人材育成コラム

リレーコラム

2021/2/22 (第131回)

DXについてあらためて感じたこと

ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社日立アカデミー 取締役

石川 拓夫

 ある会合で聞いた話だが、日本においては、長年IT投資はコストと認識されてきた。だから削減することだけが重視されてきた。一方、欧米などでは、ITの技術によって新しい価値を創造し、不連続の時代の生き残り戦略でやってきた。この違いは過去のIT投資額の伸び率を比較すれば分かるという。これが今のデジタルの時代になって、日本においてDXが加速しない理由の一つだという。

 私は人事畑なので、日本のIT業界のビジネスモデルや体質から培われてきたITエンジニアの行動特性(コンピテンシー)に長年着目してきた。デジタル技術によって新しい価値創造が求められるのに、なかなか生まれないのは、システム構築の請負体質により培われた行動特性の強化ではなく、課題発見・解決力や仮説検証力など、新たな行動特性を獲得しないとだめだと考えている。それだけでなく、企業の経営者をはじめとするリーダーの、システムに対する根本的な認識を変えないといけないとあらためて強く考えさせられた。

 また、こんな環境のなかにおいて、デジタル人財の奪い合いが起こっているが、デジタル人財は当然、IT投資をコストと考える企業には目を向けない。籍を置いたとしても「デジタルの文化資本」の蓄積の希薄さを見透かし、ここでの孤軍奮闘は、自分の貴重なキャリアの浪費にしか過ぎないと気づき、すぐにやめてしまうという。

 つい最近も、あるメーカーの方から、デジタル人財の素質のあるよい人財が採用できてもすぐにやめてしまうというぼやきを聞いた。この会社の方針として、今は全社のデジタルリテラシーの底上げよりも、この事業分野を熟知したデジタルの専門家の育成が急務と聞いたが、この線上だと同じ悲劇が続くことになるかもしれない。どうも高報酬だけではリテンションはできないようだ。企業のデジタル文化資本の集積を図り、デジタル人財がキャリアの浪費だと思わずにリーダーシップを発揮できるようにすることが、遠回りに見えても近道なのかもしれないと思った。今度きちんと議論してみたい。

 この意味でも間違っていないなとあらためて思うのは、日立グループ全体のデジタルリテラシー向上のために、日立グループ社員向けに実施している「デジタルリテラシーエクササイズ」(eL)の取り組みだ。デジタルに関する基礎知識をstep1~4までのeLでしっかり習得し、日立のデジタル事業の基礎的な内容が理解できるものだ。メディアでも数多く紹介されたのでご存じの方もおられると思う。今までの蓄積がなくOJTが機能しないデジタルリテラシー強化において、この取り組みは、デジタルの文化資本の底上げを図るものだと理解できる。デジタル事業に関係ない人には無駄と思われるかもしれないが、俯瞰してみると必要な取り組みだと思える。
(参考:日立のデジタル人財育成の施策は、この先、ベーシックレベル(教育と演習による知識・技法習得)、プロフェッショナルレベル(人財ローテーションによるデジタル案件での実践を通じて実務経験を付与)と続く)
この「デジタルリテラシーエクササイズ」は来年度一般のお客様にも提供する予定で準備中である。興味のある方はぜひお声をかけてほしい。

 多くの人の話から感じるDXの生命線は、DXを理解する経営者の育成、DXのビジョンの明確化、そしてデジタル人財の確保・育成・活性化(組織風土作り)だとあらためて感じる。これを具体的な施策にすることが、各企業とも喫緊の課題だといえる。私ももう少しこの課題に立ち向かうことになりそうである。

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