人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2017/03/21 (連載 第94回)

働き甲斐があるから業績も伸びる~人が育つ文化~

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治


 先日、ある企業の人事制度改訂の社員説明会があり、その説明の前段で講演を依頼されお話をしました。その時お話ししたタイトルが、今回のタイトルです。
 働き甲斐があるから業績も伸びる~人が育つ文化~
 講演のアジェンダは、次の5つとしました。
1.「たどりついたことをどうやって知るのか」
2.「個の集まり」から「素晴らしいチームになるために」
 a)チーム学習
 b)「新幹線お掃除の天使たち」
3.仕事の目的・ビジョン
 a)3人のレンガ積み職人
   b)顧客の顧客を考える
4.信頼関係を構築する
 a)積極的傾聴法
 b)動機付けモデル
5.随所に主となる
 a)自分が主役
 b)働き甲斐は自分が定義する

 これまで私のコラムにお付き合いいただいてきた方ならお分かりかと思いますが、講演内容はこれまでのコラムをベースに構成したものです。
 このような機会をいただくことで、私がコラムを通じて皆さんに何をお伝えしたかったのかを考える良い機会となりました。
 タイトルの通り、「働き甲斐のある仕事」この追求こそが、私が人事部門で働いていた時から抱えていたドラッカー博士の問題提起に対する回答なのだ、ということを確認することができました。

 ピーター・ドラッカーは、著書「マネジメント」で問題提起をしています。
 仕事と労働(働くこと)とは根本的に違う。

 仕事をするのは人であって、仕事は常に人が働くことによって行われることはまちがいない。しかし、仕事の生産性をあげるうえで必要とされているものと、人が生き生きと働くうえで必要とされるものは違う。したがって、仕事の論理と労働の力学の双方に従ってマネジメントしなければならない。

 働く者が満足しても、仕事が生産的に行われなければ失敗である。
 逆に仕事が生産的に行われても、人が生き生きと働けなければ失敗である。
 “働く者の満足”と“仕事の生産性向上”の両立、結果としての業績向上は、経営者、事業部門の責任者、そしてマネジメントに携わる者すべての主要課題と言えるでしょう。もちろん人事部門の責任者として働いていた私にとっても主要課題でした。
 しかしながら、ドラッカー博士は、「仕事と働くこととは違う」と明言します。
 「両立できないテーマなのか?」
 「両立できないことではなく、どちらか一方に片寄ったマネジメントをすると失敗するよ」
 とドラッカー博士は、私たちに警鐘を鳴らしているのです。

 今の日本の全体的な風潮はどうでしょうか?
 “労働時間”に関するテーマが連日にぎわい、上限月100時間未満で妥結 プレミアムフライデー、月末最後の金曜日はいつもと違う豊かさを楽しむ日
 働き方改革が話題になり、企業の厳しい取り組みがあると何かと“ブラック”というレッテルを貼ろうとする。この風潮は、「働く者の満足」に片寄った視点、しかも「働かないことを美徳とする」ような視点での話題が中心となっているように思えます。
 このままだとドラッカー博士の言う通り、「日本の経済活動は失敗する」ことにつながるのではないかと感じてしまいます。

 もっと働くことの楽しさを追求しませんか。
 “働くこと”に生き甲斐を感じている人は、その仕事をうまく成就させるために、「寝ても醒めても」そのことへの思いを巡らせ、もっと良いやり方がないか、お客様が喜ぶ方法がないかと考え抜きます。思いつくのが寝床であったり、ある時はトイレであったり、そうしてやっと考え付いた案を整理して顧客に提示すると、顧客は喜び感謝してくださり、そのねぎらいの言葉が、達成感となり、それまでの疲れは一気に吹き飛びます。
 仕事漬けになることは私は楽しいことだと思っています。「働かされている」仕事漬けではなく、自分の自己実現のために、顧客からそして自分の属している組織から、自己実現を発揮する機会を頂戴して、自分を磨くこと、能動的な行動であるから楽しいのでしょう。

 仕事そのものを通じて、成長し、自己実現する。
 一人ではないチームという存在であれば、チーム全体で学習し、最高の成果を上げるためにスクラムを組み、「もっと良い」ものを求める姿勢で取り組みます。
 互いに研鑽し、高い成果を求めることが、自分自身の成長にもつながります。
 このような取り組みをしている仕事には、「働かされている」感覚はありません。だから、仕事そのものに従事している時間以外にも、例えば仲間と酒を飲みながらより良くするための議論をします。いつもそのことを考えているから、会社という場所以外でも、ふとした案を思いつきます。
 素晴らしい解決策や案なんてものは、往々にしてこんな形で生まれています。

 達成感を感ずる仕事は、楽しい。
 そのことをうまく表現しているのは、このコラムでもよく取り上げる「3人のレンガ積み職人」の話しです。
 一人の職人に、何をしているのか尋ねました。
「見ればわかるでしょう。レンガを積んでいるんですよ。こんな仕事はもうこりごりだ」

 次の職人に同じことを尋ねると
「レンガを積んで壁を作っています。この仕事は大変ですが、賃金が良いのでここで働いています」

 3人目の職人にも同じことを尋ねると、
「私は修道院を造るためにレンガを積んでいます。この修道院は多くの信者の心のよりどころとなるでしょう。私はこの仕事に就けて幸せです」
 3人目の職人に焦点を当てて、考えてみましょう。
 この人は、レンガを積んで出来上がった建築物を想像するだけでなく、その建物を利用する人に思いを馳せています。
 つまり、建築物の発注主(顧客)の先のその利用者(顧客の顧客)を考え、その人たちの心のよりどころとなるような「修道院」を作る。
 この人は、きっとレンガを積みながら出来上がった修道院を想像し、丁寧に心を込めて仕事をしているのでしょう。だから、この仕事につけて幸せです、と答えています。

 さて、冒頭の講演でもこのレンガ積み職人の話しを紹介して、参加者に尋ねました。
 「皆さんの中で自分の仕事を紹介する際、3番目の職人のような回答に近いと思う方教えてください」 と、お聞きして、会場内を回り、手を挙げた方にお聞きしました。
 「あなたは、どんな仕事をされているのですか」
 「私は教育の申し込みや受付の仕事をしています。事務の仕事で、ミスのない処理が当たり前の仕事ですが、受講される方が気持ち良く受講できるように気を配って丁寧に仕事をしています。」
 「その仕事を担当されて、良かったと思うことはありますか」
 「受講者の方から、ありがとうですとか、感謝の声をかけてくださることがあります。そんな時、すごく嬉しい気持ちになります」
 「そうですか、とてもやりがいのある仕事に従事されていますね。紹介してくださってどうもありがとう」

 このやり取りの後、会場の皆さんから拍手を頂戴しました。
 仕事の働き甲斐とは、仕事の難易度とか、最先端とかということではなく、その仕事に従事されている人の気持ちの持ちようであるということを痛感しました。
 以前紹介した「新幹線お掃除の天使たち」もまさに同じですね。「働き甲斐」の追求こそが、“働く者の満足”と“仕事の生産性向上”の両立、結果としての業績向上につながるのだと思います。


この記事へのご意見・ご感想や、筆者へのメッセージをお寄せください(こちら ⇒ 送信フォーム