人材育成コラム

リレーコラム

2018/11/20 (第102回)

「ご安全に!」は安全啓発の万能挨拶

ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社アイテック 顧問

福嶋 義弘

 先日、製造業の階層教育を見学した。研修での挨拶はすべて「ご安全に!」であった。

 聞きなれない挨拶で違和感があった。帰宅後、調べて驚いた。建設業や製造業などでは常識の挨拶であった。以前、東電福島第1原発廃炉作業のニュースでNHKのキャスターが「「ご安全に」という言葉が挨拶代わりに使われる現場です」と報道、「ご安全に」が東電福島第1原発の廃炉作業だけで使用されている特殊な慣例かのようなコメントに「作業現場では普通の挨拶」や「常識を知らな過ぎる」などのコメントが殺到したことがあったようである。

 そういえば、NHK朝ドラ「ひよっこ」で、ヒロインの有村架純さん演じるみね子が集団就職で上京し働いたトランジスタラジオを作る工場の朝礼と夕礼に工場の主任が「ご安全に!」と挨拶していた。

 初めてこの言葉を使用したのは、住友金属工業(現在の新日鐵住金株式会社)のようである。昭和26年に製鋼所製鋼課の大中副長が、ドイツの鉱山で使われていた「Gluckauf」という「ご無事で」という意味の挨拶を知り、帰国後、従業員への安全啓発策として「ご安全に!」を挨拶言葉にするよう提言した。鉄鋼メーカーである住友金属工業には、製造現場で作業する社員が多くいます。そうした現場で働く社員ひとりひとりが、「安全」についての意識をしっかり共有するために、「ご安全に!」の挨拶運動がスタートし広まったようである。(住友金属工業株式会社「経営報告書2010」より)

 住友金属工業は、もう一つ広めた言葉、活動がある「KY(危険予知)活動」である。
 作業前に危険を予想し対策に結びつける活動である。今回見学した研修でも、受講者の達成目標のキーワードとしてKYが随所に出てきた。IT業界では形を変えSWQC(ソフトウェア品質管理)などとしてプロセス変革、品質向上や生産性向上目的の活動として実施されている。

 企業では、どんな挨拶があるか調べてみた。出勤時の朝は「おはようございます」でその他の時間では「こんにちは」、帰宅時は「お先に失礼します」が一般的である。芸能界では随時「おはようございます」、変わったところでは「ご無礼します」などがあった。

 最近よく使われる挨拶は「お疲れさまです」である。会社の中ですれ違う時、同僚同士の挨拶、目上の人や上司に対しても使っている。以前上司に「お疲れさまです」は目上の人や上司には失礼と注意されたことがあった。この機会に、ビジネスマナーの本を出して調べた。
 「お疲れさまです」は相手の疲れをいたわる、ねぎらいの言葉である。例えば、相手が仕事を終えて席に戻った時や一日の仕事を終え帰ろうとしている時など、相手が疲れている時にふさわしい言葉である。社内ですれ違う時に使う場合は、お互いが仕事をしているのであれば、ねぎらいの挨拶となる。しかし、出社時や仕事を始めるタイミングで使うのは本来であれば不適切な言葉である。

 また、「お疲れさまでした」を目上の人や上司に使うのは構わないが、使えるのは社内で、社外のお客さまや取引先の目上の人や上司に使うのは失礼とされている。厳密には、「ねぎらい」とは目上の人が目下の者に対してすることなので、「お疲れさまです」は目上から目下への声掛けである。「お疲れさまです」はいつでも、どこでも使えるのでいつの間にか一般化したのである。
 お客さまや取引先の目上の人や上司には、「お世話になっております」、「ありがとうございました」などの挨拶を使う。

 万能挨拶の「ご安全に!」は、使うシーンも、使う時間も限定しない。IT業界も製造業でもあるので、「相手の無事を祈る気持ちが伝わる」ちょっと不思議な挨拶を、日常で使ってみてはどうだろうか。英語では「Keep safety」だそうだ。
 それでは、ご安全に!


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