人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2013/12/17  (連載 第55回)

「人間関係の銀行」に投資する

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 今年も残すところ僅かとなりました。読者の皆様は、“師走”と言うに相応しい忙しい日々を過ごされているのではないでしょうか。
 2009年6月からこのコラムを書き始め、今回で55号になりました。iSRF理事長の田口さんからは、「目指せ100号!」と励まされています。それまで続くかどうかは分かりませんが、私のコラムをそれだけ掲載し続けても良いよ、というそのメッセージを大変有難く感じています。
 2005年から個人事業主として、企業の研修講師を専らの仕事としている私にとっては、iSRFを通じた縁はとても大切なものです。iSRFセミナーや交流の場が、新しい人と出会い、新しい刺激を頂く機会となっているからです。
 それまでの安定した仕事から身を転じ、個人事業主という収入の上では不安定な環境に身を置いた私。そんな私を心配してだとは思いますが、周りから批判さ れることも多くありました。同期入社の人たちが定年を迎え始め、中には役員として、子会社の社長となってまだまだ活躍する人もいます。そうした節目となる 時期が近付くにつれ、自分の選択はどうだったのかと自問自答することも少なくありません。

 ただ、金銭的なことを除けば、実に自由にそして目の前のことに集中できる仕事に取り組めていることを嬉しく思う自分もいます。
 私の現在の興味関心は、担当した研修の終了時に提出いただくアンケートの評価です。
 5点法の評価で、全員から5点の評価を頂きたいと願い、終了後に提出されたアンケートを確認します。4点の評価とした人がいれば、「研修中にその人にど れだけ語りかけられたか?」を振り返ります。中には3点という厳しい評価をする方もいます。3点はショックです。どうして研修の場で感動や気づきを伝える ことができなかったのかと、悔やみます。振り返ると、原因はあるものです。

 一人ひとり価値観は異なり、また研修を受けるに際して、受講動機も異なります。そのような環境の中でどうすれば全員が“5点”の評価を出してくれるか?  そんなことを気にかけながら、先日行った研修で遂に全員から5点を頂くことができました。厳密に言えば、講義内容に関しては4.5、講師についての評価 が5.0。まだまだ改良の余地がある結果ですが、ひとまず目標としていた「講師評価が5.0」をクリアしました。
 その研修の受講人員が14人と比較的少なかったことも幸いし、研修では全員に声を掛けることができました。研修テーマは、私が取り組んでいる問題解決法 “創造的実行プロセス(B-CEP)”の学習。対象はIT企業のリーダー層。
 研修では、問題解決法のツールの使い方を学習するだけではなく、職場で使えるツールとなるように、2日間の研修の2日目の午後はグループで一つの実務課 題に取り組みます。今回の実務課題は3チームとも配下のメンバーに関する育成やローテーションに関する「人に関するテーマ」を選定しました。人事部門に長 くいた私の経験、そしてこのコラムを作成する中で学んだ知識など、頭の中にある引き出しを総動員して、受講者とともに一緒にテーマに関して議論 することができました。

 かつて教育担当者として問題解決法を導入する側にいたころ感じていた問題、「方法論」は単なる道具でしかないのに、「方法論を学ぶことが研修の目的」と なっている研修。このことを改善することが、独立したきっかけでもあります。
そのため、私の研修講師としてのミッションは「B-CEPを道具として、職場の問題解決に役立てること」です。
 そして、ようやく全員にそのメッセージが伝わったのかと大変嬉しく思ったアンケート結果を得られました。と同時に、やりたいことをやらしていただきなが ら、共に充実感を感ずることのできた研修でした。
 不安定な仕事ゆえ、来年どうなるかは分かりません。何せ営業するということが全く苦手な私ですから、来年はどんな風が吹くのか予想もつきません。ただ、 お金を求めるのでなく、やりたいことをやりながら、誰かのためになっていれば、それはそれで幸せかなと思います。

 資本主義の世界で生活している私達には、「お金」という数値で表せるものをベースに目標を立て、結果もその数値で評価されることが多々あります。特に企 業にお勤めの方は、この傾向が強いと思われます。そこで、本来の事業目的ではなく、数値目標(お金の獲得)が目的となって活動している人も見受けられます。
 このような場合、一生懸命に働いておられても、他人はその人に尊敬の念を抱きません。他人が評価するのは、どれだけ意義のあることをしたか、社会に貢献 しているか、他者の役に立っているか…。つまり数値では表し難い事柄が、評価の基準になっています。

「あの人にはいつもお世話になっている。いつか恩返しがしたい」
 人の縁は、そんなことがとても大事な要素だと思います。
 そんなことを思いながら、今号のコラムの参考になる本を書店で求めました。
『ブッダが職場の上司だったら』(日本文芸社刊)
 タイトルに興味を持って手に取りました。今年の10月に発行された新刊で、UCLAの教授で仏教研究家のメトカルフ氏とコンサルタントのギャラガー氏の 共著となっています。お二人のことは存じませんでしたが、仏教について良く研究され、またコンサルタントの目から「現代の仕事」と「ブッダの教え」をうま く関連付けられています。皆さんにもお勧めしたい一冊です。
 その中でこんな一文がありました。
 本当の幸福は自分の外部にある成功によってもたらされるのではなく、自分の価値観や信念に従って生きているという実感から生まれる心の安らぎに よってもたらされるものだからです。
 報酬や成功を求めずに他人の役に立つことによって、自分がなりたい自分になることによってもたらされるものだからです。    (中略)
 結局は「人間関係の銀行」への投資が最も大きな見返りを生みます。
 アベノミクスで賑わっているお金に対する投資の市場ですが、来年は「人間関係の銀行への投資」--これを重視する年にしたいと思います。
 今年も一年間お読みいただきありがとうございました。また、来年もこのコラムを続けさせていただきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。 皆様にとって、来年が良き年でありますことを心よりお祈り申し上げます。

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