人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2019/04/22 (連載 第119回)

明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせる

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 4月1日、新元号「令和」が発表されました。
 安倍首相は記者会見で「厳しい寒さの後に見事に咲き誇る梅の花のように、一人ひとりの日本人が、明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる。そうした日本でありたいとの思いを込めた」と述べています。
 発表後すぐ街には号外が配布され、その号外を求めて混乱が生じるほどの争奪戦もありました。日本には、改元以外にニュースはないのかと思えるほど、新元号に関する記事があふれていた数日でした。
 つくづく日本は平和な国だな!と感じます。

 そして、新しい元号に対して、いくつかの意見は聞こえますが、総じて国民が前向きに捉え、そして「令和」に込めた思いに共感しているように思います。
 国民が平和な心持ちで平成の幕を閉じようとしていることは、「平成」の元号に込めた思い、「国の内外、天地あまねく平和が達成されるように」との願いが成就する終焉であると感じます。
 もうすぐ迎える「令和」の時代、私たちの努力で「明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせる」国作りをしていきたいものです。

 さて、日本では新しい時代を迎えようとしていますが、世界は今、第4次産業革命のただ中にいます。デジタルトランスフォーメーション(DX)という大波が、生活、ビジネス、社会、そして世界に大きな変化をもたらしています。
 このような大きな変化の波に挑むとき、「それぞれの花を大きく咲かせる」ためには、それなりの人財育成のビジョンを掲げて、計画的に展開していく必要があります。
 「令和」の時代にふさわしい人財育成のテーマ
 私は、次の3点を人財育成の根幹に置くことが重要であると提言します。
(1)創造的実行力の強化
(2)意思決定の合意プロセスの共通言語化
(3)オン・ザ・ジョブ・ラーニング(OJL)文化の醸成

(1)創造的実行力の強化

 私は「創造的実行力」を次のように定義します。
 「問題を発見し、ビジョンを持って、目指すべきゴールを定め、ゴールに向かって実行する能力」
 問題を発見する力は、これまでは組織内部に生じている問題を発見することに重点が置かれていましたが、令和の時代の問題発見力は、DXによる外的な変化をいち早く捉え、自組織に問題提起する力が求められます。
 問題を共有し、課題として認識した時点で、明確なビジョンを提示することが重要です。
 他の模倣を考えるような対策案では、これからの変化のスピードにはついていくことができません。勇気を持ってビジョンを示すことで目指すべきゴールを明確にし、一丸となって取り組める施策につながります。
 そして、その施策を諦めずに実行する、これが創造的実行力です。

 かつてロバートカッツ教授は、マネジメント層に求められるビジネススキルとして、「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」そして「コンセプチュアルスキル」の3つのスキルを唱えました。
 「創造的実行力」はこの「コンセプチュアルスキル」に相当します。カッツ教授は、マネジメント層の上位に行くにしたがって、コンセプチュアルスキルの重要度が増すと提言されました。しかし、DXに対応する令和の時代はデジタルネイティブ である若い人たちの問題発見力を受けとめ、その感性を実行に展開するためには、若い人も身に付けるべき重要なスキルです。

(2)意思決定の合意形成プロセスの共通言語化

 かつて日本は、世界で最も優れていた意思決定プロセスを有していました。「以心伝心」「あうんの呼吸」の文化がかつての日本には確かにありました。言葉なくとも、相手のことを理解しようと努力し、互いの役割を認識して、トップの意思決定に皆が協力して実行していく姿がありました。
 昭和の時代、高度成長期には、この日本の特異な文化が見事に機能しました。戦後復興という国民全員の共通した目指すべきゴールが、一丸となって努力することにつながったのでしょう。

 昭和の後半から平成にかけて、グローバル化の波の中で日本は大変苦労しました。「曖昧な意思決定プロセス」が国際的な批判をあびることになったのです。言葉なくとも合意形成できると信じていた意思決定プロセスが崩壊したといっても過言で はないでしょう。曖昧な意思決定が、組織内部にも混乱をもたらし、その結果「労働生産性の国際比較」において先進7カ国のなかで1970年代以降最下位の状態が続いているのだと思います。

 他の模倣でなく、自ら勇気を持って変革の施策を意思決定しなければならない令和の時代、「意思決定の見える化」に取り組み、関係者と合意形成の上で諸施策の実行に取り組むことが求められます。
 現在の意思決定プロセスが以下の質問の問いにきちんと答えられるかを確認することがポイントです。
■何のために何を決めるのか?(目的・ゴールは明確か?)
■どういう視点で案を評価するか
 (意思決定の判断基準、評価基準が明確か?)
■他に方法はないか/最適案はどれか
 (意思決定に際し、複数の案を吟味して、最適案を選定しているか?)
■何かまずいことは起きないか
 (最適案のリスクを確認して、リスクへの対応が検討されているか?)
 意思決定の見える化について、とても工夫して私たちも学ぶべきことが多いと感じるのが、フィギュアスケートの採点基準です。
 毎年レギュレーションを見直し、その評価基準を公開し、現在では競技の途中でも得点が積み上げられる様子をリアルタイムで確認することができます。この評価基準を明確にして意思決定することが、ビジネスの世界でもグローバルスタンダー ドとなっているといえるでしょう。
 令和の時代に必須の共通言語であり、共通プロセスだと思います。

(3)オン・ザ・ジョブ・ラーニング(OJL)文化の醸成

 このコラムで何度も取り上げてきたOJL。
■教えてもらうのか、自ら学ぶのか
■教えるのか、学びを支援するのか
■知識を教えるのか、目標を達成するのか
■目標は何で、何を評価するのか
 依然としてOJTが職場の指導における常識語として使われているようですが、OJTの語源を考えれば、明らかに昭和の文化です。
 ルーティンワークがあり、決められたルーティンをしっかり身に付けてもらうためにトレーナーが任命される。教え、訓練し、一定水準まで引き上げることがトレーナーの任務でした。

 トレーナーには、優秀な人が任命されますが、当然優秀な故に自分の業務が忙しい。なのに「なぜ、この忙しいのに新人の面倒を見なきゃいけないの?」と疑問を抱きながら、しぶしぶと接している人もいます。
 一方で、新人指導に当たることが自分の成長にもつながることとして前向きに捉え、新人とともに学ぶトレーナーもいます。
 既に理解できている人たちは、OJTといいながら、OJLを実践しています。
 令和の時代に求められているのは、「仕事を通じて互いに学ぶ文化の醸成」です。学習する文化を構築することが、DX時代に対応した組織作りといえるでしょう。

 改元によって、新たなビジョンが示されました。
 「令和」が求める「明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせる」ことが実現できるよう、これを機にOJLを社内の常識語に使用する、それだけで意識が変わるのではないでしょうか。
 「令和」の時代に合わせて取り組む、人財育成の3つのテーマを提言しました。私も新しい時代のテーマに微力ながら取り組んでいきたいと思います。


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