人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2016/07/19 (連載 第86回)

オンザジョブラーニングを担うラーニングファシリテータを育成する

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 本コラムで何度も取り上げてきました「オンザジョブラーニング(OJL)」を推進するファシリテータを育成するプログラムがようやく完成しましたので、お知らせします。

 一般社団法人IT人材育成協会(ITHRD)のラーニングファシリテータ育成プログラムの開発チームにて検討を進めてきましたが、今年度より経験豊かなメンバーが2名加わり、会長を含め9名のチームで開発しました。
 日常は、それぞれ別の仕事に取り組んでいるメンバーが、月1回程度の会合とメールでのコミュニケーションで開発を進行していくのは、均質なスキルを持つメンバーで構成されたプロジェクトよりも、メンバーの価値観や視点が異なり、合意形成の面では苦労するものの互いに良い刺激を受け、結果として良い学びとなっています。

 8月3日に第1回の説明会を開催することになりましたので、興味のある方はホームページをご覧ください。
 (IT人材育成協会 http://www.ithrd.jp/images/20160803OJL.pdf )

 研修のコース設計書より、概略を紹介します。
【名 称】

 OJLF研修(On the Job Learning Facilitator)

【背 景】

 「組織の変革を実現するためのOJL(On the Job learning)」  時の流れとともに、新しい技術が生まれ、新技術をベースにした新しい文化が生まれていく。
 新技術の適用や新しい文化(仕事のやり方)への対応が、企業業績に直結する時代、組織の変革への対応力が問われている。いま、人材育成に関わる者たちが注目している米国ロミンガー社による調査結果「70-20-10の法則」。人が学び成長する機会は、70%は実際の仕事の体験からの学びであり、20%は他者からの示唆やフィードバック、いわばインフォーマルな場からの学びである、集合研修やeラーニングによる学びつまりフォーマルな学習場面からは10%に留まる、とする調査結果である。
 「如何にして、実際の仕事に直結した学びを推進するか」このことが現在の人材育成の最重要課題である。OJL(On the Job learning)を機能させることが、「実際の体験を通じて学ぶ」ことにつながり、OJLと研修等人材育成施策との連携が、今後の人材育成には欠かせない。今や機能不全に陥っているOJT(On the Job Training)を見直し、訓練を通じて「教える」ことではなく、自ら学ぶOJL文化を築くことが企業の成長・発展のために求められている。
 OJLを機能させるために、OJLの推進役であるOJLF(On the Job Learning Facilitator)を任命し、実際の仕事を通じて「学び」「成長」することをファシリテートする人材の存在が必要である。自らの経験を内省して学習し、仕事の改善や変革、新たな価値の創造に向けて成長していくことを支援するOJLF。OJLF自身もファシリテーションの経験を通じてリーダーシップの基礎を身につけ、やがてリーダーとして成長する。「自律型人財」⇒「OJLF」⇒「リーダー」の人材育成の成長サイクルが、組織の活性化につながり、環境変化に対応できる強い組織を形成することができる。

【対象者】

 自ら仕事を通じて学ぶOJL(On the Job learning)を実践している人で職場での学びを支援するOJLF(On the Job Learning Facilitator)を目指す人。

【受講者の前提】

 当該職場において3年程度以上の経験を有し、自発的に取り組んだ業務の成功あるいは失敗経験から自らの学びとして教訓を得たことがある人。
過去に新入社員の指導等、育成に関わったことがあればなお望ましい。

【目 的】

 OJLF(On the Job Learning Facilitator)は、職場においてOJLを推進し、チーム・個人の「実践力を強化」する役割を担う。OJLF研修では、上記OJLFの役割を全うできるスキルを身につけることを目的とする。OJLFは、学習者(メンバー)の全人格と向き合い、人間として社会人として企業人としての成長を期待して、助言、学習支援を行う。具体的には、
 (1)学習者が自ら学習し、成長するための適切な助言、学習支援を行うスキル
 (2)組織学習を主導できる知識、スキル習得、が本研修の目的である。

【目 標】

1.学習を支援する能力「ラーニングファシリテーション力」の習得
 (1)学習をファシリテートする能力、学習理論、動機づけ理論、学習プロセス等の理解と実践、双方向コミュニケーションの理解と実践
 (2)メンバーが有する知識・スキルと、組織が求める知識・スキルとのGAPを明らかにして育成計画を策定する
 (3)メンバーの求める情報や知識の場所や所有者を熟知し、必要に応じて提示できる
 (4)経験学習の理論を理解し、経験からの学びを導くことができる
2.チームの方向性をまとめる能力「ファシリテーション力」
 (1)メンバーの考えていることを引き出す能力(コミュニケーション能力)
 (2)振り返りを誘導し、対応策作成を支援する能力
 (3)活発な議論の場を作り、合意形成、情報共有を図り、チームを一つの方向にファシリテートする能力
 (4)参加者の持ち味を余すところなく発揮できる場を作る力
 (5)問題を違った視点から眺めるリフレーミング力

【研修技法】

 反転学習(事前にテキストを配布し、課題を提示、テキストの事前学習が済んでいる前提で研修実施)、事前アセスメント、講義、個人ワーク、少人数ワーク、グループワーク、ロールプレイ実習、演習、全体発表・討議

【研修期間】

 2日間通い+フォローアップ研修(1日)(研修実施後3~6か月)

【評 価】

 「OJLF研修で得たことを実践で活かす(行動宣言)」を記載し、その内容をもって評価する。

【形 態】

 最少8人から最大24人の集合研修(4人~6人のグループ編成)当面は、1社研修を前提に進める


 人材育成を専らの生業としている私たちは、ともすれば研修を企画すること自体が目的となってしまうことがあります。経営視点で見れば、組織が持続的に発展し続けることが目的であり、人材育成はその目的を達成するための手段でしかありません。
 ロミンガー社の調査は1996年に発表された古いデータですが、5月に米国コロラドで行われたATD2016の多くのセッションで「70-20-10の法則」が取り上げられていたようです。「10%の研修企画でなく、70%の職場の経験に着目する」このことが時代の要請でしょう。つまりOJLの実践こそが、組織の変革を実現させることにつながるのだと思います。

 OJLの推進に関心のある方は是非ご意見をください。
 説明会の方にも出席してください。皆さんと意見交換しながら良いものに育てていきたいと願っています。
  (メール OJL-lf@ithrd.jp )

この記事へのご意見・ご感想や、筆者へのメッセージをお寄せください(こちら ⇒ 送信フォーム