人材育成コラム

リレーコラム

2014/04/15 (第50回)

BYODと教育現場でのIT活用

ITスキル研究フォーラム クラウド人材WG 主査
NTTコミュニケーションズ 西日本営業本部 担当部長

中山 幹公

 桜もあっという間にピークを過ぎ、花見のタイミングを失ってしまった。桜の満開のタイミングと、週末、さらには温暖かつ好天が重なるのは、ほんとうになかなか難しいものである。
 そんな折、先日とある大学の教授からお声がかかり、クラウドやスマートデバイスなどのITを活用した目新しい講義ができないかという主旨のご相談を受け 花冷えの中お邪魔してきた(ただ、具体的なお話の中身はここでは明かせないのだが)。

 私自身、大学で講義を受けてから、かれこれ25年程も経っているし、当時あまり熱心に講義を聞いていなかったこともあり(苦笑)、いまの講義スタイルを理解するまで時間がかかった。基本的には、パソコン・プロジェクタ・プレゼンテーションソフト(パワーポイント)による講義スタイルが一般的だそうだ。
 そういう意味ではすでにITが講義に活用されているわけで、これをもう一歩も二歩も進めて、新しいスタイルの講義を模索している先生は全国に多数いらっしゃるに違いない。  
※このコラムの読者の皆様も、おそらくアイデアをお持ちの方もいらっしゃるだろう。何かアイデアをお持ちの方はぜひお寄せ頂きたい。

 スマートデバイスの活用というと、PCをスマートデバイスに持ち替えて…ということもひとつだが、やはり学生側がスマートデバイスを使って双方向性を出すと新しいかもしれない。
 ただ、ここでひとつネックとなるのが、わざわざその講義だけのために大学側からスマートデバイスを学生に配布するのは、予算的にもなかなか困難であるという点だ。
 そこで、いま流行の「BYOD」の検討となるわけである。そもそも私の会社に相談が来たのもそのキーワードからであった。

 「BYOD」を少し解説した方がよいだろうか。
 「BYOD」は「Bring Your Own Device」の略で、個人が所有するモバイルデバイスを業務で利用するという概念である。ここでいうデバイスとは主にスマートフォン、タブレット、ノートPCである。
 日本企業においての、通信費用などの削減とワークスタイル変革等を目的としたBYODの導入が進んでおり、BYODを前提としセキュリティを担保しつつ便利に使えるクラウドサービスなども注目されている。

 私の所属する会社も、BYODの導入支援などを積極的に行っている。自社でもBYODを導入しているため、私自身も個人所有のスマートフォンを会社の業務に活用している。最初は懸念や反対意見も聞かれたが、いざ導入してみるとそんな声は聞こえなくなった。会社から貸与された端末と2台持たなくてよくなるし、使い慣れた個人の端末の方が業務でも使いやすく、一社員からの目線でもなかなか悪くない。ましてや、企業としては大きなコスト削減になるということだから一石二鳥というわけだ。

 そこで、企業ではなく大学でのBYOD導入事例を探してみた。すると、最近、九州大学でノートPCのBYODが導入されたようである。
■九州大が私物PCを必携化 国立総合大学では初
 [ITmedia]2014年2月20日
 http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1402/20/news084.html

 従来、大学内でPCを利用するとなると、パソコンルームが設置されていて、その部屋で学生がPCを操作することになっていたり、もしくは学校のPCを貸し出すスタイルがある。しかし、BYODはまだまだ珍しいようだ。
 もしBYODがセキュリティなどを理由に解禁されず、学生が講義でPCやスマートデバイスを利用して学習したり調べ物をしたりといった機会が失われていたとしたら…。学習の効率化という面でも、若者のITリテラシー向上という面からもマイナスであろう。
 これからは大学などの教育現場でもBYODが進んで、様々なクラウドサービスや新しいデバイスが講義や学習にもっと積極的に活用されるようになってほしいものだ。

 話は変わるが、最近ネットであるニュースを見つけた。OECD(経済協力開発機構)が世界の15歳を対象とした学習到達度調査(PISA)の中で実施したアンケートの結果である。「自宅でコンピュータを使う生徒の割合」は、回答した33カ国中、日本はワースト2位。また「学校でコンピュータを使っている生徒の割合」もOECD平均よりも12ポイントも低い60%という結果が出たという。
 このデータから推察すれば、学生が企業に入ってくる前の段階ですでに、日本人のITスキルは世界に大きく遅れを取っているということになる。
 iSRFは日本企業におけるIT人材の育成について考えているわけであるが、世界に目を向けると、「IT人材育成」という面では企業としてはすでに大きなハンディキャップを背負った状態であると言える。

 一部の米国のIT企業は大学向けにサービスを無償提供していたりする。我々日本のITベンダーも、教育現場のIT活用をより積極的に促していく取り組みが求められるし、大学や国・自治体などもBYODをはじめ様々なITの潮流を積極的に取り入れ、若い世代のITリテラシー向上に取り組む必要がある。
 筆者がこの文章を書いている日は、小学校の入学式も多かったようで、散りかけの桜の下、両親に付き添われて学校に向かう子供を何組か見かけた。こういう子供たちが、いまのうちからITを身近に感じ、ITを使いこなし、将来新たなマーケットを切り開くようなイノベーションをもたらしてほしいものだと感じた一日であった。


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