人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2018/6/20 (連載 第109回)

ティール組織に学ぶ(1)ティール組織とは?

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 Amazonで図書を購入したことのある人なら、最近「ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」のタイトルでフレデリック・ラルー著(英治出版刊)の図書紹介のメールが頻繁に届いているのではないだろうか?
 現在、Amazonの企業経営のジャンルで2位(しばらく1位だったが、最近2位に転落)の話題の本である。
 長年人事部門に従事していた私にとって、刺激的なタイトルである。その本の帯には、「上下関係も、売上目標も、予算もない!? 従来のアプローチの限界を突破し、圧倒的な成果をあげる組織が世界中で現れている。」
 そんな組織は可能なのか? あっても、少人数の特殊な組織ではないのか?と、疑問を抱きつつ、本書を手に取り、じっくり読んでみた。

 そして、フレデリック・ラルーのコンサルタントとして現実社会を数多く見てきたなかから、一つの潮流を発見できたことを読み取れた。理論先行の学術本ではなく、「12の企業の実例」のなかから、共通する事象を分析し、次世代の組織についてこれまでの組織と比較しながら論じている。
 素晴らしい著書である。いくつかの疑問は残っているが、新しい時代にあった潮流として納得できる。その実現には、ICTの発展が欠かせなかった、逆にいえば、ICTの発展が理想の組織を出現させ始めているといえそうである。
 私はIT人材育成協会において、OJLの活動を推進し、そこで学んだ人たちが職場に戻って自立的に活動されることを願ってきた。しかし、現実には、現行の組織では、自立的行動を阻害する要因が多いことも事実だった。
 例えば、こんな声を聞いたことがないだろうか?
 「自立しろ」と皆さんおっしゃるけれど、仕事の意思決定は誰がするのですか?
 私たちは現場の最前線で、顧客の矢面に立って顧客の満足を得ながら、業績も確保しようと努力をしています。競合にも勝たなければいけません。
 そこで、顧客から提示された課題に対して最善の提案ができるよう検討し、組織の意思決定者にお伺いをたてます。
 幾層にも重なる組織の長にお伺いを立て、最初の上司に軌道修正され、さらに上位層にもまた軌道修正され、時には諭すようにあるべき姿を指導され、結局下った裁定は、現場が考えるのとはかけ離れた意思決定となることもしばしばあります。
 現場で顧客の矢面に立っている私たちが最善と考えた提案をしているのに、いろんな層でそれぞれの立場の人が口を挟むから、最善の提案ではなくなってしまう。中途半端な提案では、顧客の満足は得られないし、結局競合にも負けてしまいます。
 映画「踊る大捜査線」での有名なセリフ「事件は会議室で起きているんじゃない!現場で起きているんだ!」と言いたくなる心境ですよ。
 また、リーダー研修を受けたある受講者からこんな愚痴を聞いた経験もある。
 「リーダーって大変ですね。ビジョンを示して、こっちに行くぞ!と号令をかけることは大事ですね。組織のリーダーは、上位のマネジャーとの連携も取りながら、顧客やパートナー、数多くのステークホルダーとの調整もしなきゃなりません。そのような調整をしながら、設定した目標値に到達する責任を負っています。
 それだけでも大変なのに、チームメンバーへの動機づけや各メンバーの価値観の違いを認識してそれぞれに配慮しろですか。
 言っていることは分かりましたけど、大変ですね。
 誰がそんな面倒なリーダーを引き受けたいと思うのですかね。
 会社がもっとしっかりメンバーの教育をして、リーダーが方向性を示したら、チームメンバーの一員として、そのチームの目指す方向に努力するように育てることが大事なのではないですか?
 サーバントリーダーなんて言葉は、ゾッとします。自分がもう一人、いや二人いればチームはうまくいくと思うんですけどね」。

 目標による管理を導入した企業では、本来の事業目的よりも業績数値の確保が主目的となり、その目標の厳しさゆえに次第にゆがんだ運営が問題となって現れてきているのも、近年の特徴ではなかろうか。
 欧州でディーゼル車の排ガス不正をめぐる疑惑、2015年にドイツのフォルクスワーゲン(VW)で発覚した排ガス規制逃れ問題から、欧州各国が調査したところ、続々と疑いが浮上した。別の問題ではあるが、日産、スズキ、スバルにおいても品質基準に関する問題が発生している。
 自動車に限らず、不正、ごまかしといった事件の発覚は、枚挙にいとまがない状況である。
 本来の事業目的から逸脱した事業活動、世界的により厳しくなる環境規制、以前よりも求められる企業の社会的責任。企業は、従来型組織の見直しに迫られているのは事実であろう。

 そこで登場したティール組織。
 調査対象会社になったFAVIの例を取り上げよう。
 FAVIは、フランスの金属メーカーで、主力製品は自動車産業向けのギアボックス・フォークの製造販売をしている従業員500人の企業だ。
 設立は1957年、もともとは一般の企業と同じようにしっかりと組織を定めそれぞれの役割を分担して活動していた。
 1983年にゾブリストがCEOに就任し、抜本的な組織の変革に取り組み始めた。
 FAVIは典型的な製造業、ブルーカラー的な作業中心である。

 ほかのメーカーが人件費を節約するために中国に生産拠点を移すなか、FAVIは欧州に残った唯一のメーカーである。それだけでなく、ギアボックス・フォークで50%の市場シェアを誇っている。品質は高く、過去25年納期に遅れたことは一度もないという。
 実績は、確かであり、製造業ということでどの業種でも抱えている共通の問題を有しながら、ゾブリストはどんな改革に取り組んだのか?
 本書からそのまま引用しよう。
 ゾブリストが大変革を起こすまでは、FAVIは、現在どこにでもある製造業者と同じく、込み入ったシステムを採用して社員を統制し、ルールを守らせていた。ホワイトカラー以外の労働者はタイムカードで出退勤を管理され、機械ごとに一時間当たりの生産量が記録されていた。作業員が仕事に1分でも遅れるか、生産量が時間当たりの目標を下回ると、相応の金額が毎月の給料から減額されていた。

 CEOに就いた直後、ゾブリストは事前予告なしにタイマーを取り外し、生産ノルマを撤廃した。ゾブリストに仕事を引き継いだ前経営陣は仰天した。「これは、破滅への道だ!」「生産性が崩壊する!」というわけだ。ゾブリストは、管理統制システムを取り払った後の一週間は、生産性の数値を毎日チェックしたことを認めている。何が起こるかがはっきりとわからなかったからだ。彼は信頼の力を固く信じており、生産性は低下しないだろうと念じていたが、自分の賭けが成功するかどうかの保証はなかった。

 やがて、生産性は下がらず、むしろ上がっていることが明らかとなった!
(ここからは部分抜粋)
 作業員たちは自分に対するイメージが変わったのだという。以前は給料をもらうために働いていたが、今は自分の仕事に責任を抱き、仕事をきちんと仕上げることに誇りを持っているというのである。

 ゾブリストがCEOに就任した当時は、80人ほどの会社であったが、現場労働者の上には作業係長、課長、製造部長がいた。製造部長は、経営陣の一員として、営業、エンジニアリング、戦略策定、保守、人事、財務の各部長とともにCEOに直接報告する立場にあった。今日のメーカに見られる一般的な組織形態をとっていた。

 ゾブリストは、次々と改革に着手して、ティール組織の一つの特徴である「自主経営」組織に改革した。顧客に対応した「ミニファクトリー」というチームを編成し、そのチームには営業も製造作業者も一緒になって活動する。基本的にはそのチーム内で全て意思決定ができる体制とした。これまでスタッフ機能で行っていた採用、購買、企画、スケジュール管理はすべてチーム内で行う体制に変更し、ごく一部を除いて管理部門は廃止された。

 すべてチーム内で意思決定ができるので、社内で頻繁に行われていたミーティングもほとんどがなくなった。これに伴い、役職も廃止された。
 予算も目標数値もないというのだから驚きである。
 こうしてFAVIは、自己完結型のチームで運営する自主経営を導入した。

 トップの信じる力、これがFAVIの力の源泉であろう。理想的だが、人事部門で長く従事してきた私としては、「もし、逸脱した者が現れた時にはどうするのか?」このことを気にせずにはいられない。本書のなかで、いくつかのことは記載されているが、まだ疑問に残る点はある。
 しかし、現実に厳しい価格競争のなかでも確実に業績を高め、結果を出していること。これまで作業者として、決められた作業だけをする役割から、物の調達交渉から採用面接、作業時間の柔軟な調整等をすべて自分たちで行うようになり、チームメンバーに働く意識の変化が生まれた。自由と責任を与えられ、それぞれの「自立意識」が高まった結果、予算も目標もないなかで、結果として素晴らしい業績を出している。

 ゾブリストは、「FAVIの美しい物語 -”人類は素晴らしい”と信じている組織」(未邦訳)という著書を出しているようである。経営トップが、これだけ社員を「信じる」からこそ実現できている新しい組織形態である。
 目標による管理の見直し機運が全世界で起きている今、その解決策の一つとしてティール組織を研究することは急務ではなかろうか。
 今の「働き方改革」の議論の方向性は、次の明るい未来を論じているだろうか?
 その点も合わせて確認したいところである。


ティール組織の特徴

 フレデリック・ラルーは、ティール組織の特徴を3つの突破口(ブレイクスルー)として、次の3点を挙げている。
「自主経営」(セルフマネジメント)
「全体性」(ホールネス)
「存在目的」
 まず、自主経営は、FAVIの例にあるようにこれまでの組織階層をなくし、従って、役職もなく、スタッフ部門もごく一部を除いては置かない組織である。チームに自主活動できるメンバーをすべて集め、そのなかで意思決定する。
 意思決定の約束事はあるが、その責任は提案者にある。提案者が、関係する人から、意思決定のための助言をもらうが、最終決定は提案者が担う。
 現場のことは、現場が一番分かっている。だから、現場に意思決定させるというしごく自然な流れである。

 続いて「全体性」、これについては別の機会で詳しく説明とともに考察する必要があろう。簡単にいえば、これまでの組織では、自分の与えられた立場や役割を演じていたが、「ありのままの自分」を出そうとする文化を構築することである。
 私は、これまで組織のなかでその立場を演じることが重要だと考えてきた。例えば、人事担当の時代は会社の規則の番人として現場に厳しく接する。現場には、いろんな事情があり、その事情を担当の私が良き理解者として例外を承認してしまうと、例外の積み重ねは「労働慣行」となり、規則の崩壊につながる。
 規則は、統制のために必要なことであり、規則を守らせるためにも嫌われ役を自分が演じなければならないと自覚していた。そして、本気で現場が困っているのであれば、人事部長に直談判して「例外」を認めてもらう儀式をセットしてきた。
 なんとも面倒な手続きである。しかし、規則を維持して統制するためには、その面倒な手続きによって「例外」としなければ、守られない規則の連鎖につながると思っていた。
 このようにそれぞれの立場で「役割を演じること」が、現在の組織運営には必要なことだと思っているが、ティール組織においては、「ありのままの自分」を出そうという。制服を脱ぎ、仮面を脱ぎ捨て、自分の持てる力を最大限に出せるような文化づくりに力を入れることが、ティール組織の特徴である。
 具体的な事例については、別の機会に譲ることとする。

 3番目が「存在目的」。このことの重要性は、現在組織においても共通することである。異なるのは、存在目的のための事業活動であって、予算や業績目標値が目的の事業活動ではないということである。目の前の案件が、存在目的に照らして不適切であれば、たとえその課題に取り組むことで業績を確保できたとしても、その案件には取り組まないとジャッジする。極めて健全な組織運営である。
 この取り組みができれば、もうごまかしや不正な手続きといったことは排除できるであろう。

 ティール組織が実現できるのであれば、今の社会はもっと良くなることは明確である。今まで、理想であって、現実には無理と思っていたことが、ゾブリストのように徹底的に社員を信ずることによって実現する組織が出現してきた。
 他の11の事例も多くの学びを与えてくれる。
 ただ、フレデリック・ラルーも明かしているように、12の企業・団体のうち、2つの企業が、トップの交代によって、昔ながらの組織形態に戻ってしまっている。信念と「言い続け、し続ける」覚悟が求められるのも事実である。
 もうしばらく、ティール組織の考察を続けてみたい。

 ところで、ティール組織の「ティール」って何だろうと疑問に思った方は多いことだろう。
 フレデリック・ラルーは、組織の変遷を色で表した。次の表の通り、人類の誕生から、原始時代・狩猟中心の時代を「無色」、農耕が始まり集落ができ始めた次代を「マゼンダ」そしてこの時代を「神秘的」と名付けて説明している。
 集落が部族となり、やがて王国が出現した。規模も大きくなり、その統制のために「力による支配」が行われた。この時代を「レッド」、「衝動型」と名付けた。現在もマフィアやギャングが適用している組織形態のことである。
 次に現代の組織のベースとなった階層構造を持ち、それぞれの役職も明確にして運用を始めた組織構造を「アンバー」「順応型」と定義した。組織の継続的な安定を目指した組織形態ともいえる。
 「順応型」組織構造から、成長目標を明確にした目標による管理を導入した組織を「オレンジ」「達成型」と定義。
 目標管理制度を見直し、価値観の多様化、より人に着目した達成型の改良モデルが「グリーン」「多元型」と名付けている。
 多元型モデルが階層構造を持つ組織構造を維持したまま人の価値観に焦点をあて改良しているのに対して、全く新しい組織構造、つまり組織階層をなくし、役職を廃止し、スタッフ部門もなくした新たなモデルを「ティール」(青緑のような色)「進化型」と定義している。
(1)

無色
(2)
神秘的
マゼンダ
(3)
衝動型
レッド
(4)
順応型
アンバー
(5)
達成型
オレンジ
(6)
多元型
グリーン
(7)
進化型
ティール

 現在、「ティール組織」についていくつかの団体が「読書会」や「勉強会」を立ち上げているようである。私もどこかのグループに参加させていただいて、深く学び、互いに共有したいと願っている。
 本コラムの読者も一緒に学びませんか?


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