人材育成コラム
“人財”育成のツボ
2018/11/20 (連載 第114回)
火の見櫓に登って全体を見渡す
ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表
安藤 良治
第4次産業革命のただ中にいる私たちは、これからどんな環境が形成されていくのかを見極めること、そして働く人々の意識の変化を受け止めながら、働く場をどのように形づくっていくのかを考えなければなりません。
5回にわたって展開した「ティール組織」も参考にすべき一つの形態かと思います。
さて、今回は「変革課題をどのように抽出し、取り組む課題を決めるか」について考えたいと思います。
「火の見櫓に登って全体を見渡す」
これが、変革課題の抽出には欠かせません。
「火の見櫓」とは、江戸時代の消防体制の中で重要な役割を果たした見張り台のことです。木造建築が中心の日本ではひとたび火災が起きると大災害につながる危険性が高く、火災予防と早期鎮火は重要な課題でした。
そこで、町火消(消防団)が結成され、24時間態勢で火の見櫓から町全体を見渡し、火事の早期発見と迅速な鎮火活動の実施が行われました。
町火消は町奉行の指揮下にあり、その構成は、町火消全体を統率する「頭取」を頂点に、いろは各組のリーダーである「組頭(頭)」、町火消のシンボルである纏(まとい)を持つ「纏」、梯子(はしご)を持つ「梯子」、そして平の火消である「平人(ひらびと)」となっていました。
火の見櫓で見張りをしていた火消しは、火事を見つけるやすぐに警鐘を鳴らし火事を周囲に知らせます。
町火消の頭は、火の見櫓に登り、火事の場所・規模、その時の風向き、そして江戸の町特有の長屋の並び延焼しないであろう通りまでの距離など・・・。全体を見渡して最も効率のよい鎮火計画を頭に描きます。
そして、速やかに纏・梯子・平人に鎮火の指示をします。
当時の火消しとは、水をかけて消化する活動は主力ではなく、延焼を最小限にとどめるための建物の取り壊し「破壊消防」が中心でした。
頭の見立てた通りに火消しが活動します。ですから、頭の見立てが全てです。風の強さを見誤れば、建物を壊している最中に火の手が迫ります。風向きが変われば思わぬところに延焼します。
火の見櫓の存在、そして頭の経験と勘が、江戸の町の被害を最小限にとどめることにつながっていたのです。
さて、現実に戻って、「変革課題への取り組み」をどうするか。
以前のコラムでも紹介しましたが、私は仲間と共に問題解決法「創造的実行プロセス」を開発し普及活動を行っています。
「原因究明」「リスク分析」「意思決定」「問題課題分析」の4つの問題解決ツールを基本として、その応用ツールとして「変革課題設定プロセス」も提供しています。
今回は、この「変革課題設定プロセス」についてご紹介します。発想は、「火の見櫓に登って全体を見渡そう!」です。
具体的には、変革課題の抽出にあたり、全体を見渡す目的で次の5つのステップに取り組みます。
1. 顧客から見た部門のアウトプット評価】
上記の5つのステップに取り組むことで「変革課題」を抽出しようとするのが、「創造的実行プロセス」の「変革課題設定プロセス」です。 現在の自部門のアウトプットは、提供先である顧客はどのように感じているのだろうか?
提供しているサービスや製品について個々に評価して課題を抽出する。
競合他社と比較して自部門の業務処理のスピード、品質、意思決定など、あらゆるプロセスにおいて比較して課題を抽出する。
3. 部門環境の変化(リスク・オポチュニティ)】 技術革新がもたらす変化、国際情勢、異業種からの参入等々環境変化がもたらす自部門への影響をリスクとオポチュニティの両面から抽出する。
業界全体に波及するリスクの場合、その分野で素早くリスク対応できる素地が自部門にあるとすれば、それはオポチュニティとして抽出する。
これは、ありたい姿(To Be)を描くうえで、重要な要素となる。
会社には中長期の経営計画が存在する。その計画を実現するための変革課題の抽出である。
前提条件として、会社の計画を確認する。
「3.部門環境変化」を読み、5~10年先を見据え、自部門がどのような姿になっていたいか、検討メンバで自由に「ありたい姿」を列挙する。
ここに描くビジョンと現状とのGAPが変革課題に対する取組課題となる。
「変革課題」を設定して、いきなり「ブレーンストーミング」して抽出しようとするアプローチもありますが、ここでは一つずつステップを踏むことで抽出の「抜け漏れ」が防げます。その点が「火の見櫓に登って全体を見渡す」ことにつながります。
さて、現実に変革課題を抽出しようとすると、「働く人の意識の変化」も念頭に置く必要があります。
マイナビが毎年調査している大学生の就職意識結果を参考にすると、以下の通りとなっています。数字は、2019年卒業予定者 ※( )は2001年卒業者
・楽しく働きたい | 33.3% | (33%) |
・個人の生活と仕事を両立させたい | 24.2% | (21%) |
・人のためになる仕事をしたい | 15.0% | ( 9%) |
・自分の夢のために働きたい | 11.8% | (16%) |
・社会に貢献したい | 5.7% | ( 3%) |
・プライドの持てる仕事をしたい | 5.6% | (15%) |
・収入さえあればよい | 3.6% | ( 2%) |
・出世したい | 1.0% | ( 2%) |
2001年と2019年での顕著な変化は、「自分の夢のために働きたい」(2001年比-4.2%)、「プライドの持てる仕事をしたい」(同-9.4%)でしょうか。
2001年以前のデータとの比較ができないのは残念ですが、「出世したい」が1%という数字には驚きます。
現在の若者の意識が、仕事そのものへの上昇志向があまり見られないという結果をどのように受け止めるか。
会社の文化、仕事の文化を「学び成長することが楽しい」と感じられるようにガイドしていくことが必要と物語っているように思います。
技術の革新によってもたらさられる変化、働く人の心の変化、現在の組織自身が抱える課題、マネジメント層に求められる意識の変化等々、火の見櫓の上に登って、じっくりと全体を見渡して、変革課題を設定する必要があるように思います。
