人材育成コラム

リレーコラム

2016/08/23 (第77回)

人間の身体と技術革新

ITスキル研究フォーラム クラウド人材WG主査
NTTPCコミュニケーションズ 営業本部

中山 幹公

 さる7月1日に、社命により、3年半勤務した大阪を離れ東京に戻り、NTTコミュニケーションズ(株)から、グループ会社である (株)NTTPCコミュニケーションズへ出向となった。
 所属する会社の社名に「PC」が追加された形になったが、実は親会社のNTTコミュニケーションズよりも15年程早く設立されている会社で、子供の方が親より年上だという珍しい状況だ。設立当時、商用のパソコン通信ネットワークを生業としておりその名残りで今も社名に「PC」が付いている。従来から、NTTグループにありながら、新規の技術やマーケットにいち早く果敢にチャレンジしていく切り込み隊長的な役回りであり、今でもその姿勢を持ち続けている、なかなか面白い会社である。(今後とも、NTTPC社ともどもよろしくお願い申し上げます)

 ところで、夏休み中にこのコラムを執筆中なのであるが、目下、リオデジャネイロ・オリンピックが真っ盛りである。日本人選手も大活躍で、連日TV中継を見続けて、すっかり寝不足の方も多いことだろう。オリンピックが終わると、9月からはパラリンピックが始まる。 パラリンピックは、当初は障害者のリハビリ目的であったスポーツが、徐々にレクレーションとして行われるようになり、さらには競技としてレベルアップし、それが国際大会にまで発展したと言っていいだろう。
 もちろん、オリンピックと同様、出場選手の身体能力や技術、日頃の鍛錬の成果を発揮する場であるが、同時に競技に必要な補助具の技術をお披露目し、高め合うという側面もある。実際、補助具の技術革新は目覚ましいらしく、素材の多様性や加工技術の進歩により各競技に適した、非常に優れた補助具が開発されている。3Dプリンタの活用で、補助具の低価格化も進みつつあるようだ。また、ロボット技術からの応用により、体内の電気信号を検知して動作するもの等も出てくるなど、様々なIT技術がここでも活用されている。

 補助具は、本来は障害者の運動能力をサポートし、健常者のそれに近づけるという目的のものであるが、技術革新により、健常者を上回る性能を発揮しつつある。実際、今回のリオ五輪でも義足の走り幅跳び選手の出場を巡って議論になった。
 ロンドンパラリンピックの走り幅跳び金メダリストであるドイツのレーム選手の記録(8.40m)は、実は同オリンピックの同種目金メダリストの記録(8.31m)を上回っており、彼はリオではパラリンピックではなくオリンピックへの出場を当初希望し、国際陸連で参加可否の結論がなかなか出ず、結局ギリギリになって、自ら出場を辞退するということになった。今後、国際陸連の作業部会でレーム選手自身もメンバーに加わりルール検討が行われるそうだ。

 レーム選手の出場にあたっては、補助具である義足が走り幅跳びのジャンプで健常者の脚よりも有利に働いているかどうかが議論のポイントとなり、それの結論がまだ出ていないようであるから、現時点ではこの義足が健常者の脚よりも能力が上回っていると結論づけることはできない。 ただ、近いうちに、健常者の脚の能力を上回る性能を持つ義足が出てくることは想像に難くない。
 まだまだ先の事かもしれないが、義足や義手が体内の電気信号をキャッチして思い通りに動き、もともと備わっていた手や足よりも優れた運動能力を発揮し、さらには見た目もまったく生身のそれと判別がつかない、という優れた製品が出てくるだろう。
 これは、義足や義手に限らず、体内の各臓器に関しても同様で、臓器に病やハンディを持つ人の強い味方になっていくことだろう。

 そんなことを考えていたら思い出したのが、先日、JBCCさんの大阪でのイベントに参加し拝聴させて頂いた、日本のロボット/アンドロイド研究の第一人者である大阪大学の石黒先生の「ロボットと未来社会」と題するお話だ。石黒先生の名前を聞いてもピンとこない方もいるであろうがテレビでマツコデラックスさんのアンドロイドを見たことがある方は多いのではないだろうか。あれも先生の研究成果のひとつである。

 先生の話は、ロボット/アンドロイド開発の最先端を紹介しつつ、それを突き詰めていくと、「人間とは何か」という問いに行きあたるという ものだった。ここでその話をしていくと非常に長くなってしまうのでやめておくが、興味のある方はぜひネットで検索して先生の研究やインタビュー記事等をご覧頂きたい。

 先生の言葉を引用しつつ考えを膨らませていくと、現在、健康な肉体や臓器を持っているのに、それをわざわざ補助機械に替えるような人はいないだろうが、技術革新が進んでいくと、自分の身体が徐々に衰えていったとき、そのハードルは徐々に下がってくるだろう。機械は取り換えが効くので人間の体と違って永遠に機能しつづけられる。仮に、脳の情報がコンピュータに移植できるようになり、全身機械の身体に自分自身の意識を持ったまま移行することが可能で、見た目も寸分変わらない、いや若返るとすると・・・そうした決断を迫られたとき、機械の身体を拒絶することがはたして我々にはできるだろうか・・・

 こうなると銀河鉄道999の世界に入ってしまうが、未来の人類は、もしかするとそういう難問に立ち向かっているかもしれない。 ちょっと飛躍しすぎてしまったが、4年後の東京オリンピック/パラリンピックではパラリンピック選手の補助具や、大会全体を支える様々な最先端技術にも注目したいところである。

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