人材育成コラム

リレーコラム

2019/09/20 (第112回)

DX推進指標

ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社日立アカデミー 取締役

石川 拓夫

 7月末に経産省から「デジタル経営改革のための評価指標(DX推進指標)」が公表された。
 この指標は、昨年発表になった「DXレポート」に予告されたものであり、このレポートに続いて発表された「DXを推進するためのガイドライン」も踏まえて作成されている。

 すなわち、DXレポートで指摘された「デジタルに対するビジョンと戦略の不足」「経営層の危機感とコミットにおける課題」「既存のシステムがDXの足かせになっている」などの課題を克服し、企業におけるデジタル経営改革を推進するために作成されたもので、各企業が簡易な自己診断を行うことで、経営幹部や事業部門、DX部門、IT部門などの関係者の間で現状や課題に対する認識を共有し、次のアクションにつなげる気付きの機会を提供することを目的としている。

 具体的には、各社は指標に従って行った自己診断結果を、新たに開設される中立組織に提出すると、ベンチマーク結果のフィードバックを受けることができる。この情報をもとにしたDXへの具体的な対策を、外部のコンサル会社やITベンダーの支援を得て推進するスキームである。
 言ってみれば、指標はDX経営の成熟度モデルなのだが、ベンチマーク結果をもとに、各企業の計画的で持続的なDXの取り組みに弾みをつける狙いである。DXの初期段階で取り組みの道筋が分からない企業にとっては、推進のテコになるかもしれない。

 この指標の中身は、オーソドックスに必要項目を網羅したもので、少なくともDXに向けた取り組みに共通言語を与える役割は果たしそうだ。特筆すべきは、経営層のコミットや経営戦略としてのDX実現を強く打ち出したことだ。まずは人財育成から、まずはPoCからという企業が多かったが、この指標では、「企業がデータとデジタル技術を活用してビジネスモデルを改革し、競争優位を築くことをDX」と定義しているので、この指標が活用されることで、DXに向かう妥当な道筋が示されたのではないかと思う。

 一方では、ただの指標なので、どのように活用するかは各企業次第ということで、構図はITスキルスタンダード(ITSS)と同様と思われる。ITSSはITエンジニアを役割ごと・レベルごとにキャリアとスキルを定義した指標であるが、その正しい利活用の普及には多くの時間と工数を要している。今回この指標が、日本の産業力強化にどれだけ寄与するかは、これからの国の取り組み次第のように思う。
 またITSSがそうであったように、具体性には当然乏しい。そこの具体化は企業の競争優位を導くものであり、各社が工夫をすべきところである。弊社の立場で言えば、ここに今まで人財育成コンサル事業で培ってきたノウハウをご活用いただけるものと思う。

 指標には、当然ながら人財の確保・育成が重要な項目になっている。企業がめざすDXに必要な人財の役割やスキルを定義し、現状の保有戦力の検証・把握と事業計画に必要な人財とのフィット・アンド・ギャップを行い、不足部分を採用か調達か育成かなど、どのような手段で対応するか決めて、育成ならばどのように行っていくのか、キャリアパスの整備からスキル付与の手段まで具体化する。これは今までITSS・iCDをベースに行ってきた取り組みと同じである。ここに弊社の果たせる役割があると思う。

 まだ発表になったばかりで、どのような動きが出ているのかは不明だが、経産省の力の入れ方からして、各企業の話題にはなると思う。スキームにも描かれたコンサル会社やITベンダーの担当者は、お客さまとの会話ができるように、まずは指標を理解しておくことが必要だと思う。できれば積極的にお客さまと一緒に活用してみてはどうだろうか。DXといってもお客さまの業界や現状によって、課題は様々にある。最初のヒアリングシートとして課題を共有するなど、様々に活用方法が考えられる。

 今後この指標の活用の動向を注視していきたいと思うが、我流で隘路に入るよりは、指標やこれから得られるベンチマーク結果を有効活用する企業が増えることを期待している。ITSSがそうだったように、何かしら妥当な指標を軸に、仮説検証を繰り返しながら、継続的に前進していくことこそが必要なのだと思う。


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