる人材を採用したい」と誰でも願うわけですが、現実にはその企業の身の丈に合った人材を確保することで精いっぱいでしょう。
 採用という業務に携わると、この「企業の身の丈」を少しでも大きくしたい、大きくしなきゃ期待する人材の確保は困難だということを痛感します。

 「人材確保戦略を策定する」ということは、企業の身の丈をどうやって成長させるかということであり、経営戦略そのものといっても過言ではないでしょう。
 では、企業の身の丈を決める要素とはなんでしょう?3つの要素で整理したいと思います。

1.企業の魅力を経営のミッション・ビジョンから伝える
 ミッション・ビジョンがなんであるかを伝えることが最も重要なことです。応募者は、企業のミッション・ビジョンを自分のキャリア形成に当てはめ、自分の目指す姿に合致しているか、社会に貢献している自分の姿を想像しながら志望動機をまとめます。
 面接の場は、志望動機を表明する場であると同時に、面接官や採用スタッフを通して、ミッション・ビジョンの看板通りの企業であるかを確認する場ともなります。「面接官を人選する」ことも重要です。

2.企業の魅力をこれまでの業績・活動実績で伝える
 ミッション・ビジョンにもとづいて活動した実績を伝えます。業界の中での位置づけ、主要顧客ならびにその顧客の評価などを伝えます。他社と差別化できる実績があれば、人材確保戦略はかなり有利に進められます。活動実績・業績は事業部門が行うことなので、採用部門は直接的には影響力を持ちません。これまでの実績を伝えることしかできないわけですが、将来に向けて考えるならば、「戦略部門に合致した人材を配置する」のは採用部門です。実績につながる芽を配置し、人財戦略面からも側面援助して、成果につなげる。採用部門は、経営戦略の重要な担い手として影響力を有しています。
 既に十分な実績を有している企業は、人材獲得競争で圧倒的な優位に立っているわけですが、どんな企業にも創業期はありました。成長企業の創業期にスポットをあて、そこから学び、自分たちのシナリオを描くことも企業の身の丈を大きくしていくことにつながるでしょう。

3.企業の魅力を人財戦略面から伝える
 「この企業は、学び、成長し、活躍できる機会を得られ、結果に対する評価もきちんとフィードバックしてくれるか?」応募者が知りたいこれらのことを応募者の目線で描かれていることが重要です。
 現実には、日本のIT企業ではまだまだ指示待ち族が多く、主体的に行動する人材は少数派なのかもしれません。
 だからといって、自社の人財戦略をトレンドとなるキーワードを並べ「居心地の良さ」を表現するだけでは、望む人材の確保にはつながらないでしょう。
 時代に合致した諸制度を用意しながら、本質となる「学び、成長し、活躍できる機会を得られ、結果に対する評価もきちんとフィードバックする」このことがきっちり伝えられる文化を構築していくことが重要です。

 「AI時代に求められる人材は、AIには代替できない人材である」
 とすれば、一人ひとりが主役となって主体的に行動できる人材が求められます。まずは、経営層と会話を重ねながら、上記の3つを整理していくことが人材確保策になります。
 さて、大企業の創業期からの学びを一つ紹介します。
日立製作所のホームページより
 1910年(明治43年)に日立製作所を創業した小平浪平(1874-1951)は、電気エンジニアでした。電力が普及しはじめた明治後期、電気機械のほとんどは外国製品で、小平は「日本の産業発展のために、自らの力で電気機械を製作したい」という夢を抱いていました。

 1906年(明治39年)に茨城県の日立鉱山に赴任した小平は、水力発電所や鉱山鉄道を建設するかたわら、電気機械の修理を通じて研究をつづけ、優秀な人材を集めて、1910年に5馬力電動機の製作に成功しました。そして、この年、「日立製作所」の看板を掲げたのです。
 ここで簡単に「優秀な人材を集めて……」と紹介されています。
 創業者の小平さんの人脈によるところが大きいことは事実ですが、それでも優秀な人材が、創業間もない、そして都会でない地方に集まってくれたのはなぜでしょう?
 実は、思い切った賃金を初任給として用意したんです。
 志は共感できる。そしてこれだけの給与を用意してくれるなら、と親も納得して田舎の会社に送り出してくれたのでしょう。

 通年採用の議論が出ていますが、一律の初任給も見直すべき時期に来ているような気がしています。


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