人材育成コラム

リレーコラム

2020/10/20 (第126回)

2020年ITエンジニアに読んでほしい書籍

ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社アイテック 顧問

福嶋 義弘

 世間に「××大賞」は、多く存在する。「日本レコード大賞」、「流行語大賞」、「本屋大賞」、「ものづくり日本大賞」などが有名で毎年受賞者が報告されている。発表を楽しみにしている人も多いと思う。今年も大賞発表が始まっている。例えば、「日本ゲーム大賞2020」で経済産業大臣賞に「あつまれどうぶつの森」であった。通称「あつ森」で人気である。総裁選に出馬した石破元幹事長が「あつ森」を利用するなど、コロナ禍で在宅が続くなか、現在も流行している。大賞受賞は納得感もあり、今年の世相を表していると思う。

 その他、興味深いのは「ブラック企業大賞」であり、2018年、2019年連続大賞を受賞している企業が三菱電機株式会社であった。2016年には過労自殺で是正勧告を受けた株式会社電通が受賞している。この賞の運営主体は「ブラック企業大賞企画委員会」であり、労働組合役員やNPO法人の代表、作家や弁護士や大学教授などで構成されている。現状では、際立ったブラック企業が取り上げられることはあっても、企業や現場全体の組織改善にはなかなか結びついていないことから、ブラック企業が生み出される「背景や社会構造の問題を広く伝え、誰もが安心して働ける環境をつくること」を目的として挙げている。なお2012年の開始以来、例年授賞式には受賞企業を招いているが、授賞式に出席した企業はゼロであるようである。このような不名誉な賞を歓迎する企業はないと思う。しかし、受賞を反省し企業変革を推進してほしい。現実は難しいようである。

 ITに関する大賞を検索した、「ITエンジニア本大賞2020」が見つかった。「ITエンジニア本大賞」は、ITエンジニアに読んでほしい技術書・ビジネス書を選ぶイベント。 2014年から開始され、今回が7回目の開催である。今回は2019年11月18日から2020年2月13日まで投票が行われた。選考方法はITエンジニアからのWeb投票で、技術書・ビジネス書それぞれよりベスト10を選出、プレゼン大会を実施最終投票のうえ大賞を決定する。今回より正式名称を「ITエンジニアに読んでほしい!技術書・ビジネス書 大賞」から、今まで通称であった「ITエンジニア本大賞」へ変更することとなったようである。主催は翔泳社である。

 今回の受賞書籍は、「技術書部門大賞」では、「レガシーコードからの脱却―ソフトウェアの寿命を延ばし価値を高める9つのプラクティス」(著者:DavidScott Bernstein 出版社:オライリー・ジャパン)であった。この書籍は、ソフトウェア開発において、初めからレガシーコードを作りこまないためのプラクティスを9つ挙げて解説したものである。特定のプロセスにフォーカスした本でなく、アジャイルの基本理念に沿って書かれているところが、受け入れられたようである。また、「ビジネス書部門大賞」は、「プレゼン資料のデザイン図鑑」(著者:前田鎌利 出版社:ダイヤモンド社)が受賞した。この書籍は、スライド設定、フォント、キーメッセージ、グラフ、図解、フローチャート、画像、アニメーションを、見やすさ、分かりやすさ、また伝えた方という観点で、どうデザインするか解説している。また、実例スライドなども掲載された実用書である。

大賞以外の技術書部門のベスト10は以下の通りである。
  • 「Kaggleで勝つデータ分析の技術」
     (著者:門脇大輔、阪田隆司、保坂桂佑、平松雄司 出版社:技術評論社)
  • 「体系的に学ぶ 安全なWebアプリケーションの作り方 第2版 脆弱性が生まれる原理と対策の実践」
     (著者:徳丸浩 出版社:SB Creative)
  • 「正しいものを正しくつくる プロダクトをつくるとはどういうことなのか、あるいはアジャイルのその先について」
     (著者:市谷聡啓 出版社:BNN)
  • 「ダークウェブの教科書」
     (著者:Cheena 出版社:株式会社データハウス)
  • 「作って理解するOS x86系コンピュータを動かす理論と実装」
     (著者:林高勲 出版社:技術評論社)
  • 「ハッキング・ラボのつくりかた 仮想環境におけるハッカー体験学習」
     (著者:IPUSIRON 出版社:翔泳社)
  • 「ドラゴンクエストXを支える技術―大規模オンラインRPGの舞台裏」
     (著者:青山公士 出版社:技術評論社)
  • 「文系プログラマーのためのPythonで学び直す高校数学」
     (著者:谷尻かおり 出版社:日経BP)
  • 「見て試してわかる機械学習アルゴリズムの仕組み 機械学習図鑑」
     (著者:秋庭伸也、杉山阿聖、寺田学 出版社:翔泳社)

大賞以外のビジネス書部門のベスト10は以下の通りである。
  • 「岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。」
     (著者:ほぼ日刊イトイ新聞 出版社:ほぼ日)
  • 「思考法図鑑 ひらめきを生む問題解決・アイデア発想のアプローチ60」
     (著者:株式会社アンド 出版社:翔泳社)
  • 「ソフトウェア・ファースト あらゆるビジネスを一変させる最強戦略」
     (著者:及川卓也 出版社:日経BP)
  • 「直感と論理をつなぐ思考法」
     (著者:佐宗邦威 出版社:ダイヤモンド社)
  • 「天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩む、すべての人へ」
     (著者:北野唯我 出版者:日本経済新聞出版)
  • 「ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式」
     (著者:山口周 出版者:ダイヤモンド社)
  • 「FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」
     (著者:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド 出版社:日経BP)
  • 「学び効率が最大化する インプット大全」
     (著者:樺沢紫苑 出版社:サンクチュアリ出版)
  • 「メモの魔力 -The Magic of Memos-」
     (著者:前田裕二 出版社:幻冬舎)

 IPA発行の「IT人材白書2020」の調査では、IT人材はスキルアップに関して時間や費用もかけていないとの結果が出ている。スキルアップしない理由は、「業務が忙しく勉強の時間が取れない」や「スキルアップしても生かす場がい」が多いそうである。またスキルアップ方法は、「書籍・雑誌による学習」、「Webでの情報収集」が大半を占める。ニューノーマルで働き方の変革が求められるなか、自身のキャリアアップやスキルアップも見直す必要があると思う。

 秋の夜長、自主変革を実践するためのツールとして読書を勧める。

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