人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2018/7/20 (連載 第110回)

ティール組織に学ぶ(2)働く時間について

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 前回のコラムより、フレデリック・ラルーの著書(英治出版刊)
「ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」から、課題を提起し、そのテーマについてコラムで展開することにしました。
 今回のテーマは、「働く時間」についてです。
 ティール組織の内容については、前回のコラムを参照願いたいと思いますが、著者のフレデリック・ラルーは、組織の変化を色で表し、新しく生まれ始めた組織を「進化型組織(=ティール組織)」と定義しました。
(1)

無色
(2)
神秘的
マゼンダ
(3)
衝動型
レッド
(4)
順応型
アンバー
(5)
達成型
オレンジ
(6)
多元型
グリーン
(7)
進化型
ティール
 この発達段階を紹介するものとして、ラルーは、以下の表現で示しています。
  • 社長が思いつきで自由に給料を上げたり下げたりできるとしたら、それは衝動型パラダイムの発想に近い
  • 組織における階級(あるいは資格)によって固定給が決められていれば、それは順応型のように見える
  • 個人ごとに目標を管理し、達成すれば報酬アップで報いるシステムは、達成型の世界観に基づいていると考えてよいだろう
  • チーム単位のボーナスを重視するのなら多元型だ
 では、「働く時間」について考えていきましょう。
 まず、著書より引用します。
 従来型組織では、労働時間には2通りのとらえ方がある。決まった時間だけ働く人々と、一定の実績を上げているうちは何時に来て何時に帰ってもよい人々だ。前者はより下の方の階層、後者はより上の方の階層にいる人々に当てはまる。実際には、どちらも働く人々にとって失礼な取り決めだ。

 決まった労働時間を課すのは、人々を資源として、つまり腕や脳を決まった量の時間で雇うという前提に立っている。仕事とは、基本的につまらないもので、人材は交換可能であり、社員は支払われる給料の分だけ職場にいることを前提としている。また、下の方の階層にいる人々は、組織から信頼されていないので、自分で目標を設定して達成するまで働くという仕組みで働いていない。進化型組織の場合、人々は日々のルーティンの業務であってもプライドを持ってよい仕事をしたいと思っているはずだ。という前提から始まっている。FAVIとサン・ハイドローリックスでは、社員がタイムカードを押すことはなく、誰も労働時間を管理していない。いくつかのシフトはある。これは大まかな目安だが、次の交代要員が来ても、一つの仕事を終わらすまで残ることはある。
 働き方改革の議論のなかで「働く時間」についてよく取り上げられます。
 私の経験、私の価値観からすると、「働く時間」を「労働時間」として捉えることに違和感を持っています。
 「労働時間」の響きには、「仕事とは、基本的につまらないもので、社員は支払われる給料の分だけ職場にいることを前提としている。」というラルーの定義に合致するような意味合いを感じます。
 「働くこと」を「自分が本来なすべきこと」と捉え、主体的に行動しようとする人にとっては、働いた時間を労働時間として捉えることに違和感を抱き、「残業するな」とか「早く帰れ」といった指示がうっとうしく思うのではないでしょうか?

 社会人になりたての頃の私は、最初の1年間は現場実習に行っていたので、決まった時間働くスタイルだったかもしれません。が、実習が終わり人事部門に配属され教育担当になってからの私は、与えられた仕事を「自分のなすべきこと」と捉え、「働かされる」という意識はありませんでした。
 当時の職場には、教育の経験者がいなかったので、自分で考え自分で行動することが求められました。まず取り組まなければならなかったことは、階層別教育の体系整備からでした。まだ2年目でかつ教えてくれる人もいないなかでマネジメント層の教育を整備するという課題はとても荷が重く、どうしてよいか途方に暮れるようなものでした。
 社内を見渡すと、幸いなことに週に1度出社される顧問がかつて日立の教育を築いた方だと知り、私は顧問が出社された日はほぼ一日教えを請うために顧問室におじゃましました。顧問にとっては、迷惑なやつが一日中いたと思われていたかもしれません。

 その日は、日中の仕事が進みませんから当然帰りは遅くなります。でも自分でそうしたいと思ったことですから、誰かに残業を指示されたわけではありません。私にとっては、課題を仕上げることが仕事だと思っていましたから、休日は、図書館に通って、階層別教育体系づくりのための勉強をしていました。これは、仕事なのか自己啓発なのか、今でいえば微妙な位置づけになるでしょう。
 でも、自分の仕事だから必要なことをやっただけです。そうして何とか入社3年目には体系を整備することができました。
 幾度となく上司に提出しては、不足している観点を指摘され、ようやく社内の承認を得た時の達成感は、大変大きなものでした。OJTとは程遠いほったらかしの職場のなかで取り組んできた結果、一つの成果が出せたことで、自分の仕事に対する考え方がそこで出来上がりました。

 私の考え方は、ラルーのいう「進化型組織(=ティール組織)」の下で働く考え方に合致すると思います。当時の私の職場は、ティール組織で定義するところのアンバー(順応型)組織に該当するかと思いますが、働く時間に関しては、進化型と同じような価値観で仕事に取り組んでいたことになります。
 「働く時間」を「労働時間」として雇用者が拘束する時間と定義するのか、成果に対する対価を支払うものとして働く時間の管理は基本的に行わないとするのか、これは「働く人」の価値観によって随分異なるように思います。ラルーのいう「下の方」「上の方」というくくりでもなく、一人ひとりの価値観が大きく影響します。
 私の価値観からすると「働く時間を管理することをやめる」ことが正解と思っていましたから、冒頭のFAVIとサン・ハイドローリックスの例は素直に賛同できるものでした。

 ところが、このコラムを書く直前に聴講したセミナーで私の意識が少し変わりました。
 7月4日から6日に東京国際フォーラムにて日本経済新聞社、日経BP社主催の「ヒューマンキャピタル2018」が行われました。本コラムの読者の皆さんも参加された方は多いのではないでしょうか。

 私は5日と6日計9個のセミナーを聴講しました。
 大変盛況だったヒューマンキャピタル2018だったと思いますが、私の意識を変えたのは、5日の基調講演「働き方改革『Project PRIDE』の進化」と題して登壇されたアクセンチュア代表取締役社長江川氏の講演でした。
 アクセンチュアの働き方改革「Project PRIDE」の発端は、江川さんが、社長就任時にパーソルキャリアの峯尾社長から言われた一言だったそうです。
 「アクセンチュアは激務で人気のない会社ですね。人を紹介することは難しい。」
 社長に就任される江川さんは、「アクセンチュアは、人が財産であり、今後その強化に取り組むことが重要な課題である」と認識していました。その矢先に峯尾さんが発した言葉は、「何とかしなければ」と強い決意を持って改革に取り組むことにつながったそうです。
 「Project PRIDE」の目指すところは、「社員にとって働きがいのある会社」です。その目的のために最初の段階では、「ビジネスマナー」「コアバリュー」「働き方」の3つのテーマに取り組まれました。
 具体的な取り組みについてはアクセンチュアのホームページに紹介がありますので、そちらをご覧いただくこととして、取り組んだ結果どうなったのか?
  • 平均3~4時間/日だった残業が、1時間/日程度に削減
  • 離職率は、半分に
  • 有休取得率は、70%から85%に
  • 女性比率は、22%から33.4%に、現在は男女半々の採用となっている

 取り組んで3年でこの成果を上げられました。そして、人気ランキングも向上し、目標である「働きがいのある会社」に着実に向かっていることを講演されていました。

 江川社長は次の3点を講演の結びに話されました。
  • 正しい働き方改革を実践すれば、生産性は上がる。
  • 次世代に負の遺産を残さない勇気が必要。
  • 改革に近道なし、企業文化になるまで続けること。
 素晴らしい改革の実践であり、愚直に残業削減から取り組まれていることにも納得がいきました。

 私が聴講したほとんどの講演は、残業削減に取り組まれながらもその目的は、「社員の幸せ」や「働きがい」をテーマとするものでした。
 ティール組織でいえば、これまで達成型であった日本の企業が確実にもう一段進んだ「多元型」に進化しようとしていることを実感したヒューマンキャピタル2018でした。

 江川社長が講演のなかでお話しになっていた、今後の課題が2点
  • 管理職の負荷を軽減すること
  • デジタル時代に求められるビジネス変革

特に、前者の課題の取り組みの先に進化型組織(=ティール組織)があるのかもしれません。


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