人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2016/06/21 (連載 第85回)

年次評価面談、階級制度を廃止する動きが急ピッチで広がっている

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 2015年5月の調査でフォーチュン500社の10%以上の企業が、年に1回の評価・ランキングを廃止し、継続的なコミュニケーションを中心とするパフォーマンス・マネジメントの革新に取り組んでいることが判明しました。そしてその勢いは2016年に入ってからさらに加速しており、2017年までにはその割合が50%にまで達すると予測する研究者も現れているとのことです。

 先月米国コロラド州デンバーで行われたATD2016。そのATD2016に日本から参加したメンバーらが内容を紹介する報告会で、前述のテーマが取り上げられ、私は遅ればせながら、この潮流を知りました。早速調べてみました。
 参考になったのは、パフォーマンス・マネジメント革新(PMI)という株式会社ヒューマンバリューが運営するサイトです。PMIでは、3月18日に「パフォーマンス・マネジメント革新フォーラム」を東京御茶ノ水で開催し、この世界的な動きについて講演とパネルディスカッションを行っています。
 以下PMIのWEBから抜粋して紹介します。(詳しくは http://www.pmi-forum.com/ をご覧ください)

 新たなパフォーマンス・マネジメントの模索につながっている要因は以下の3つです。
(1)ビジネス環境の変化、ビジネストレンドの変化
(2)「従来のパフォーマンス・マネジメントの課題
(3)ニューロサイエンスの進化による新たな発見

 2番目の「従来のパフォーマンス・マネジメントの課題」についてみますと、
 今、見直しの機運が高まっているのは、以下のような現行のシステムに課題があるからです。
(1)従業員やマネージャーのエンゲージメント(愛着心や思い入れ)を低下させている
  • 人を評価することが「好きでない」「得意でない」といった拒否反応がある
  • レイティングによってモチベーションが上がる人はほとんどいない
(2)マネージャーとメンバーの関係を悪化させている
  • レイティングがメンバーを不安にさせる
  • 評価者のバイアスによって、客観性・公平性を担保できない
(3)かけるコストと得られる成果・効果がつり合わない
  • 膨大な時間をかける割に、効果がわかりづらい
  • 成果の向上やメンバーの成長に貢献していない
  • 内発的動機づけにつながりづらい
  • 仕組みの複雑性が高く、形骸化しがち
  • 他者との比較に焦点が当たる
(4)ビジネスの実態にそぐわない
  • 変化のスピードが速く、年1~2回の面談では不十分
  • 頻繁なコミュニケーションとフィードバックが必要
  • 個人の取り組みより、コラボレーションが必要とされる

 現在の年次評価面談や階級制度は約30年前のピーター・ドラッカー博士による「目標管理制度」(MBO)や成果主義制度をベースとして形作られてきました。ドラッカー博士が提唱し、目指したものは、「部下の目標設定への参加と目標に対するコミットメントによって、目標達成に向けた部下自身による主体的な行動を導き出す」ことでした。

 しかしながら、ここにきて目標管理や成果主義人事制度は、「やらされ感」の強い、モチベーションを阻害する制度として酷評され、ドラッカー博士が目指したものとは全く逆の制度と評価されるようになりました。目標至上主義がもたらした「東芝問題」や最近の自動車排ガス不正問題の頻発などもこうした人事制度がもたらした負の側面とも言えそうです。
 「高邁な目的を持って導入した人事制度が、なぜ見直される事態に至っているのか?」「手段の遂行が目的化してしまった」のだと思います。目的となった「目標管理面談」は、業務よりも優先して実施することを求め、下位10%を退職対象とするスタックランキングシステムもGEをはじめ多くの企業で導入されるようになりました。このような制度の中ではエンゲージメントが高まるはずもありません。

 現在、パフォーマンス・マネジメントの見直しを進めている代表的な企業としてGEとAdobeの事例を紹介します。
 GEでは、下位10%が退職対象となる制度は既に廃止していましたが、その基盤となる年次評価の仕組みは残っており、マネージャー層は1年に一回の評価ミーティングを行っていました。年1回の評価では、変化していく時代に対応できないとして評価制度の改革に取り組んでいます。
 新しいシステムでは、「評価をやめる」をキーワードに、マネージャー層はより柔軟にコーチングを行い、定期的にフィードバックを行うように変更しています。このためのアプリケーションを導入して全世界に展開中とのことです。

 一方、Adobeは、継続的にフィードバックする仕組みとして「チェックイン制度」を導入しました。複雑な評価用紙やアンケートを廃止し、マネージャーに自身のチームと実際にコミュニケーションをとる時間を多く与えることを求めています。マネージャーは、従業員に何を期待しているかを明確に伝え、フィードバックを与え、また受け取り、従業員に職業上の発展の機会を提供することをキーファクターとします。また、チェックイン制度の形式と頻度は、完全にマネージャーに任されます。この制度の導入により、主体性を持つ従業員が増え、自主退職が30%減少したとの報告があり、制度導入の効果が数字となって表れています。

 成果主義人事と目標管理の象徴でもあったGEが、「評価をやめる」と言い出したことは、一つの時代の終焉ともいえる大きな出来事でしょう。
 そして、その具体的な取り組みとして注目されているAdobeの事例ですが、私は、この取り組みを見て、ドラッカー博士が目指していた「目的」と何ら変わらないことを感じます。
 今の時代の新しい手段として、GEのように思い切って「やめる」という選択があり、Adobeのように新しい時代に合致した方法の導入があるのだと思います。

 人事部門に従事する人にとっては、従業員やマネージャーのエンゲージメント(愛着心や思い入れ)が高まる制度、言い換えれば本来の目的を実現するための改訂に取り組める、絶好のトレンドが到来したのではないでしょうか。

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