人材育成コラム

リレーコラム

2014/05/20 (第51回)

「ナレッジのコンバージェンス」の時代

ITスキル研究フォーラム クラウド人材WG 委員
シスコシステムズ合同会社 シスココンサルティングサービス シニアパートナー

八子 知礼

 4カ月振りに登場です。その間に、個人的には大きな変化がありました。既にご存知の方も一部いらっしゃると思いますが、3月末でデロイトトーマツコンサルティングを退職しました。4月1日からは、シスコシステムズ合同会社にて、グローバルで新たなビジネスとして立ち上げ中であるCCS(Cisco Consulting Services)のシニアパートナーとして着任いたしました。引き続きなにとぞよろしくお願いします。

 背景としては、自分がデトロイト時代に持っていた「モバイルクラウド」の仮説や将来像を、既存のコンサルティングワークの中ではなかなか実現までご支援できなかったことがあります。また、ビジネスモデル創出までに時間がかかる昨今のM2MやIoT (Internet of Things)といったICTの未来を開くであろう領域も短サイクルで回っているコンサルティングファームのビジネスの中ではなかなか手がけにくいというジレンマを抱えていました。

 そんな折に、昨年頃から「IoE(Internet of Everything)」を掲げているシスコに注目。一緒にビジネスを検討する中で、この会社であれば前職ではできなかったビジネスモデルの創出やワークスタイル変革のご支援、さらにはM2MやIoEのビジネス構築も、「モバイルクラウド」の考え方の将来像として実際に実現可能だと考えるに至りました。IoE、クラウド、モバイルやコラボレーション環境によるワークスタイル改革が主なご支援テーマになります。業界の皆様と一緒に進めて参りますので、様々な形でご相談させて下さい。

 さて、IoEとは、モノのインターネットであるIoTの概念を人、プロセス、データまで接続すべく拡張したコンセプトで、全てがインターネットに繋がっていくことで新たな価値が生まれることを表しています。ところが、この世の中の実に99.4%はまだインターネットに繋がっていないといいます。IoEの考え方で捉えると、インターネットに繋ぐことで新たなビジネス創出や効率化が見込める可能性が非常に大きいのです。その場合の価値創出の額を試算してみると、日本だけでも、今後10年間で76兆円もの巨額の市場が生まれると見込んでいます。

 例えば、市場で発生した品質トラブルとソーシャルでのつぶやき分析から、地上を走る物流トラック内の温度モニタリングの状況、配送ルートを特定、製造元の工場、出荷時期を特定、工場内の機器を接続し、機能レベルでIPアドレスを振っておくと、稼働状況から故障箇所を特定する、といったことが実現可能となります。

 また、車の中で運行中に生じる様々なデータ(加速、ブレーキング、燃料消費との関係、信号や車線などの走行環境のセンサリングなど)を吸い上げます。地図上でマッピングして運転者、ナビメーカー、車メーカーにフィードバックすると気をつける箇所、リッチな付加情報の提供、自動制御のポイントなどかわかり、より安全・安心・快適な運転を実現するなどが可能となります。

 今までは、感覚として把握していたことや、繋がってなかったので計測不能であったこと、放置しておけば経年変化を把握できることなど、メリットと応用範囲は非常に多岐に渡ります。しかしながらこれらは1社で実現しようとすると膨大な先行投資がかさんだり、効果が管理の効率化程度にとどまってしまうことが課題です。

 ICT業界にとっては、これまでのデスクトップとパソコン主体のシステム構築がクラウド、モバイルによってコモディティになってきたこともあり、前述のような今まで社会基盤投資としてしか考えられなかった領域に広く多様なビジネスの可能性があると考えています。

 それらを担う人材には、より広範なスキルが必要となります。また、業界をまたいだ専門性や知識が求められます。これまでのようにカテゴライズが容易だったスキル体系や知識体系を超えなければなりません。いわゆる「ナレッジのコンバージェンス」の時代です。今後、そうした先進教育のあり方の議論が進んでいくことを期待します。

 当然、iSRFにおいても求められる先進のスキルや知識は何かということを前提とした考え方を醸成する取り組みが必要だと考えています。

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