人材育成コラム

リレーコラム

2014/08/18 (第54回)

雲を蹴散らす「鶴の一声」

ITスキル研究フォーラム クラウド人材WG 主査
NTTコミュニケーションズ 西日本営業本部 担当部長

中山 幹公

 大阪勤務になってから二度目の夏に入った。東京と大阪を行ったり来たりしていると、よくどっちが暑いかという話になる。はっきり言ってどっちも暑い。強いて言えば、大阪は地下鉄の駅と駅との距離が東京より長い気がする。言い方を変えれば駅の数が少ないと言った方がいいのかもしれないが・・・。
 ということは、このご時世、タクシーはなかなか使えず、結果、お客様先への訪問などで駅から歩く距離が長い。そういう私の勤務するオフィスも最寄駅から結構歩くので、炎天下の中の営業は汗だくである。まあ、不足しがちな運動を勤務時間を使ってでできているのだと前向きに捉えるようにしている。

 そういう汗を流しながらの営業活動で、何を売っているのかと言うと、大阪の企業にパートナー企業と一緒にクラウドを提案したりしている。おかげさまで最近は、引き合いが非常に増えている。ここ大阪でもITインフラとしての「クラウド」はすっかり認知され、特に最近は基幹系システムをクラウド上に移す企業も増えてきた。事例を挙げれば枚挙に遑がないほどである。
 先日もあるパートナー様の案件で当社のクラウドをご提案頂き、数カ月かけていざ発注か、というフェーズまで漕ぎ着けた。これも、基幹系のソフトウエアをクラウド上で運用するというお話だった。
 ところが、最終発注段階になってお客様の会長さまにクラウドを否定されてしまった。結局、そのソフトウエアを使うことは決定したのだが、インフラはオンプレミスで構築することになったのである。
 詳細なコメントは聞いていないが、要は「クラウド?そんなの大丈夫かいな?やめといた方がええで」と言ったとか言わなかったとか・・・。

 パートナー様を通じての提案であるため、この会社の意思決定プロセスなどを十分把握していなかったし、巻き返し工作もできず(なぜかと言うとパートナー様はオンプレミスの構築でも十分ビジネスになるので)、がっくり肩を落とすしかなかった。当社としては、いわゆる「鶴の一声」により、この数カ月の努力は水の泡という訳である。
 まあ、ビジネスではこのようなことはよくあると思う。しかし、それにしてもクラウドを否定する理由が納得いかない。情報システム部門の方も、予想外の反応で反論ロジックをきちんと用意していなかったのだろうか。会長さんと直接お話しできればよかったのだが残念だ。

 私は日本での黎明期からクラウドに関わらせて頂き、クラウドの認知向上には少しは貢献できたと思う。しかし、クラウド自体は広く認知されても、まだまだその本当の価値や信頼感が浸透している訳ではないのだなと痛感した。
 また、別の見方をすると、おそらくこの会長さんはITのことがよくわかっていないのだろうと考えられる。同様に、日本の会社のトップはITのことを知らない方が多すぎるのではないかとも思える。また、それにきちんと反論できない情報システム部門。そういう情報システム部門こそ、サーバーの運用は外部に任せてクラウドにした方がよいのだが・・・。
 もちろん、土壇場でひっくり返るリスクを考えて対策を取っておくという営業努力を怠った結果とも言えるのであり、教訓として次に活かそうと思う。それと同時に、企業の経営層へのクラウドの啓蒙活動もまだまだ大事だと感じた一件でもあった。

 なお、どうでもいい話だが、「鶴の一声」という言葉は短縮形のようで、ロングバージョンは「雀の千声(せんこえ)鶴の一声」というのだそうだ。雀が千回鳴くよりも鶴の一鳴きの方が俄然威力があるということだろうか。
 身近に、「クラウドなんか大丈夫か?」と漠然と思ってらっしゃる鶴の方がいらっしゃったら、いつでもきちんとご説明差し上げます。ぜひお声掛けください。

この記事へのご意見・ご感想や、筆者へのメッセージをお寄せください(こちら ⇒ 送信フォーム