人材育成コラム
“人財”育成のツボ
2016/11/18 (連載 第90回)
「個の集まり」から「素晴らしいチーム」になるために
ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表
安藤 良治
それはスポーツだったり、舞台芸術だったり、仕事であるかもしれない。いずれにかかわらず、そのときに味わった信頼関係や人間関係、互いに対する受容性、相乗効果、また自分たちが達成した結果をたぶん覚えているだろう。
しかし、そのチームは最初から素晴らしいチームだったわけではない、という点は忘れがちである。
通常、チームは「個の集まり」から始まる。
その「集まり」が「チーム」になっていくには、全体として機能していく知恵を身につける時間が必要だ。
言い換えれば、素晴らしいチームというのは「学習する組織」である。
つまり、自分たちが本当に望んでいるものに、一歩一歩近づいていく能力を自分たちの力で高めていける集団が「学習する組織」なのである。
2003年に出版された本書は、既に絶版となり残念ながら書店では手に入りません。「学習する組織」を構築するために必要な5つの能力を具体的に解説するとともに、「フィールドブック」という体裁でそれらの能力を磨くための演習や討議テーマを盛り込み、そのままチームでの学習に活用できる図書であるだけに絶版となっているのは残念です。
「個の集まり」から「素晴らしいチーム」になった例は、このコラムでもいくつか紹介してきました。
2013/01/17(連載第44回) 「言い続け、し続ける」
「新幹線お掃除の天使たち」(遠藤功著あさ出版刊)を題材に、「7分間の清掃」を「やらされる仕事から、魅せる仕事へ」変革したJR東日本のグループ会社鉄道整備株式会社(通称テッセイ)の「お掃除の天使たち」を取り上げました。 ここでは、会社幹部がビジョンを示し「単なる清掃会社ではなく、トータルサービスの会社にしたい」との思いを、「言い続け、し続けた」こと。そして、その実現のために、「教育」「環境整備」「組織再編」「動機付けのためのイベント」「社員への積極登用」とビジョン実現のための施策を具体的に展開したこと。その結果「素晴らしいチーム」へと変革したことを紹介しました。
2016/01/20(連載第80回) 箱根駅伝2年連続優勝 青山学院大学陸上部にOJLを見た!
今年も抜群の強さを見せている青山学院大学陸上部の駅伝、原監督の著作「フツーの会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉」(アスコム刊)を題材に、原監督のチーム作りを紹介しています。ともすれば個の強さを注目されがちな駅伝ですが、成績だけでスカウトした際のチーム作りの失敗を経験して、「人を集める」ことに神経を使い、チームメンバーにビジョンをしっかり示す監督采配を紹介しています。
ピーター・センゲは、素晴らしいチームというのは「学習する組織」であると明言します。そして、「学習する組織」を作るためには、5つの能力が必要だと定義しました。
「システム思考」
「自己実現(マスタリー)」
「メンタルモデル」
「共有ビジョン」
「チーム学習」 の5つです。
問題や課題に取り組むとき、発生している事象の断片に捉われず、複雑な全体を構造的に捉え、「何に働きかければいいのか」を理解し、積極的に働きかける。この全体を構造的に捉える思考を「システム思考」という。
「自己実現(マスタリー)」
個人が人生を創造的な仕事として受け止め、絶え間なく自己の能力を押し広げようとする継続的な成長に対する取り組みを「自己実現(マスタリー)という。一人一人が継続的な学習をすることによって「学習する組織」は生まれる。「自己実現(マスタリー)」は学習する組織が成立するための個人レベルでの必要要件である。
「メンタルモデル」
私たちの心の中に固定化された暗黙のイメージやストーリーのことを「メンタルモデル」という。私たちは普段それを意識していない場合が多いが、人々あるいは組織が、現実をどう捉え、どう行動するかということに、メンタルモデルは大きく影響している。個々の持っているメンタルモデルを浮き上がらせ、検証し、改善することが、変化と新しい行動を生み出す基本になるのである。
「共有ビジョン」
組織のあらゆる人々が共通して持つ「私たちは何を創造したいのか」「自分たちはどうありたいのか」ということに関するビジョンが「共有ビジョン」である。ここでいう「共有ビジョン」とは、「上から皆に示されたビジョン」ではない。組織のメンバーの個人ビジョンと結びつき、その構築のプロセスにメンバーが参加することによってコミットメントを生み出す力を持っている組織のビジョンである。
「チーム学習」
「チーム学習」とは、チームのメンバーが求める共通の成果を生み出すために、協働でチームの能力を伸ばしていくプロセスであり、それは「共有ビジョン」と「自己実現(マスタリー)」のアプローチにもとづいている。
集団が学習する場合、同時に個人が学習することを意味している。しかし、その逆は必ずしも正しくない。
人々が個人的に新しいスキルや洞察を培ったとしても、もしそれがワーキンググループのなかで応用されていなければ、組織としての機能にはほとんど変化がみられないであろう。「チーム学習」が求められる所以である。
チームには、そのチームが存在する目的があり、目指す目標があります。変化の激しい環境の中で目指す成果を出すためには、チーム力が問われます。
「具体的な成果を出す」というハード面の目標達成のために必要なことは、チーム作りという極めて人間的な要素が強いソフト面の強化です。
「学習する組織」を世にだしたピーター・センゲは、日本の高度成長期をモデルとして、日本の優れたソフト面にスポットを当て、上記5つの能力を定義したと言います。日本が発信した文化だったのです。
「目標管理」に代表されるハード面の管理は、近年「年次評価面談廃止」、「階級制度廃止」の動きが高まり、短期的な成果主義管理ではなく、人材育成の観点や動機づけの観点から、ソフト面を強化する施策が注目されるようになりました。
「学習する組織」は、本コラムで何度も取り上げたOJL(オンザジョブラーニング)と目指すものは同じであり、「素晴らしいチーム」を築くためには、OJLF(オンザジョブラーニングファシリテータ―)の任命と育成が欠かせません。
事業の成果目標を達成できる「素晴らしいチーム」を作る。この目標達成のために、今必要なこと、それは「学習する組織の整備」「OJLの推進」「OJLFの任命・育成」などのソフト面の整備なのだと思います。