人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2016/03/18  (連載 第82回)

「WHY?」をうまく使う

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 人財開発に携わる方は、新入社員の受け入れ準備で大忙しの時期かと思います。
 今年は、どんな人たちが入社してくれるでしょうか。元気で、主体的に行動してくれる人たちであってほしいですね。人財開発に関わるスタッフは、新入社員を育てることがミッションですから、他力本願に「こうであってほしい」などとは、言ってられません。新入社員の行動が、受動的となるのか、能動的となるのかを決めるのは、人財開発に関わるスタッフのサポートの仕方次第と言っても過言ではないでしょう。
 今回のコラムでは、「新入社員を主体的行動に導くポイント」として、「WHY?」をうまく使う、をテーマに紹介します。

 私たちは、問題に直面すると、問題の現象面をみて、その対策を急ぐことがしばしばあります。
 「挨拶をしない新入社員Aさん」
 ⇒ Aさんを呼び、元気な挨拶をするよう指導した。
 数日間は、挨拶をしていたようだが、再び挨拶をしなくなったAさん
 さて、ここで皆さんなら、Aさんにどんな指導をしますか?

 「たびたび遅刻をするBさん」
 ⇒ Bさんを呼び、社会人としてのあるべき姿を説き、指導した。
 遅刻が悪いことは理解しているようだが、また遅刻したBさん
 さて、ここで皆さんなら、Bさんにどんな指導をしますか?
 「挨拶しない」、「遅刻した」といった現象面をみて、最初はその現象の是正を指導することは間違いではありません。しかしながら、その指導をした後も繰返し同じ現象が出てくるのであれば、一歩踏み込んだ質問をしてみることが必要でしょう。

 「なぜ?」(WHY?)
 この時の「WHY?」は、論理的に正しい解を見つけるためのものではありません。
 アクティブリスニング(積極的傾聴)を開始するゴング(鐘)が、このWHYと言えます。
 アクティブリスニングのスイッチをひとたび入れたのなら、創始者のカール・ロジャースが導き出した真理「人は、自分の経験が尊重され、理解されていると認識すると、相手を信頼する」を信じて、相手を信頼し、共感的に“聴く”ことに徹します。
 「挨拶」や「遅刻」のあるべき論をこちらから語ることなく、相手が考えることに耳を傾けます。やがて、「正しい行動」を自ら語り出すのを待ちます。厳しい採用選考を経て仲間になった新入社員ですから、主体的に正しい行動ができる人であると信じたいものです。そして、その支援者として人財開発スタッフが関われることが理想です。
 新入社員研修を見守るスタッフは、このアクティブリスニングがうまくできた後に急速に相手との距離が短くなり、周囲との信頼関係も高まります。順風満帆な時よりもぐっと関係性が良くなるチャンスですから、うまく使いたいWHY?ですね。

 一つ目のWHY?の使い方は、アクティブリスニングのゴングでした。
 「WHY?」を使うときは、何か解決すべき問題があるときです。
 WHY?によって、原因を探りたい場合もあれば、
 WHY?によって、目的を知りたい場合もあるということを意識しておきたいものです。

 二つ目のWHY?「原因究明」
 WHY?の使い方として最もポピュラーな使い方がこの原因究明かもしれません。「なぜなぜ分析」やトヨタの「5なぜ分析」が有名なように、なぜを繰り返し、真の原因を探求する問いかけです。
 以前このコラムでもなぜを繰り返す必要性について紹介したことがあります。(2011/03/24 [連載 第22回]相手の真意を引き出す質問「と、いうと?」

 さて、演習課題を出すと、回答を急ぐ新入社員の中には、何とか正解を求め「どうすれば良いか?(HOW?)」と質問をしてくることがしばしばあります。この質問が出た際のガイドの仕方に工夫が必要です。
 この場合のステップとして、WHERE、WHY、HOWを唱える問題解決の著書もあります。
  WHERE 問題がどこにあるのか
  WHY   その問題の原因は何か
  HOW   ではどうすればよいか
 新入社員の質問に対しては、WHEREで何が理解できていて、何が理解できていないかを整理し、理解を妨げている箇所(原因)を探り、その箇所(原因)の学習を深める、あるいは別の学習方法を探るなどして対策を考えるというプロセスを踏みます。ここでは、最初にWHERE?で問題の箇所を特定している点が重要です。いきなりWHY?と聞かれて整理できなかったことが、WHERE?で整理してから、WHY?と聞くと原因の特定につながるものです。

 三つ目のWHY?「目的の理解と共有」
 WHY?(何のために、このことをしなきゃならないんですか?)
 ごちゃごちゃ言わずに、君は言われたことをやっていればいいんだ!
 一昔前は、こんな会話はどの職場でも当たり前にありました。
 この結果、生み出したのが「指示待ち族」であり、「言われたことしかできない社員」、「受動的で自ら考えた行動ができない社員」でした。

 新入社員は、いくつもWHY?と投げかけます。そのWHY?の比重は、原因方向ではなく、目的方向に向いたものがほとんどであるといっても過言ではないでしょう。社会人となって、新しいことに日々出会い、新鮮に「WHY?」と疑問が生じます。
 この新鮮なWHY?への回答次第で、新入社員の士気、主体的な行動を決定づけることにつながります。
 先日、ある勉強会があり、この新入社員の様々な問いに関する回答を
  WHAT?なすべきこと
  WHY? 何のために
  HOW? どうやって
で整理する演習を行いました。
私も学習者の一人として、「課題設定力とは?」というテーマで整理しました。

「課題設定力とは?」
WHAT?なすべきこと
 課題設定力とは、数ある課題の中から「何に取り組むか」を決めるスキルです。
WHY? 何のために
 自分自身が持っている時間には限りがあります。組織やチームが有している資源(人・物・金・時間)にも限りがあります。沢山取り組みたい課題がある中で、最も優先度の高い課題に取り組むことが求められます。そのために課題設定力は重要なスキルです。
HOW?
 取り組むべき課題、取り組みたい課題を抜けもれなく列挙する。
 列挙した課題の中から重要度、緊急度等の評価を行い、優先度を決め、取り組む課題を決定します。

 このWHY?の説明で新入社員が腑に落ちれば、学ぶ意欲や今後の成長にも影響します。皆さんも想定質問に対して、このWHAT?WHY?HOW?で整理してみてはいかがでしょう?

この記事へのご意見・ご感想や、筆者へのメッセージをお寄せください(こちら ⇒ 送信フォーム