人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2011/08/18  (連載 第27回)

成人学習の効果を高める「ガニエの9教授事象」

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 連載25回目の記事でご紹介しました、IT人材育成事業 者協議会(ITTVC)が企画している「ITラーニングファシリテーター育成 コース」を9月下旬に開催することが決定しました。詳しくはWEBをご確認く ださい。(→こちら)

(以下紹介記事を一部抜粋)
ITTVCでは、IT人材自身が主体的に学ぶことを支援する指導的人材を 「ラーニング ファシリテータ」と名付け、ラーニングファシリテータを育成す るための研修プログラムを開発して参りました。
 このほど「ITラーニングファシリテータ基礎」として完成させ、これに基づ く指導的人材育成のための研修コースを実施いたします。
  本プログラムは、情報処理推進機構(IPA)のエデュケーション委員会か ら提言されたラーニングプロフェッショナルの知識体系をベースに、成人学習や 教案設計、教材開発の技術、講義における教授方法に関するスキル、教育研修の 評価手法などから構成されます。
 ラーニングファシリテータに求められるスキルを2日間で習得できるのが特徴 です。

 ここから本コラムの本題に入ります。

IT人材自身が主体的に学ぶことを支援するラーニングファシリテータ


 これからの人材育成に求められる姿は、「自立した人材の育成」でしょう。そ こで「教える教育」から、「教えない教育=学習者自身が考え学ぶ教育」に変化 すること、そしてインストラクターでなくラーニングファシリテータを研修の指 導者として配置すること、が時代の要請と考えます。

 ハーバード白熱教室で一躍話題となったマイケル・サンデル教授は、「最高の 教育とは、自分自身でいかに考えるかを学ぶことである」と言っています。そし てサンデル教授は、独自の対話型授業を展開し、「本来哲学とは現実の世界につ ながっているものなのだ」ということを示そうとしました。サンデル教授は、 ITTVCが今後展開するラーニングファシリテータの良き見本となるでしょう。
 研修では、成人学習やインストラクショナルデザインの考え方を取り入れ、学 習者が主体的に学ぶためにラーニングファシリテータが身につけたい要素を織り 込んでいます。今回のiSRF通信では、インストラクショナルデザインのベー スとなっている「ガニエの9教授事象」をご紹介します。

授業設計理論の父 ガニエ教授が考案した「9教授事象」


 フロリダ州立大名誉教授、学習心理学者のガニエ教授は、人間はどうやって新 しい知識や技能を習得するかを分析し、「学びを支援するための外側からのはた らきかけ」という視点で、授業や教材を構成する指導方法についてまとめました。 これを「ガニエの9教授事象」と呼んでいます。

  1. 学習者の注意を喚起する
  2. 学習者に目標を知らせる
  3. 前提条件を思い出させる
  4. 新しい事項を提示する
  5. 学習の指針を与える
  6. 練習の機会をつくる
  7. フィードバックを与える
  8. 学習成果を評価する
  9. 保持と転移を高める
 上記の9教授事象を4つの枠組みに整理して、
 [導入] → [情報提示] → [学習活動] → [まとめ]
 の流れで9教授事象を説明しています。
(1)導入 
「何か」をこの研修でつかもうというモチベーションを喚起する
1.学習者の注意を喚起する
 ・学習者は、この研修を受けて役に立つのかな?と疑問を抱いている
 ・知的好奇心を刺激する「発問」を
 ・受講者が実際に遭遇しているだろう問題や課題を例に挙げる

2.学習者に目標を知らせる
 ・これから学ぶ内容が、仕事や生活にどのように役立つかを示す
 ・どこまで学ぶかの目標を提示する

3.前提条件を思い出させる
 ・研修を受ける前提条件があれば、その前提条件を確認する
 ・前提条件について、いくつかの「問いかけ」を行い確認する

(2)情報提示
 新しい知識を知る段階、インストラクターのプレゼンテーション技術が鍵!
4.新しい事項を提示する
 ・この研修で学ぶ項目を提示する
 ・インストラクターによる、プレゼンテーションの手腕が問われる
 ・「相手を自分の望む方向に導く」

5.学習の指針を与える
 ・前項で学んだことを意味ある形に頭に記憶させる
 ・今までに習得した知識・スキルとの関連性を示して整理する

(3)学習活動
 学んだことが実務に適用できるかは、「学習活動」段階が鍵!
 効果的なワークとフィードバックを実施する
6.練習の機会をつくる
 ・記憶したことを頭から取り出す練習をする
 ・個人ワーク、グループワーク、発表・討議を活用
 ・受講者が能動的に確認するプロセスを提供する

7.フィードバックを与える
 ・練習の出来具合をフィードバックする
 ・失敗経験は、歓迎する(実務でも生じやすいミスを解説し、
 ・失敗経験から学ぶことを奨励する)
 ・積極的に問いかける

(4)まとめ
 「この研修を受けて役に立った」と思えるようなまとめを心掛ける
8.学習成果を評価する
 ・テストを実施する
 ・口頭での発問等、理解の度合いを確認する

9.保持と転移を高める
 ・学習した成果を長持ちさせ、他の学習への応用ができるようにする
 ・学習した内容の応用・発展問題を示し、実務に適用できるようにガイドする
 ガニエの9教授事象は、教案設計、教材開発そして教授法のどの場面でも適用 できます。また、適用することで学習者を中心とした研修のデザインができます。
 「ITラーニングファシリテータ基礎」研修では、インストラクションの経験 のある受講者との対話型で相互研鑽型の運営を予定しています。そして、今回ご 紹介した「ガニエの9教授事象」に照らして、「これまでどんな工夫をしてきた か」、また「どんな失敗をしてきたか」を聴き、それぞれの工夫や失敗経験を共 有することで指導者としてのスキルの向上を目指します。

 多くの方に見ていただき、忌憚のないご意見をいただきながら、研修の質の向 上も図っていきたいと開発推進メンバーとして願っています。

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