人材育成コラム

リレーコラム

2011/01/17 (第10回)

「自己効力感」を養わせよう

ITスキル研究フォーラム 理事
日立ソリューションズ 人事総務統括本部 人財開発部 部長

石川 拓夫

 先日テレビ番組で、山谷で行き場のない人向けのホスピタルを経営している女 性の方の特集をみた。なぜこのような取り組みを行うに至ったかについては詳し くは述べない。ただ、そのときの心境を知っていてほしい。上京して看護師にな って、あることがあって人生に失望し、「ただ息をして過ごして行けばよい」、 「過労死してもいいとやけになって仕事にのめり込んだ」そうだ。さらには「自 分なんて何の役にも立たない。なんで生きているのだろう」と思って過ごしてい たそうである。

 こんな状態で数年過ごしたのち、ある切っ掛けが生き方を変えた。通勤途中で 普段は無視していた路傍のホームレスの人に、ふと何気なくカイロを手渡したそ うだ。ホームレスの人から「ありがとう」と感謝された。その時、「ああ、こん な私でも一歩踏み出せば人の役に立つのだ」と目の覚める思いだったそうだ。そ れからは生まれ変わったように行動し、ホスピタル建設に至る。

 それも莫大な借金をしてまで・・・。

「自分を愛せない人間は人も愛せない」

 次は1カ月ほど前に見た番組の話だ。ワタミの渡邉美樹会長・CEOが、小学 校の子供たちに授業をする話だ。渡邉氏のテーマは、「自分を認め、自分を愛す ること」を子供たちに教え、そこから自分のこれからの取り組みを考えさせるも のだった。

 社長の問題意識は、「自分を愛せない人間は人も愛せない」であり、昨今の子 供は自分を愛せない子供が多いことであった。確か渡邉氏はこのことを、坂本龍 馬の生き方を学ぶことで、子供たちに伝えようとしていたと記憶している。

 ある小学生が渡邉氏の問いに対して意見を述べた。「私は両親から、自分を犠 牲にしてでも人に尽くすのが人の道だと教わっている。社長の考えは間違ってい ると思う」と。これに対して社長はまず自分を理解し、自分を愛して、自分を好 きになってはじめて人に尽くせることを切々と説いていた。


自己効力感を社員一人ひとりに付与できれば・・・

 この両方のエピソードから注目すべきは、「自己効力感」である。これは人の 成長にとって大変重要な要素である。今の世の中、自己効力感を養う前に、いろ いろな圧力がかかり、無力感が先に立つのかもしれない。「自己効力感」を味わ う機会や術を知らないで育った人が多いのかもしれない。

 実は我が子も、なにかあると「僕なんかダメだ」と言う時が多い。そんな時は、 「そんなことは無い。お父さんは見ているよ。もっと自信を持て」とか「やるだ けやったという自信を持って事実を受け入れろ」とアドバイスすることが家庭内 でも多い。

 この「自己効力感」は、今企業内教育でも注目されていると思う。閉そく感が 強い時代だからこそ、意識して育む必要があるのかもしれない。「三丁目の夕日」 の時代は、明日に希望があったので、時代がこれを育んでいたのだと思う。今は 意識して育む必要があると思う。

 「自己効力感」は、人財の成長に欠かせないものである。「守」「破」「離」 という育成サイクルがある。その際、「破」から「離」へ進む時には、ジョブス トレッチして、苦しみながらも成功体験を積ませて、「自己効力感」を高めて、 今までにない取り組みにチャレンジして新たな革新の成果にたどり着かせて、さ らに飛躍させることが重要だ(これが「離」)。

 弊社でも、この育成支援の考え方を大切にして広げていきたいと考えている。 HCMの理念のもと、各職場でこのような考えで丁寧に育成支援が行われる風土 作りに傾注したいと考えている。こんな時代だからこそ、お互いがお互いを高め あい、存在を認め合い、尊敬しあうことで、お互いをモチベートするような組織 風土が大切だと思う。

 「自己効力感」を社員一人ひとりに付与できれば、大いなる飛躍につながると 思う。

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