人材育成コラム

リレーコラム

2018/2/20 (第93回)

デジタルトランスフォーメーションを推進する人材の要件とは

ITスキル研究フォーラム データ利活用人材 ワーキンググループ主査
株式会社チェンジ 執行役員

高橋 範光

 最近名刺交換をした方の組織名に「デジタルトランスフォーメーション」という名称が入っているのを見かけるようになってきた。
 AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などデジタルソリューションを活用することで変革を生み出す、という意味で使われていることが推察される。では、企業ではデジタルトランスフォーメーションによって、どのような変革を生み出すのであろうか。また、そのような変革を生み出す人材に求められる要件とは何か。今回は「デジタルトランスフォーメーション」について考えてみる。

 そもそも、デジタルトランスフォーメーションとは何か。調べてみると、意外に古く2004年にスウェーデンにあるウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した「ITの浸透によって人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」という定義を見つけることができる。ここでいうITとは、もちろん、旧来の効率化のためのITソリューションではなく、クラウドやモバイル、IoT、ビッグデータなどの新たなITを指している。

 このデジタル化の流れは、単なるトレンドではなく、これまでの歴史でいう「産業革命」に相当するものであるともされており、「第四次産業革命」を生み出す技術という位置づけで捉えられることも多い。このように考えれば、不可逆的かつあらがうことができない変化を生み出す新たな技術と見ることもできる。一過性ではなく、むしろどのようにこの技術を継続的に生かしていくべきかを考えた方がよいともいえるだろう。

 もう少し具体的なビジネス変化という点で考えてみると、モバイルやIoTによるプッシュ通知が生み出すような「リアルタイム」の価値や、これまでの多くの経験値をAIに入れることによって生み出される「将来予測」を経験の浅い人が利用することによって生み出される価値、また、ソーシャルネットワークによって無数の人材の需給バランスを最適に「マッチング」することで得られる顧客価値を最大化するものなど、既出のビジネスも含め、様々なビジネスアイデアを考えることができるだろう。

 では、このデジタルトランスフォーメーションの流れを推進する人材とはどのような要件を持った人材であろうか。前述したようなビジネス変化、ビジネスアイデアを生み出せる人材はもちろん必要である。しかし、このようなデジタルトランスフォーメーションのアイデアを生み出すのに必要なものは、コンサルティング力や要件定義力というよりも、むしろ「顧客志向」という視点・マインドの方が重要だと考える。

 これまでの産業革命は確実に我々消費者の側面から、社会が便利になるような変化をもたらし続けている。次のこの便利な変化を生み出す技術こそが「デジタル」である。デジタルでどのように便利になるのか、幸せになっていくのかという観点で思考を深められるかどうかが、ビジネスアイデア創出において極めて重要になる。

 ここ数年、デザインシンキングやカスタマージャーニー、UXなど顧客に寄った思考を重視した研修や発想法が多く出てくるようになったのも、このデジタル化の流れとあいまってのものだと考える。よってこれらの技法の表面上の意味を理解すること以上に、真の「顧客」目線が重要であるといえるだろう。

 ではどのように顧客目線を持つのか。この問いに答えるのが「データ」であろう。単なる顧客のプロファイルデータではなく、顧客の活動データ・プロセスデータを収集することによって、顧客の行動を明らかにし、顧客の求めるものを把握できるようにすることが、今求められるスキルであり、これこそが今後求められる「データサイエンス」のスキルである。

 データサイエンスを習得するためには「統計」の重要性がうたわれることが多いが、統計と同様に重要なスキルが「データ取得」スキルであり、顧客を想像できるデータこそが分析するに値する「価値のあるデータ」といえる。

 今後のデジタルトランスフォーメーションを牽引する人材とは、顧客をイメージできるデータを取得し、活用することによって、顧客が求めるものを常に把握し、顧客に提供できる価値をデジタルで実現できる人材であると考える。

 2018年1月10日に、経済産業省は、IT・データ分野を中心とした将来の成長が強く見込まれ、雇用創出に貢献する分野について、専門的・実践的な教育訓練講座を経済産業大臣が認定する「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」について、23講座を認定した。

■経済産業省ニュースリリース
「第1回『第四次産業革命スキル習得講座』を認定しました」

http://www.meti.go.jp/press/2017/01/20180110001/20180110001.html


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