人材育成コラム

リレーコラム

2018/12/20 (第103回)

日本とドイツとキャッシュレス

ITスキル研究フォーラム クラウド人材WG主査
株式会社NTTPCコミュニケーションズ 営業本部 営業企画部長

中山 幹公

 11月上旬にドイツに出張してきたのだが、昨日見た消費増税関連のニュースで、国別のキャッシュレス決済比率のグラフが出ていて、主要国中キャッシュレス決済比率が最も低いのがドイツ、2位が日本であった。これは経済産業省のレポートにも出ているのでご興味あればご覧いただきたい。

■経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」
http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180411001/20180411001-1.pdf

 今回は「なぜドイツと日本はキャッシュレス化が遅れているか」ということについて自分なりに調べたり考えたりしてみたのでそのことを書いていこうと思う。

 ちなみに、最もキャッシュレス決済比率が高いのは韓国で89.1%。ついで中国の60.0%。イギリス54.9%、米国は45.0%で、日本は18.4%、ドイツが最低の14.9%である。なお、一口にキャッシュレス決済といっても、韓国・シンガポール・米国・日本等はクレジットカード中心、ヨーロッパやインドではデビットカード中心となっている。

 さらに日本に関して首をかしげたくなるのは、デビットカードや電子マネー、クレジットカード等のカードについて1人あたりの保有枚数は7.7枚と一位のシンガポールに続いて主要国中2位となっている(ドイツも6位と上位)。つまり、キャッシュレス決済の手段は多く保有しているにも関わらず、現金での決済を多用しているということになる。

 日本でなぜキャッシュレス化が遅れているかに関して、前出の経産省のレポートでは、「現金を好む国民性」とし、その背景に、(1)盗難の少なさや治安の良さ、(2)紙幣がきれいで偽札が少ない、(3)店舗のPOSレジが発達していて現金でもスピーディ、(4)ATMが多く現金が入手しやすい などの社会情勢があると分析している。一方、消費者側の心理として、「キャッシュレス支払にまつわる各種不安」があるとし、使いすぎやセキュリティ、個人データ利用などへの不安を挙げている。

 ではドイツはなぜ遅れているのだろうか。ドイツは前述のとおりキャッシュレス決済手段としてはデビットカードが主流であり、クレジットカードはあまり使われていない(全決済のうちの4%程度)。経産省のレポートにはドイツに関しては何も分析されていないのであるが、ネット等の情報によると、ドイツ人もやはり「現金主義」だということで、堅実主義でありキャッシュレスの安全性への懸念だとか、現金の方が簡単で支出の管理がしやすいという意見などが散見される。日本とも通じる背景として、現金利用をベースとしたシステムが磨かれていて安全・便利かつスピーディに現金決済ができる社会環境が整っているという点と、消費者側の、新しいものに対するそこはかとない不安といった感じだろうか。

 うがった見方をすると、両国とも「ものづくり大国」といわれ、既存のシステムを磨き上げることにはたけているが、イノベーションやゲームチェンジが苦手なのだろうか……。

 ところで、今回初めてドイツに行くことになったので、前もって「図説 ドイツの歴史」という本を購入し、中世の神聖ローマ帝国から、EUを事実上リードしインダストリー4.0の先端を走る現代のドイツまでの歴史を通して熟読してみたのだが、久々に世界史の教科書を読むようで楽しかった。

 学生の頃に多少は世界史を学んだが、ドイツ目線で考えたことはもちろんなく、初めて知る話も多かった。今回はミュンヘンにだけ滞在したのだが、古代から現代にいたるまで、ミュンヘンが世界史の表舞台に出てくることはあまりなく、強いてあげると、「ナチス発祥の地」ということになる。

 バスで移動中に「旧総統館」の前を通って、ガイドの方がここで第二次大戦前に「ミュンヘン会談」が行われたことを教えてくれたが、本を読んでいたおかげで、それが何かはよく分かった。ミュンヘン会談には当時の英・仏・伊・独の首脳が出席し、英仏が対独宥和政策を取ったことで第二次大戦を食い止める最大のチャンスを逸したともいわれている悪名高い会談である。この建物が、そのあとの悲惨な戦争と、太平洋戦争のそれを数で大きくしのぐヨーロッパでの第二次大戦犠牲者のことを思い出させてくれるともいえる。

 ミュンヘンではこの旧総統館等、負の歴史遺産も含め、古い街並みを意識的に残している。当然この町も大戦で戦火に焼かれたのだが、復興の際に新たな街並みに作り替えるのではなく、あえて元の街並みを再現することを選んだのだといい、とても美しい街並みが広がっている。

 そしてこの町が「世界一」を誇るのはやはりビール。ビールといえばドイツというのは日本人にも定着しているイメージだが、そのなかでも本場はミュンヘンなのだ。ミュンヘンを中心とするバイエルン州では、ビールの醸造に関して、原材料などが厳しく制限されており、非常に品質がよくおいしいビールを多く造っている。当然、毎晩それを堪能してきたのはいうまでもない。タイミングよく、日経BPさんの運営するWebサイトでミュンヘンのビアホールの取材記事が掲載されていたので併せて紹介する。ちなみに私もこの「ホフブロイハウス」には滞在中訪れた。

■日経BP社 CAMPANELLA
「ミュンヘン:1589年設立の「ホフブロイハウス」で民族音楽を聴きながら肉料理とビールを楽しむ」
https://business.nikkeibp.co.jp/atclcmp/15/112800094/113000009/

 いろんな魅力を備えたこの街は、まさに「キャッシュレス」ならぬ「プライスレス」というところ。観光旅行先としてもぜひお勧めしたい。


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