人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2009/12/25  (連載 第7回)

「自ら考える」習慣を身に付ける(1)~ 問題発見と解決のための思考力を鍛える ~

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

───「今の若い人は、探そうとする。インターネットで探せば、いい答えがいくらでも出てくる。卒論を書こうと思えば、迷わずインターネットで探してきて、カット・アンド・ペーストで済んでしまうので、自分で考えない。(~中略~)表面的な知識しか持たない人は、トラブルが発生した際に素早い対応ができず、結果的にコスト高を招いているのである。」───

 これは、「経験からの学習」(松尾睦 著 同文舘出版)の一節です。
 若い人に限らず、情報を入手するスピードは、昔に比べ格段に向上しました。情報技術の進展が便利な社会をもたらしたわけで、喜ばしいことです。
 しかしながら、この便利さが「他者の知識に頼って、自ら考えない人」を生み出しているとすれば考えものです。すぐさま対策を講じる必要があります。

 例えば、ひとつのプロジェクトが進む中ではトラブルに見舞われることがよくあります。「自分で考える力」を身につけているメンバーと、そうでないメンバーでは、行動に驚くほど違いが出てきます。普段は冷静で能力が高いと思われていたメンバーが、トラブルを前に責任を転嫁したり思考停止状態に陥るケース。マイペースで仕事中の雑談が多いように見えていたメンバーが問題を前に適確に原因を究明し解決策を提案してくるケース ─── 平常時とは異なる人物像が、異常事態を前に顕在化するわけです。

 では「自分で考える力を養う」ためには、どうすればよいのでしょうか。
 一つは、経験(特に失敗経験)から学ぶことであり、もう一つは問題発見と解決のための思考力を鍛えることだと、私は考えます。

経験から学ぶ(研修だからこそできる失敗経験)

 私は、企業研修の講師を担当させていただく中で、最初に「研修では、積極的にチャレンジしてください。うまくやろうと考えず、大いに失敗してください。研修での失敗は財産になり、実務に活かすことができます」と失敗を奨励することにしています。私達は、経験から(特に失敗の経験の中から悔しい思いもして)学ぶことが多々あります。ある失敗の経験が、その後の自分の成長につながるという例は枚挙にいとまがありません。先人の書物でも数多く紹介されています。
 ところが、実務においてそうそう失敗を奨励するわけにはいきません。現代ではちょっとしたミスが社会問題にまで発展し、重大な影響を及ぼす事態にもなりかねないからです。そこで、企業研修という場面で失敗を味わい、悔しい思いから学習につながるよう奨めているわけです。

 例えば、プロジェクトマネジメント力の強化を目的とした研修で、次のような失敗をしばしば目にします。あるシステム構築に関するケース研究を進める中で品質上の問題が発見されたました。受講者は品質重視の対策をとりまとめて顧客に提案しました。しかし、このケースで顧客の最重要課題は、競合会社との競争戦略に打ち勝つため、サービスインの期日を守ることでした。機能を落としてでも納期を最優先して欲しい、という顧客の思いをきちんと汲み取っていない対策を提案してしまったのです。
 実際の現場でも顧客の目的をきちんと把握せずにベンダー寄りの視点で対処してしまい、問題を大きくするということはよくあります。普段陥りやすい失敗を研修で体験することで、顧客の目的を確認することの重要性に気付くことができます。結果として、現場での失敗軽減につながります。

 私が研修で「積極的なチャレンジ」を求めるのは、講師にも受講者にも真剣勝負のつもりで研修に臨んで欲しいからです。また、そうでなければ本当に「悔しい思いから学習する」ことにつながらないからです。
 研修だからこそできる失敗経験 ─── 企業研修に求められる一つの姿だと思います。

 次回は、「自分で考える力を養う」ためのもう一つの方策「問題発見と解決のための思考力を鍛える」をテーマに展開します。

(※この記事は2009年12月7日に「iSRF通信」で配信された記事を元にWeb掲載用に編集したものです)


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