人材育成コラム

リレーコラム

2015/05/19 (第63回)

デジタル化で日本企業が遅れないために

ITスキル研究フォーラム クラウド人材WG 委員
シスコシステムズ合同会社 シスココンサルティングサービス シニアパートナー

八子 知礼

 前回はITとOT(Operational Technology)の双方にわたるスキルの必要性について言及しました。今回はそれらを包括的に俯瞰した「デジタル化」における基本的な考え方と必要なスキルについて言及したいと思います。

 近年IT領域を牽引しており、業界構造を激変させているモバイル、クラウド、ソーシャル、アナリティクスといった技術領域は「第3のプラットフォーム」 と呼ばれ、企業におけるIT支出全体の伸びの89%を占めると言われています。

 これらのソリューション領域はすなわち総じて企業がデジタル化していく際に対応していく象徴的な領域と考えられており、企業のあり方を大きく変える考え方として注目されていることは既に肌身にしみておられるのではないかと推察します。シスココンサルティングサービスではこのデジタル化について特徴を捉えた「デジタルフラワー」というコンセプトを提唱しています。(http://japan.zdnet.com/article/35063810/

 イメージなどはリンク先を見ていただくとして、我々はデジタルの特徴としては物理的な重さが“ゼロ”で形がないこと、劣化せずに拡張できること、繋がることで価値が大きくなること、と定義しています。

 これをICTビジネス、およびICTが対象とする注力領域の製造業のIoTや医療・ライフサイエンス、教育やホテル・観光産業などに投影すると、現在のビジネスはまだまだデジタル化が進んでおらず、その恩恵を十分に享受することができていないことが歴然と見えてきます。

 例えば、製造業においては「モバイルデバイスを活用して業務が遂行できる」といった環境に恵まれているワーカーは全体のほんの数%いるかいないかです。クラウド上にデータを蓄積してそれをアナリティクス的なアプローチでリアルタイムに活用しましょうといった取り組みは、特に日本の場合は、欧米と比べると1年半から 2年ほど遅れていると言わざるを得ません。その理由はほとんどの場合が、形が無いがゆえに取り組みの意義が見えにくいからというものであったり、劣化せずに拡張・拡散しすぎてセキュリティが漠然と心配だという意見であったり、何をどう繋げてビジネスをつくるのかが自社だけでは想定できないというものだったりします。というよりもほぼこの3つの“言い訳”に尽きます。

 すなわち、デジタルの恩恵にあずかれる今の時代であるにも関わらずそれらに反することばかりを懸念して前に進めずにいることばかりです。製造業のみならず医療・ライフサイエンスやその他の業界でもほぼ同様に、このデジタルのメリットを積極的に追いかけて活用しようという意識と意欲、そして意思決定が希薄なのです。

 ICT業界の我々にとって重要なことは、これらを嘆いていても仕方がないので、多様な視点と効果に関する考え方をベースとして、早く実際の取り組みにシフトしていただくことに尽きます。そのためにはICTのナレッジやスキルだけでなく、複数のバリューチェーン内の顧客接点や情報が蓄積・変換されるポイントを見つけて、それらに対して新たな付加価値を提言し、説得していくことが必要になってきます。

 求められるスキルはICT的な視点で見つつも、そうした業務観点からの効果の訴求の仕方、IT部門以外の方々へのわかりやすい説明方法(特に横文字ばかり、技術用語ばかりになりそうなことの回避)、経営レベルまで幅広く取り組み効果を積み上げて説明ができるスキルなどもまた、求められてくると思います。

 今後、このデジタル化はIoTの波に乗って2020年頃まではしばらく続いていくトレンドになると考えられます。その際にいかに幅広なバリューチェーンやエコシステム全体の視点で捉えられるか、ICTから業務、コミュニケーション、アプリケーション、コンテンツ、サービス、マネジメントといった多様なレイヤーの考え方でビジネスを捉えてデジタル化を仕掛けて効果獲得できるかのスキルが問われます。ICTスキルを拡大したスキル体系のあり方としてはぜひとも理解をしておいていただくことをおすすめします。


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