人材育成コラム

リレーコラム

2017/11/20 (第90回)

情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)の今後は

ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社アイテック 顧問

福嶋 義弘

 平成29年度 秋期情報処理安全確保支援士試験が10月15日(日)に実施された。それに先立ち9月4日にIPA(独立行政法人情報処理推進機構)より「平成29年度秋期情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)試験及び情報処理技術者試験の応募者数について」がプレスリリースされた。

 大半の試験の応募が増えるなか、目立ったのが情報処理安全確保支援士(以下、支援士と記述する)の応募者減である。応募者数対前年比増減率-28.9%であった。3月の当コラムでも取り上げたが支援士の試験は平成29年度春期より情報セキュリティスペシャリスト試験に代わり実施され、試験合格者対象に登録制度を持つ国家資格として新たに始まった試験制度である。支援士は第一回の春期試験でも応 募者数は前年同期比-6.5%であった。

 初回は様子見もありやむなしと思ったが、なぜ減っているか疑問が残る。募集者数は減ったとしても約23,500人と基本情報技術者、応用情報技術者に次いで人気は高い。

■独立行政法人 情報処理推進機構 プレス発表資料
https://www.ipa.go.jp/about/press/20170904.html


 支援士の資格については相変わらず賛否両論であり、主要ベンダの対応は様子見が大半で積極的に登録推進する企業は少ない。そうしたなか、今年4月1日には経過措置として、既存の「情報セキュリティスペシャリスト試験」と「テクニカルエンジニア(情報セキュリティ)試験」の合格者を対象者として、2016年10月24日から2017年1月31日までに申請した人、4,172人が診断士として登録された。

 支援士の対象者像は「サイバーセキュリティに関する専門的な知識・技能を活用して企業や組織における安全な情報システムの企画・設計・開発・運用を支援し、サイバーセキュリティ対策の調査・分析・評価を行い、その結果に基づき必要な指導・助言を行う者」である。

 IPAはセキュリティ専門家を認定する資格としており、スキルレベルはITスキル標準(ITSS)のレベル4に当たる。このような人材はどこで聞いても不足しているとの認識は変わらない。また、日経BP社のITproの「いる資格、いらない資格」実態調査では「情報セキュリティ部門」、「これから取りたい資格」では1位である。

■日経BP社 ITPro 「いる資格、いらない資格」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/17/073100321/081000004/?rt=nocnt

 なぜ各ベンダが前向き気にならないのか不思議である。おそらく、資格にメリットがないことが一番であろう。主な理由は次のとおりと考えられる。
  • 資格がなくても業務に支障はなくビジネスメリットがない。
  • 資格登録の維持に3年間で15万円の費用がかかり、負担が大きい。
  • グローバルではCISSP(Certified Information Systems Security Professional)が支援士より権威がある。
 それぞれのネガティブ意見は否定できない。しかし、本来の情報処理技術者試験の目的は何であろう。IPAが示す、情報処理技術者試験の目的は次のとおりである。
  1. 情報処理技術者に目標を示し、刺激を与えることによって、その技術の向上に資すること。
  2. 情報処理技術者として備えるべき能力についての水準を示すことにより、学校教育、職業教育、企業内教育等における教育の水準の確保に資すること。
  3. 情報技術を利用する企業、官庁などが情報処理技術者の採用を行う際に役立つよう客観的な評価の尺度を提供し、これを通じて情報処理技術者の社会的地位の確立を図ること。
 標的型攻撃やランサムウェアなどサイバー攻撃の手法は日々変化し、対抗する新しい技術が必要となる情報セキュリティの分野では、スキルレベル維持、向上のため、技術者は日々努力しているはずである。そんな技術者のスキルレベルの客観的評価が試験であり、資格であると考える。

 企業もそのための育成費用を惜しむものではなく、資格取得を推進すると考えられる。そして技術者は身についたスキルを実務の場で活かし、さらなるステップアップ、重大なセキュリティ事故回避につながれば企業としてもメリットは大きいはずである。それが情報処理技術者試験の目的であり、主旨であると考える。試験の権威や有資格者のレベルの向上が認知されればおのずと制度は推進される。
 情報セキュリティ人材の育成ニーズ、支援士資格取得意欲は高いことは自明である、保有者増加のため制度ありきで考えるのではなく、もっと情報処理技術者試験の目的に立ち返る必要があるのではないか。

 IPAは2017年10月31日(火)に支援士試験における新たな免除制度の運用開始を公開した。
 若年層における情報セキュリティ人材の育成推進のため、IPAが認定した教育機関、学科などにおける情報セキュリティに関する課程を修了した者(修了見込み者を含む)は、当該課程の修了認定を受けた日から2年以内に受験する「情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)試験」について、午前Ⅱ試験の免除が受けられる。この制度は11月1日(水)から免除に関する申請の受付を開始する。

 実務経験の少ない対象者の免除制度であり高度のスキルを要求される支援士試験の制度として、主旨が理解できない。どれだけ成果が出るか、今後の動向を見守りたい。


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