人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2020/3/23 (連載 第130回)

事業再開の準備は万端か?

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 コロナウイルスの影響で世界は大混乱に陥っています。
 未来の歴史教科書は、2020年のコロナウイルスと世界の大混乱を「歴史上最も深刻な経済危機を世界にもたらした」と表現するほどの出来事として取り上げることになるでしょう。
 そして、この出来事から人々は感染症に対して学び、混乱することなく、対峙する方法を身に付けた……との記述になるよう、専門家の皆さんの叡智を結集して、早く沈静化する道へと導いていただきたい、そう願います。
 いつ沈静化するのか?
 専門的な知識を有しない私がそのことに言及するすべを持ちません。が、必ず沈静化して、世界経済が正常に戻る時期はやってきます。
 そう信じて、今は飛躍(ジャンプ)に備えて準備(かがむ)する時期だと考えましょう。
 「この準備期間に何をするか」

1.働き方が変わる・変える


  自社の制度もしっかりしないまま、テレワークに突入した企業も多くあります。「やるしかない」状況から、実際にやってみて課題も多く見えたことでしょう。
 この課題を克服して新しい働き方を定着することができるか、元の働き方に戻すか、これからの企業の取り組み方が問われます。
 これまで日本の働き方のベースは「時間と働く場所」でした。「労働法」事態がその概念から離れられずにいます。
 今回のことで学び工夫し、新しい働き方とそのベースを築けるか、具体的に取り組みたい課題です。

2.WEBのビジネス利用が一段と高まる


 人が集まる機会が減少するなかで、経済の縮小は余儀なくされています。再開までじっと待つのか、ネットを利用して新しいスタイルを模索するのか、後者の取り組みは、ビジネス再開後もきっと新たなビジネススタイルとして定着することになるでしょう。
 特に採用面では、WEB説明会やWEB面談が積極的に採用されるようになってきました。「対面でないとよくわからない」との意見もあるようですが、「移動時間や待ち時間が大幅に削減できるのでありがたい」との意見の方が多いようです。新しい採用のスタイルは、ここで一気に進むのではないでしょうか?
 同様に会議も「WEB会議」が当たり前の時代へと変化するきっかけが今回与えられたように思います。
 WEBを活用したビジネスも一層進むことにつながるでしょう。今までとは違う何かを模索し、構築する。今だからこそ、その知恵を出し合うことが求められます。

3.再開のゴングと共に急激なアクセス、そのアクセスに耐えられる環境の準備を


 世界中の人がビジネス面でもプライベート面でも我慢を強いられています。早く再開してほしい、との願望を強く持っています。一度再開のゴングが鳴れば、一斉に行動できるよう準備をしている人も多くいます。再開のゴングと同時に通常とは異なる量のアクセスがあることを覚悟しておく必要があります。「アクセス集中によりシステムがダウンする」「回線不足によりコールセンターで対応できない」事態を招いてせっかくの顧客獲得の機会を失うことのないよう準備をしておきたいものです。
 このことについては、2つの事例で確認しておきたいと思います。

 「3月3日発表の『楽天モバイル』先行申込について」
 このニュースが3月3日15時過ぎに目に入り、16時からWEBで先行受付開始とのことを知り、私は早速「楽天モバイル」のサイトを訪問しました。
 しかしながら、このニュースを見た人たちが一斉にアクセスしたため、「現在サイトにつながりにくい状況になっています」の画面がでて申込画面につながりません。根気よく何度もクリックして、ようやく申込画面につながりました。早速申し込み手続きを行いますが、私の登録ミスがあり、一度目は正式な申し込みはできず、残念な結果となりました。再度、申し込みをしようとサイトを訪問しますが、「つながりにくい状況……」の画面がでるだけで次に進めません。
 この時の私の心境は、「楽天は16時からWEB受付開始と唐突に発表して、ユーザーの心理をあおっておきながら、つながらない状態になるとは、パフォーマンス先行で顧客の心をつかんでいない!」と不満な面持ちでした。
 この時、冷静に考えれば、先着順で限りがあるような内容でもなかったので、時間をおけばよかったんだと思います。しかし、そこは消費者心理! 早く申し込みたい、と思えばその時に気持ち良く申し込みが完了することが満足度を高め、そうでなければ満足度は高まりません。

 3日は夕食後も時間をおいて何度かサイトを訪ねますが、うんざりするほど同じ画面「サイトにつながりにくい状況……」を見せられました。
 就寝前0時を少し過ぎた頃、これで最後と再度サイトを確認すると、「つながりました!」ただ、それまで回線が混雑していた「楽天モバイル」では「申し込みは楽天市場で受け付けます」に変更され、「楽天市場」のサイトに誘導されました。
 楽天側の判断で、混雑を避けるために回線の混雑する楽天モバイルから、キャパの大きい「楽天市場」のサイトでの受け付けに変更したようです。
 しかも正式な申し込みではなく、仮申し込みを行い、後日(3月末頃まで)正式手続きを行う方式に変更されていました。
 「楽天モバイル」が日本のキャリアとしてどのような存在になっていくか多くの人が注目しているところではありますが、その節目の「先行受付」の場面での出来事にユーザーとして関われたことは興味深い出来事でした。
 もし4日以降も「つながりにくい状況……」画面を続けていたら、マスコミに酷評され、ユーザーの獲得にも大きく影響することになったでしょう。「楽天市場」というサイトを持っていた楽天だからこそできたとっさの機転ですが、うまく危機を乗り越えた例だと思います。

 「みずほの大規模障害、それは震災直後の義援金受付がもたらした!」

 今年2月14日に発行された「みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史」(日経BP刊)は、このコラムの読者なら多くの方が既に読んでおられることと思います。現在(3月10日)もAMAZONの書籍ランキングで銀行・金融業、システム管理・監査、総務・人事・労務管理の各ジャンルで1位の注目図書です。この本では、2019年7月にスタートした新勘定系システムMINORIの開発経緯とその内容について紹介するとともに、過去にみずほ銀行が発生させた2回の大規模障害についても詳細が紹介されています。ここでは、2011年3月に発生させた2回目の大規模障害について確認します。

 それは震災直後の義援金受付がもたらした
 日本に史上最大級の被害をもたらした東日本大震災から3日後の2011年3月14日。テレビ局が番組などを通じて、東日本大震災の義援金への協力を呼びかけたところ、みずほ銀行に用意された義援金口座に振り込みが殺到した。午前10時16分、みずほ銀行の「勘定系システム」に多数の振込データが集まり、「取引明細」の件数が一日に格納できる上限値を超えた。
 14日は応急措置を施して通常の銀行業務には支障なく運用することができたが、夜間バッチの際、この義援金口座の処理で異常終了が発生した。バッチ運用においても「上限値」が設定されており、その上限値を超えたためにシステムが異常終了した。
 みずほ銀行の「勘定系システム」は1988年に構築された古い設計思想をベースとしており、年月の経過とともに担当者への引継ぎが希薄になり、バッチ処理におけるこの「上限値」の存在が把握できていなかったことが対策を後手に回した。
 結果的に夜間実施する「バッチ処理」が完了しないまま15日の通常業務「オンライン」に切り替えようとするが、様々な問題が重なり、1時間以上遅れて店舗業務を開始することになる。
 15日は、今度は携帯会社が携帯電話からの義援金受付を案内し、ここでも前日同様「上限値」を超え、結果として「他行へから受信した振込データの未処理」「ATM停止」「インターネットバンキングの停止」「給与振り込みの遅延」等々金融機関が起こしてはいけないと考えられている正に最悪の障害を発生させた。
 この障害の根本原因は、古い設計思想の基幹システムを使い続けたことにあります。みずほ銀行に限らず、古い基幹システムを使い続けている企業は多くあり、経産省は2025年の壁と名付け、システムの老朽化によるリスクの高まりに警鐘を鳴らしています。
 今回のコロナがもたらした経済危機から脱却する際に、老朽化した基幹システムが足枷となる可能性も十分に考えられます。

 いつコロナは沈静化するのか?
 世界経済へのダメージ、私たちの生活へのダメージは高まるばかりです。ですが、いつかは収束します。ビジネス再開の日が早く到来することを願って、再開の日にスタートダッシュができるよう準備を進めようではありませんか!


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