人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2014/02/17  (連載 第57回)

「創造的IT人材育成方針」を実践することがIT業界の責務

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 2013年12月20日高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部より、「創造的IT人材育成方針」が発表されました。
(詳細はこちらを参照ください http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/dec131220-2.pdf
 この方針の「3.2.2 IT利活用社会を支える人材に対するアプローチ」の項の冒頭部分を紹介します。
 昨今の技術の急速な進歩及び環境の急激な変化から、産業界では経営目標達成のために必要なIT人材の確保・育成が強く求められる。しかし、IT化がイノベーションとして認められたこの十数年、急速に拡大したビジネスの中で人月を確保することが急務となり、ITスキルの向上に関する取組や人材育成の仕組みづくりに課題を残したままとなっており、その結果、国際競争力の低下だけではなく若手人材のIT業界離れも見受けられる。IT業界や分野でのキャリアを希望する人材の不足と同時にITを使ってイノベーションを起こしていくことができる人材の発掘や育成に関する知識・経験不足も伴い、これからの社会を担うIT人材の育成に関する仕組みづくりは困難を極めている。このような背景を踏まえ、ここではIT利活用社会を支える人材として分類される「ITを業務やビジネスに活かすことができる人材」と「安全・安心にITを製品・サービスなどに実装する人材」に該当する人材の育成アプローチについて、対象者が体得すべきITの専門知識・スキルを踏まえながら記述していく。
 アベノミクスの効果か日本全体の景気は上向き、またIT業界にとっては消費税UPに伴うシステム改訂の特需もあり、需要の急増に人材確保が追いつかない状況があちこちで聞こえてきました。すでに、情報サービス産業の動向調査では、先行きの人材の需給のDI値はマイナスになり、供給不足が明らかになってきています。

 方針に記載されている通り、ここでまた「人月確保」を中心とした急場しのぎをするのか、真に求められる人材の確保と育成に取り組むのかで、その企業の将来性が変わってくるものと思います。
 性懲りもなくまた人月確保の急場しのぎを業界全体で行なう様であれば、方針が目指している「2020年までに『世界最高水準のIT利活用社会』の実現を目指す」は絵に描いた餅となることでしょう。
 業界全体でこの方針の趣旨を汲み取り、共感し、政官産学一体になっての取り組みが必要です。
 この方針は、内閣総理大臣を本部長とする「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」でまとめられました。通称IT総合戦略本部と呼ばれるこの組織は、全ての国務大臣並びに有識者を本部員として構成する日本の情報政策の要となる組織です。
 今回私の知人が、「創造的IT人材育成方針」の策定に関わったこともあり、この組織の活動内容を知り、日本を代表する有識者の見識が盛り込まれた方針であることを確認しました。この方針の目標は次の通り。
 「国民全体のIT利活用能力の底上げ」と「我が国の経済発展に寄与する高度なIT人材の創出」によって、さらなる経済成長の基盤を構築し、2020年までに「世界最高水準のIT利活用社会」の実現を目指す。
 ちょうど東京オリンピック開催の2020年に照準を合わせ「世界最高水準のIT利活用社会」を実現する目標が設定されています。世界中から注目されるオリンピックの開催の年に、日本がIT利活用においても「世界最高水準」と評価される環境が整備できていれば、お年寄りから若者まで、生き生きして明るく活躍する姿を、そこに想像することができます。

 方針の副題として、「~ITとみんなで創る豊かな毎日~」が掲げられており、国民全員が、この目標達成のために叡智を集め努力する必要性を感じます。
 方針には3つの柱があります。
 (1)国民全体のITリテラシーの向上
 (2)IT利活用を支える学習環境の構築
 (3)国際的にも通用・リードする実践的かつ高度なIT人材の育成
 それぞれの柱に関して、きちんと言葉の定義を行い、明確な目標を定めています。例えば、「国民全体を対象とする」その国民を「就学前の子ども」「学生」「就業者」「非就業者(高齢者含む)」と分類し、それぞれに対する課題・目標を提示していることがこの方針の特徴です。
 課題・目標を明らかにしてから、最後にKGI(Key Goal Indicator)とKPI(Key Performance Indicator)を設定していることもこの方針の特徴と言えます。目的・目標を明らかにして、その目標が達成できたかどうかを測る指標KGI、KPIを定めた今回の方針は、これまでの手段先行の取り組みではなく、その本気度が表れていると評価できます。

 さて、この方針が審議され承認された昨年12月20日「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(第63回)」の会合では、本部員である東大の坂村教授の意見書が提出されていました。この意見書には共感すること多く、皆さんにも是非確認していただきたいと思います。意見書の冒頭部分を紹介します。
 日本では哲学議論を飛ばして工程として進めたいという姿勢が強く見られる。哲学議論は日本人の不得手なところだが、哲学と戦略目標の確定からはじめないと、戦略でなくただの戦術の束になりやすい。問題は哲学がないと場当たり的になることである。分科会がたくさんあって本部員が出席するのは大変という状況は、そもそもそうしないとバラバラになる不安があるからではないか。哲学や戦略目標や大戦略があり、それが皆に理解されていれば、戦術立案は分散的に行えるはずである。日本の失敗パターンで、哲学や戦略目標をちゃんと持たないため状況の変化に対応できず、手段と目標の混同がおこり迷走するのは典型である。 (続きは、こちらを確認してくださいhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai63/siryou8-3.pdf
 これから、関係省庁並びに関係部門がこの方針の具体策を展開することになるようです。しかし、政府の発表を待つのではなく、ITの普及に関わる私たちが率先して取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。
 是非、この方針をお読みいただき、ご意見をお寄せください。頂いたご意見は、必ずIT総合戦略本部関係者に連携させていただきます。
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