人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2015/04/20  (連載 第71回)

OJLファシリテータの育成が急務

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 厚生労働省は、3月31日に平成26年度「能力開発基本調査」を発表しました。本調査は、国内の企業・事業所と労働者の能力開発の実態を、正社員、正社員以外別に明らかにすることを目的として平成13年度から毎年実施している調査です。詳しくは、こちら(クリック)をご覧ください。
 調査結果を抜粋してご紹介します。
 まず「人材育成に関する問題点」に関して、「何らかの問題がある」と回答した事業所は、75.9%と前年の同調査よりも5.2ポイント増えています。その理由は、
  (1)指導する人材が不足している   52.2%
  (2)人材育成を行う時間がない    48.8%
  (3)人材を育成しても辞めてしまう  40.0% と続いています。

「OJTか、OFF-JTか」
  正社員に対する重視する教育訓練については、
  「OJTを重視するまたはそれに近い」とする企業が、   73.4%
  「OFF-JTを重視するまたはそれに近い」とする企業が、24.9%
  正社員以外に対する重視する教育訓練については、
  「OJTを重視するまたはそれに近い」とする企業が、   77.3%
  「OFF-JTを重視するまたはそれに近い」とする企業が、19.7%

OJTを重視する傾向が強いものの、計画的にOJTを実施した事業所は、
  正社員に対しては、    62.2%
  正社員以外に対しては、  31.1% 
  と特に正社員以外の人材育成には課題があることを示しています。

一方技能継承の取り組みを行っている事業所は、83.8%と高く、
その取組の内容は、
  (1)退職者の中から必要な者を選抜して雇用延長、嘱託による
     再雇用を行い、指導者として活用している       47.1%
  (2)中途採用を増やしている               39.5%
  (3)新規学卒者の採用を増やしている           29.0%
  (4)技能継承のための特別な教育訓練により、若年・中堅層に対する技能・
   ノウハウ等伝承している               21.4%
  と続いています。

能力開発の考え方について、「企業主体」か「労働者個人主体」か
  正社員に対する能力開発の責任主体については、
  「企業主体で決定」するまたはそれに近いとする企業が、   78.3%
  「労働者個人主体で決定」するまたはそれに近いとする企業が、21.0%
  正社員以外に対する能力開発の責任主体については、
  「企業主体で決定」するまたはそれに近いとする企業が、   64.9%
  「労働者個人主体で決定」するまたはそれに近いとする企業が、33.2%
 この調査結果を見て、皆さんはどのように感じられるでしょうか。
 私は、企業の人材育成のお手伝いをさせて頂く中で感じている実態とほぼ同じ結果がでたと感じました。すなわち、
  1. 「人材育成に関しては、OJTを中心として取り組み、補完的にOFF-JTを活用する。」という企業の基本方針に変わりはないものの、実態としてはそ のOJTがうまく機能していないために、人材育成に関する問題が顕著になってきている。
  2. 「成果主義人事制度」を導入し、個人成果に焦点を当てすぎた企業は、長期的な観点からの組織の成長、「育てる文化」を形成することが疎かになっているのではないか。その結果、現場の4分の3以上が「人材育成上の問題がある」ことを認識し、その理由として、「指導者不足」と「人材育成のための時間が確保できない」ことをあげている。
 リーダー層を対象にした問題解決の研修の中で実務課題を扱うと、受講者の8割近くが「部下の育成」に関するテーマを取り上げています。リーダー層である受講者は、「OJTを計画的に遂行する」を解決策として導き出します。
 研修で導き出した解決策を実行に移せているでしょうか?
 稀に、熱意を持って実行に移したという話を聞きます。このような受講者は、意志が強く、今後組織の中核となって成長していくことが期待できる人物かと思います。研修での結論が、実務に展開できたという話を聴くと正に講師冥利に尽きる気持ちになるものです。
 「稀に」と表現したのは、残念ながら他の多くの実態は、研修での結論は「あるべき論」を導いただけで、現場に戻ると「目の前」の多くの課題に忙殺され、「あるべき論」は取り組みの優先順位が下がり、棚上げにされている状況です。
 現場のリーダー層に「人材育成」を任せっぱなしにせず、企業全体で「人が育つ文化作り」に取り組む必要があるように思います。
 本コラムを通じて昨年4月より、「新時代の徒弟制度、OJL(On the Job Learning)の定着と実践」をテーマにシリーズでお伝えしてきましたが、このOJLを推進する指導者(ファシリテータ)の育成が急務であることを今回の調査結果が示しています。
 IT人材育成協会(ITHRD)では、早速今回の調査結果を議論して、OJLを推進する指導者(ファシリテータ)をOJLF(On The Job Learning Facilitator)として定義して、その育成に取り組んでいくことにしました。
 どのような育成プログラムとするか現場のニーズを確認しながら、今後展開することになります。

 さて、調査結果で一点意外な結果が出ていました。それは、「技能継承の取り組みを行っている」事業所が、8割強と高い数値だったことです。その取り組みの内容も一番多かったのが、「退職者の中から必要な者を選抜して雇用延長、嘱託による再雇用を行い、指導者として活用している」との回答です。この数値と私が普段感じている実態とに乖離があります。
 「本当に技能継承はうまく進んでいるのでしょうか?」
 団塊の世代が定年を迎え、近年では退職者数>採用者数が続いている企業も多くなっています。
 若い人達は、「あの人がいなくなったら、誰がやるんだろう?」と不安な思いでいたら、突然自分に降りかかってきて、不安は的中、大変な思いをしている。なんて話も聞きます。決して技能継承、伝承がうまくいっていないのが実態のように感じています。
 皆さんの職場では、うまくいっているのでしょうか?
 「定年退職者の雇用延長と技能伝承」、このテーマも多くの企業が取り組まなければならない課題となっています。
 個人としては優秀でしっかりした技能を有している高齢者は沢山います。しかしながら、自分の仕事に磨きを掛けることに熱中してきた人が、ある日突然指導者として、後進の指導の役割を担うことになると戸惑いが生じます。
 ある人は、熱心に手取り足取り「教え」ます。指導される側の「気持ち」や「受け入れ準備度」に配慮せず教えた結果、思うように「伝承」が進みません。そこで指導者は思います「最近の若い奴は、根性が足らん!」などと…。
 また、ある人は「自分の背中を見て学べ」式に、自分が育った時と同じように何も伝えず、自分の仕草から学べと、放任スタイルで接します。相手が、「この人から学びたい!」との欲求を持っている状態ならうまくいくでしょうが、この時、自分の担当業務も抱えている状況だったなら、「伝承」の課題の優先順位は低くなり、結果としてうまく「伝承」できないことになります。
 「技能伝承」の役割を担う高齢者をOJLFとして任命し、「ラーニングファシリテータ」としての学習をしてもらうことが必要に思います。
 「人が育つ文化作り」を実現したい企業であれば、管理職の任用要件にも「OJLFの経験」を加え、「人を育てる」ことについての学習とともに、実際の指導経験を必須とすることで、「個人としての成長」と「組織としての成長」がバランスよくマネジメントができる管理職の育成につながることと思います。

 今後、IT人材育成協会(ITHRD)を通じて、「OJLF育成プログラム」の開発と普及活動を展開する予定ですが、ご賛同いただける方は、是非ご意見をください。できれば、一緒に「人が育つ文化作り」を検討しませんか。

【 ojlf.mail@b-cep.com (安藤が管理するアドレスです)までご意見いただきたくお願いします】


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