人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2014/09/17  (連載 第64回)

新時代の徒弟制度、OJL(On the Job Learning)の定着と実践 シリーズ(5)学びたくなるARCS動機付けモデル

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 「OJLの定着と実践」をテーマに連載している本コラムですが、今回でシリーズ5回目となりました。ここで、これまでのシリーズを少し振り返ってみたいと思います。
✓ シリーズ(1)成人学習(コラム5月)

 「指導する対象者は、成人である。成人である彼らは『学び方は知っている』 という前提で、『教え込もう』とせず、『自ら学ぼうとする姿勢』を支援する態度、ファシリテーション力やメンタリングの要素を身に付けて展開することが求められる」


✓ シリーズ(2)教案設計(コラム6月)

 「何を学ばせるのか?」、「何故その学習をさせるのか?」、「学習者は誰で、どんな素養を持ち、どんなことに興味・関心を示すか?」教案設計を行う上で、学習者のモデルを明確にすることが重要


✓ シリーズ(3)ラーニングオブジェクトを定義する(コラム7月)

 「教材の再利用」が可能なように、コース⇒レッスン⇒ラーニングオブジェクトを定義して教材を開発するラーニングオブジェクトが整理できていれば、その組み合わせで学習者に応じたレッスンが組み立てられる


✓ シリーズ(4)学習の組み立てガニエの9教授事象(コラム8月)

 ガニエは、「学習のプロセス」を効果的なものとするために、指導者は外側からどのような刺激「教授事象」を与えるべきかを定義した学習者の長期記憶に留まるよう、学習のプロセスに沿って学習内容を展開する

 これまで、インストラクショナルデザインの基本に従って、コラムを展開してきました。

「職場での指導のためにこれだけの準備をするのは現実的でない」
との意見も聞こえてきそうです。従来のOJTの概念では、指導のための準備にここまで時間を割くことは想定していなかったように思います。
 指導対象者の学習支援だけが目的であれば、この準備時間を割くことには抵抗があるかもしれません。しかし、「指導者自身の指導力の向上」、より上位職に就いた際に発揮できる「マネジメント力の向上」も目的にあるとすれば、準備のために時間を割くことは大いに意味がある、と賛同していただける方も増えるのではないかと思います。

 指導のための準備が整ったところで、いよいよ指導の実践段階に入ります。
 集合研修とは異なり、職場での1対1あるいは少人数に対しての指導であれば、学習者も一生懸命学習するに違いありません。いや、学び成長してもらわなければなりません。
 それでも、「学び」の成果には差が出てきます。
 差が生じる最も大きな要因は、本人の適性でしょう。次に大きな要因となるのは、「動機付け」です。状況によっては、本人の適性以上に強い影響を及ぼすこともある要因です。

「学習者が、学びたいと思える内容か?」
 自分が学びたいと思える内容に関しては、どんどん吸収し、いつの間にか自分の得意な分野となっていく。当初適性面で心配だった人も、うまく動機づけられた結果、見違えるような成果を発揮する例も少なくありません。指導者としては、うまく「動機付け」できるかが課題となります。
 アメリカの教育工学者ジョン・M・ケラーは、この動機付けについて研究し、学習意欲を高めるための「ARCS動機づけモデル」を提唱しました。
 学習意欲を高める手立てを4つの側面に分けて、
注意 (Attention)  ≪面白そうだなぁ≫
関連性(Relevance)  ≪やりがいがありそうだなぁ≫
自信 (Confidence) ≪やればできそうだなぁ≫
満足感(Satisfaction)≪やってよかったなぁ≫
これらの動機付けの要因を学習プロセスに組み入れること、この4つの頭文字をとって、ARCSモデルと名付けたのです。
 ARCS動機付けモデルについては過去のコラムで2度取り上げています。
✓ 2010/11/17 (連載 第18回)

職場の指導にもARCS動機づけモデルを取り入れる
 (http://www.isrf.jp/home/column/ando/18_20101117.asp)


✓ 2013/07/18 (連載 第50回)

自身の中にある動機付けの体験
 (http://www.isrf.jp/home/column/ando/50_20130718.asp)

 また、ITHRDのホームページでもARCSモデルについて紹介しています。
 (http://www.ithrd.jp/index.php/blog/ojl/97-2014-09-11-03-43-39)

 学習の開始にあたっては、動機づけの一つの要因である「好奇心」を駆り立てることに注力します。そして、学習内容の展開においてはもう一つの動機付け要因「達成動機」を高めることに気を配りながら展開します。
 私のように研修を運営する講師は、研修の最初の段階で「好奇心」を駆り立てられるか。つまり“A”≪面白そうだなぁ≫と感じてもらえるかに気を配ります。気を配ってはいても、初めての研修では期待通りの「掴み」が得られないこもしばしばあります。「掴み」がうまくいかなかった研修は、途中でのリカバリが大変です。

 毎回異なる人を対象にするのですから、こちらの想像通りにうまくことが運ばないこともあります。しかし、そのようなような経験から工夫し、改善することで自分なりのスタイルが出来あがってきます。
 ≪面白そうだなぁ≫と好奇心を刺激して、≪やりがいがありそうだなぁ≫と達成動機につなげられれば、学習者は自らの意思で学ぼうと努力し始めます。
 受講者が学ぶ気になってこそ、時間をかけて準備してきたことが活きるわけですから、「ARCS動機付けモデル」は意識したい重要なファクターですね。

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