人材育成コラム

リレーコラム

2020/11/24 (第127回)

「1on1」ミーティング

株式会社教育エンジニアリング研究所 代表取締役
一般社団法人IT人材育成協会 理事

木村 利明

 皆さま、初めまして。教育エンジニアリング研究所の木村と申します。
 IT人材育成協会(略称:ITHRD)の理事もしておりまして、その関係で本コラムの執筆を仰せつかりました。よろしくお願い致します。

 さっそく本題です。
 米国シリコンバレーでは、すでに“One on one meeting”は文化として根付いており、人材育成の手法として世界的に注目を集めています。
 その特長は「上司が部下の成長のために時間を使う」ということです。
 日本ではヤフーが取り入れたことで話題になり、現在は多くの企業が導入を進めようとしていますね。
 ITHRDは「育成者の育成」を中核目的として、IT産業の発展に寄与しながら世の中に貢献しようとしている協会です。
 研修講師の育成もさることながら、最近は現場の育成担当者(≒上司)の育成にも力を入れています。
 今年に入って「1on1ミーティング」をテーマとしたセミナーないし研修をやってくれないかという要望があり、検討を始めていました。
 ところがご承知のように「コロナ禍」という大変な事態が起こってしまい、具体的な話がなかなか進みませんでした。それでも、ようやく7月末に2日間(4時間×2)「オンライン研修」という形で実施することができました。

※「オンライン研修」(と「オンライン教育」そのもの)についても思うことはあるのですが、それはそれで別の機会があれば……ということで、ここでは触れません。


 上司と部下で個人面談を行い、部下に気づきを促すことで個人の「資質・能力」を引き出すことを目的としたミーティング。これが「1on1ミーティング」の定義です。
 それで、なぜ今「1on1」が取りざたされているのかといえば、「変化に対応できる(すなわち、自分で考えることができる)社員の育成」が企業にとって喫緊の課題になっているからですね。
 表面的な見方(つまり字句の解釈だけ)であれば「個人面談」ですから、組織運営上では、そういう場(上司と部下の1対1の場)を設定さえすればコトが足りるわけです。
 でも、すぐに想像できると思いますが、目的を明確にしないまま、ただ「個人面談」を義務付けるだけでは、(現場は面倒がるだけで)効果は少しも上がりません。
 実際に、7月の研修でも、アンケート項目の「何を一番学習したと考えますか?」に、「1on1ミーティングは『上司が部下の成長のために時間を使う』ということ」や「目的は『変化に対応できる(自分で考えることができる)人材を育成する』ということ」というコメントが、あらためて書かれていました。
 やはり、せっかく「1on1ミーティング」を導入してその効果を上げようとするのでしたら、その目的を組織全体で共有するところから始めなければなりませんね。

 そして、「1on1ミーティング」を実際にどうやるかという方法論を理解し、自らの組織でそれを実現すれば、その効果を絶大なものにすることができます。(逆に言えば「1on1」の導入成果を上げている組織はそうしている、ということですね)
 主な方法論として挙がっているのは、次の二つです。
(1)「経験学習」を促進する。
(2)社員が自分の才能を自分で発見するように仕向ける。
 仕事をしながら、その「経験」を(単なる経験ではなく)「学び」(成長の糧)にする。その仕組みを「経験学習」といいます。
 ベースになるのは、教育学者のコルブが提唱した「経験学習モデル」(1984年)です。
 仕事で成長する人もいれば、成長しない人もいる。コルブは、「仕事で成長する人」の行動特性や資質特性を調査研究し、そのプロセスを「学習モデル」として著しました。
 方法論の(2)「社員が自分の才能を自分で発見するように仕向ける」ですが、簡単にできそうですか? ……「才能は自分で見つけなさいね」と言うだけで部下がそうしてくれればよいのですが、そんなわけにはいきませんよね。
 勘の鋭い方は「あぁ、これはコーチングだな」と思われるかもしれません。それはまさしくその通りで、手法的には「コーチング」に近い(方向性は同じ)です。
 ただ、「やる気のない人にやる気を出させる」ことに比べ、「自分の才能を自分で気づかせるようにする」ためには、もう少し深いアプローチが必要になってきます。

 さて、「1on1ミーティング」について、その目的と方法論を簡単にご紹介しました。
 まとめますと、直接の目的は「上司が部下に気づきを促すことで個人の資質・能力を引き出すこと」であり、その実現のためには「上司がそれをするための具体的な手法を身につけた上で部下に接する」必要があります。
 部下育成の前準備段階として、「上司(すなわち育成者)の育成」を企図することが重要ではないかと思われます。
 この目的と手法を組織内で共有することができれば、「1on1ミーティング」をきっかけにして、組織全体のエンゲージメント指数の向上が期待できると思います。
 また、『IT人材白書2019』でもうたわれている「おたがい成長する・学びあう、育てる、助け合う土壌がある」企業風土への第一歩になるのではないでしょうか。


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