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■ 人材育成コラム

“人財”育成のツボ
ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント, PSマネジメントコンサルティング 代表
安藤 良治

2014/03/18  (連載 第58回)
OJTを機能させることが全社的なテーマ

「私のチームの課題は、作業量の平準化です。チームの中心人物であるA君に作業が集中し、彼の残業は突出しています。このままだとA君の健康面も心配だし、 A君が抱えることで他のメンバーが育っていないことが問題です。もし、A君が倒れたりしたら、危機的状況になります」

 これは、係長職を対象にした私が担当する問題解決研修で、ある受講者が提起した「職場の課題」です。
「仕事ができる経験者に作業が集中し、他のメンバーは何をしていいか分からず先輩が残業しているのを横目にさっさと帰る。あるいはやることは無いけれど、 何かやっているふりをしながら残業をお付き合いする」
 OJTの機能が働いていない職場では、よくこのようなことが起こっているようです。付き合い残業なんかするくらいなら、貪欲に先輩の仕事を学び、盗み、 自己研鑽しながら、「いつの日か自分が中心になって、やってやろう」くらいの気概で共に汗を流してほしいものです。その気持ちや姿勢が、仕事の伝承につな がり、「OJTと自己啓発」を中心とした日本企業の人を育てる文化が継承されます。
 しかしながら、OJTの機能が低下している職場では、自らを奮い立たせる自己啓発の意欲も高いとは言えません。個々のメンバーに自覚を促すだけでなく、 「OJTと自己啓発」が機能する組織的な取り組みが必要だと思います。

 話しを元に戻しましょう。さて、A君の作業をうまく振り分け、平準化するためにはどうすれば良いでしょう。研修では、このテーマを1つのグループが取り 上げ、「決定事項分析」のプロセスを適用して解決策を議論しました。
案1:業務分担を見直し、A君の作業量を減らす
案2:上記の案に加え、1つの案件の担当を2名体制にする
案3:A君の立ち位置を変え、チームの意識改革を行う
案4:人員を増やし、A君の案件を2名体制とする

 どの案が最適かを評価するため、「評価基準」をグループで議論して定めました。その項目とウェイトは次の通りです。
「チーム内で業務のリスク分散ができる」10点
「A君の残業時間が減る」        8点
「チーム内の残業時間の個人差が少ない」 8点
「全体の残業時間が少なくなる」     7点
「メンバーのスキルアップにつながる」  6点
「早く展開できる」           5点
「スキルアップにかける時間が短くてすむ」4点
「スキルアップにかけるコストが安い」  2点

 この評価基準をもとにそれぞれの案を評価しました。その結果、案2が374点、案1が僅差の366点、案4が346点、案3が145点となりました。
 評価する項目を列挙して、そのウェイトを決める。これが「意思決定」を見える化する重要なプロセスです。メンバー一人ひとり価値観は異なるはずですが、 まずこの評価基準をグループで合意して、各案を評価して出てきた得点を「第1次案」として確認します。
 次に上位の点を得た案1と案2についての実施上のリスクについて話し合います。まず案1については、
「業務の見直しはしたが、スキル不足で作業分担ができない」
「新たな業務の担当により、かえって残業が増える」
のリスクが抽出されました。案2については以下のリスクが判明しました。
「2名体制としても正・副の立場で作業量に偏りが出る」
「結果として残業時間が増える」
 これらのリスクの予防対策を議論した結果は次の通り。
「スキル不足にならないよう教育する」
「残業については、一時的にはやむを得ないが、上記の教育により一時的な現象に留める」
「それぞれが独り立ちできるまでは、2名体制は正・正で行なう」
 このように想定されるリスクについて話し合い、いよいよ最終案について意思決定します。課題を提起した受講者が、全員の前で発表しました。
「今回の意思決定にあたっては、『チーム内で業務のリスク分散ができる』ことのウェイトを最も高く評価しました。結果、案2の『業務分担を見直し、1つの 案件の担当を2名体制とする』を最適案として決定しました。この案により、A君の作業量は減り、残業時間の平準化も期待できます。しかし、リスクで抽出し たように実施上の課題が多いことも事実です。とりわけ、スムーズな移行ができるような教育の計画と実施が重要な鍵となります。職場に戻り、教育計画の策定 とその具体的な展開に取り組みたいと思います」
 これが、研修での議論の結論です。結局は、「どうやってOJTを行うか」が鍵となる結論でした。この発表を聞いていた他グループの受講者から、次のよう な意見が出ました。
「係長自ら陣頭指揮を取り、教育の指導を行うとかしないと、かえってA君の負荷が高くなるのではないか」
 発表者は、そのことを自覚していました。
「今回の結論は、実は頭の中では分かっていました。いつかはやらなければならないと。今回、このことが明確にできたことで、職場に持ち帰り展開するつもり です。ご指摘のことは念頭に置いて取り組みます」

 私が担当する問題解決研修では必ず、現実の「職場の課題」を扱います。問題解決の手法を学ぶだけで、実践で適用できない、ということを避けるためです。 その際、「職場の課題」として提出されるテーマの多くが、「人の育成」に関することです。そして「人の育成」をテーマとして議論すると、決まって「OJT の実践」が結論の一つとして導き出されます。
 これは、ITの現場だけではありません。先日実施した製造メーカーの新任課長職を対象にした研修でも、「作業者を多能工化するための方策の策定」という テーマが取り上げられ、その対策案として「マニュアルを作成し、職場内で教育をする」案が最適との結論を得ていました。
 もっともな案ではあるものの、「どうやってマニュアルを作るのか」「自分たちで教育するといっても、果たしてうまく指導できるか」と実行面での不安を抱 えての結論となっています。

 仕事を通じて人を育成することが有効であることは事実です。そのOJTがうまく機能している職場と、そうでない職場では、モチベーションも含めて相当な 違いが生じます。多くの職場でOJTを上手く機能させたいという課題を抱えています。現場任せにしていては、この課題が解決できずに放置されることになり かねません。
「OJTを機能させること」
 今、どの企業でも全社的なテーマとして取り組みたい課題ではないでしょうか。

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