人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2019/12/20 (連載 第127回)

「ラグビー」と「女子ゴルフ」から見える二つの課題

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 2019年、平成最後の年として幕を開け、そして今、令和の最初の年の幕が閉じようとしています。
 「厳しい寒さの後に見事に咲き誇る梅の花のように、一人ひとりの日本人が、明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる。そうした日本でありたい」
 との願いを込めて「令和」の時代はスタートしました。

 平成最後の日である4月30日に202年ぶりの天皇の退位の儀式となる「退位礼正殿の儀」が行われ、翌5月1日から12月4日まで様々な即位に関する儀式が行われました。
 これらの儀式が行われるなかで、私を始め多くの人が「日本」「日本人」そしてその歴史について考える機会ともなりました。
 私は、2019年を振り返って、「日本はいいなぁ」「日本は幸せだなぁ」と感じる機会が例年よりも多かったように思います。
 「令和」の時代がどのように進んでいくのか、楽しみでもあり、そして日本には多くの課題もあることを痛感します。

 今年大変盛り上がりを見せた「ラグビー」と「女子ゴルフ」から、「多国籍チーム」と「世代交代」の波を感じました。そして、この課題は日本が直面している課題です。
 今回のコラムでは、ビジネス界でも対処しなければならない課題として「多国籍チーム」と「世代交代」を問題提起したいと思います。

 日本で開催されたラグビーワールドカップ。本当に盛り上がりました。
 テレビドラマ「ノーサイド」もこの盛り上がりに大きく貢献したのだと思います。しかしながら、「これほど」の盛り上がりを予測できた人はいないのではないでしょうか?
 私も正直日本代表チームを見て、31人中15人が海外出身選手で構成されていることに違和感というか、「これで日本代表?」との疑問を持っていました。しかし、ラグビーの歴史と代表選出の世界基準を知るなかで「なるほど」と納得し、多くの皆さんと同様「アイルランド戦での勝利」から”熱狂”のスイッチが入りました。

 アイルランド戦の始まるロッカールームにてジェイミージョセフヘッドコーチが言ったとされるセリフ
 誰も我々が勝つと思っていない
 誰も接戦になるとすら思っていない
 誰もどれだけ努力してきたか知らない
 誰もどれだけの犠牲を払ってきたか知らない
 やるべきことは分かっている
 お互いを信頼して、みんなを信じて
 このチームがどれだけの苦労をして、この日を迎えたかを知る素晴らしいセリフです。そしてジェイミージョセフが唱えてきた「ONE TEAM(ワンチーム)」の意味を理解することにつながりました。
 「出身地、文化、様々な生まれや背景が違っても目標に向かって一致団結し、その違いを乗り越えて一つになる。結束したチーム」
 ラグビーだけではなく、ビジネス界や政治の世界でも「ワンチーム」を使う人が増えています。
 日本代表の稲垣選手は、
 「ワンチームってよく言われますが、僕らは4年間をかけて、チームとしての文化を作り上げてきたわけです。その文化がワンチームなんです。『ワンチームというフレーズをここまで作り上げてくるのには、非常にいろんな苦労があったなあ』って、あらためて感じますね」

 また、同じく日本代表の堀江選手もワンチームとなる過程の大事さを
 「ワンチームが(社会に)浸透していくのはうれしいですけど、どういうふうにワンチームにするかというのが大事でしょう。中身の部分をしっかり考えて使ってもらったほうがいいのかな、とは思います。僕らはワンチームというキーワードを出していましたが、ワンチームという言葉だけでワンチームになることは絶対ないと思います」
 国際社会の中でスクラムを組んでワンチームでものごとに取り組んでいくためには、このお二人の言葉は重く受け止めなければなりません。

 さて、渋野フィーバーで盛り上がった女子ゴルフ。
 全英女子オープン優勝という輝かしい成績を収めた若きヒロインの誕生に日本中が湧きました。以来、日本女子ゴルフのツアー観客数も記録的な多さになりました。
 渋野さんを始め弱冠二十歳の黄金世代の活躍が目立ち、十八歳のプラチナ世代の台頭も注目されています。
 賞金女王を争った鈴木愛さんと渋野さんの最終戦も大変見ごたえがありました。スター選手の誕生で盛り上がる女子ゴルフでしたが、シーズン終了に近づくころから目立ったのが、中堅選手の引退発表でした。

 一ノ瀬優希(31歳・優勝3回)、大江香織(29歳・同3回)、佐伯三貴(35歳・同7回)、そして、2009年に賞金ランキング2位となり、女子ゴルフ界での将来を嘱望されていた諸見里しのぶ(33歳・同9回)―。まだまだできるのでは?との声もあるなか、彼女たちは引退を表明しました。
 女子ゴルフの2019年度にシード権を獲得した女子選手の平均年齢は26.4歳。
 男子の49.5歳とは大きな開きがあります。男子選手ならこれから脂が乗ってくるという年齢の30代は、女子の世界では「現役晩年」にあたるのが現在のおかれた状況です。
 この世代交代の背景には、宮里藍さんに憧れて幼児期からしっかりした教育を受けてきた選手たちが育ってきたこと、そして新しいクラブの出現によって若い人たちほど適応力が発揮できないなどといわれています。
 世代交代に直面した選手たちは、苦渋の決断であったことでしょう。

 しかしながら、この世代交代は確実に日本を世界レベルの水準に引き上げてくれるでしょう。
 現在の世界ランキング畑岡奈紗5位、渋野12位、鈴木愛17位とこの3選手が突出していますが、韓国勢はTOP10に4名も入るなど、世界との差はまだ開いています。
 引退する選手たちは、ゴルフから離れるのではなく、指導者として、キャディとして、解説者としての道を考えているようです。
 新しい世界での活躍を期待したいと思います。
 そして、優勝経験のある人たちが指導者として加わることでまた日本のレベルも上がっていくのだと思います。

 さて、IT業界はどうでしょう?明らかな技術トレンドの変化に対応できているでしょうか?対応できていない人が、最前線のリーダーやPMとして君臨している、なんてことはないでしょうか?最前線は、世代交代して、新しい役割を付与する決断が組織に求められているように思います。
 皆さんの身近にはそんな課題はないでしょうか?
 2019年、読者の皆さん今年もコラムに目を通していただいてありがとうございました。
 2020年が皆さんにとって幸多い年となることをお祈り申し上げます。


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