人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2011/09/15  (連載 第28回)

機会(チャンス)は、つくるもの

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

内村鑑三著「代表的日本人」より

 西郷隆盛は言いました。
「機会には、二種ある。求めずに訪れる機会と、我々の作る機会とである。世間 でふつうにいう機会は前者である。しかし真の機会は、時勢に応じ理にかなって、 我々の行動するときに訪れるものである。大事なときには、機会は我々が作り出 さなければならない」(代表的日本人 内村鑑三著 岩波文庫より)

 内村鑑三の「代表的日本人」は、新渡戸稲造「武士道」、岡倉天心「茶の本」 と並ぶ、日本人が英語で日本の文化・思想を西洋社会に紹介した代表的な著作で す。内村鑑三は、奔流のように押し寄せる西洋文化の中で、どのような日本人と して生きるべきかを模索して、「西郷隆盛」、「上杉鷹山」、「二宮尊徳」、 「中江藤樹」、「日蓮上人」の5人を取り上げました。そして、最初の代表的日 本人として紹介しているのが「西郷隆盛」なのです。

 内村鑑三は、西郷隆盛を「純粋の意志力と道徳的な偉大さ持った人」と紹介し ています。「生財」と題された西郷の文章から、引用している以下の部分が印象 的です。
「徳は結果として財をもたらす本である。徳が多ければ、財はそれにしたがって 生じる。徳が少なければ、同じように財もへる。財は国土をうるおし、国民に安 らぎを与えることにより生じるものだからである。小人は自分を利するを目的と する。君子は民を利するを目的とする」

失われた10年の先進国「日本」

 混沌とした経済情勢が続く中で、かつては「失われた10年」と揶揄(やゆ) され、日本だけが経済成長に乗り遅れたと言われてきました。しかし、英フィナ ンシャル・タイムズ紙は日本の「失われた10年」の8つの特徴を挙げ、欧米社 会における現在の情勢が、これらの特徴すべてを備えている、つまり欧米諸国が 今「日本化」していると指摘しています。

 世界で起こっている「日本化」現象。決して自慢にならない話ですが、失われ た10年を逸早く経験した国として、世界に範を見せることが求められているの ではないでしょうか。

 その解は、「機会は自ら作る」、「徳と財の正しい関係を学ぶ」ことにあるよ うに思います。

「問題は状態」、「課題は行為」

 「機会は自ら作る」という命題に関しては、多くの方の賛同をいただけると思 います。ただ、「どうやって?」となると具体的な展開で足踏みすることがあり ます。
 ある企業の変革プロジェクトのファシリテータとして参画させていただく中で、 事務局から、以下のような質問と要望をいただきました。
「先日のファシリテーションから、合意形成のための評価基準については、メン バーの納得が得られました。ところが、そもそも各プロジェクトの課題が、この 表現でいいのかという疑問が出てきました。課題のレベルや表現について、次回 ファシリテーションをお願いします」
 そこで以前もご紹介した創造的実行プロセス(*)を用いて、ファシリテーションを 行いました。

 (*)創造的実行プロセス:B-CEP(ビーセップ)と呼びます(詳しくはこちら http://www.b-cep.com/b-ceptop.htm )


「問題は状態、課題は行為」
 「売上が下がった」、「赤字になった」、「効率が上がらない」、「生産性が 低い」といった問題は、いずれも状態を表記したものであり、このままでは解決 につながりません。つまり、問題とは状態を示すものであり、解決に向けての表現ではないということです。

 問題解決に取り組むときは、問題の状態から、「どうしたいのか」を宣言しま す。「売上を上げる」、「赤字を解消する」、「効率を上げる」、「生産性を上 げる」といった行為の表現が語尾に加わると、問題解決に取り組むことを宣言し たことになります。このように語尾が行為の表現となっているものを「課題」と いいます。
 先ほどの事務局の質問は、この課題表現をどうすれば、プロジェクトの展開に つながるかを問うものでした。
 課題表現が、具体的で明確になっていれば、取り組むことが明らかになります。 例えば、「売上を上げる」という課題は、問題解決の結果を示した表現ですので、 もう少しブレークダウンした課題を設定する必要があります。

 ・「売上が下がった原因を究明する」
 ・「市場動向を調査する」
 ・「競合製品との比較分析」
 ・「売上向上策の策定」

 こういった、課題に展開できれば「何をいつから、どのように着手するか」を 明らかにできます。
 一つの問題現象や、新たに設定した目標に対して、具体的に取り組むためには 「課題設定」が重要です。「機会はつくるもの」とは、何も特別なことをするこ とではなく、「ありたい姿」を描き、一歩ずつ設定した課題を実行していくこと です。
 そして、改革案を検討する時、西郷隆盛の言う「小人は自分を利するを目的と する」ような財の考え方をベースとした変革や改善案でなく、「徳と財の正しい 関係」を踏まえた改革案が求められる世の中になってきた、そのように感じます。

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