人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2020/2/20 (連載 第129回)

今こそ事業継続計画(BCP)を整備しよう!

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 コロナウイルスに関する報道であふれかえっています。
 このコラムを書いている2月10日現在の状況は、感染者の数は中国本土で4万171人、死者は908人に達しています。
 日本をはじめ各国は、渡航禁止と隔離に躍起になり、疾患の拡大防止のため、闘っています。
 この「渡航禁止と隔離」は、WHOが「実施すべきでない」とするやり方にも関わらず、各国は自国へのウイルスのまん延を恐れ、地区から国単位で渡航禁止のレッテルを張り巡らします。

 日本は、2月8日時点で既に国内感染者がいます。
 このコラムが配信される2月20日頃の状況はどうなっているでしょう?
 世界各国は、中国と同様に日本への渡航禁止措置が取られているのではないでしょうか?そうなっていないことを願うばかりですが、今の隔離措置が進めば、日本はウイルスの発信国に認定されているように危惧します。

 WHOがなぜ「渡航禁止と隔離」を実施すべきでないとしたか?
wiredという米国のWEBニュースでADAM ROGERS記者が書いている記事から抜粋して引用します。
https://wired.jp/2020/02/07/travel-bans-and-quarantines-wont-stop-coronavirus/
 第1に 中国政府が認めているように「初動が遅かったからです」
 WHOが中国でのコロナウイルスに関する情報を得た時には、既に多くの中国人が春節に合わせ世界各国に旅立った後でした。
 第2に 「何らの移動や交易の制限」が効果があるとは考えていない
 ジョンズホプキンス大学ヘルスセキュリティセンターの疫学者のジェニファー・ヌッツォ(彼は、呼吸器疾患のパンデミックへの備えについて、予見的な論文を発表した著者のひとりでもある)は、「渡航禁止令と隔離は、近年のほかのアウトブレイク(集団感染)を封じ込める上でも役には立たなかった。渡航禁止令にそもそも効果があるという説得力のある証拠は出ていないと思います。このような呼吸器系ウイルスには効果を発揮する可能性が低いのです。そういうウイルスは、あまりに素早く移動してしまいますから」と語っている。

 第3に 禁止令は「不当なペナルティ」になる
 禁止令は、国際的な保健事情をめちゃくちゃにしてしまうリスクがある。「進んで発症例を報告しようとしている国々に、(禁止令によって)不当なペナルティを与えているのです。しかも経済的、政治的にです。コロナウイルスを探すことや、他国に対してそれを発表することがいちばんの利益にならないかもしれない──そんなメッセージを禁止令は送っているも同然です」と、ヌッツォは話す。

 WHOはデータの共有を義務づけている。だが、保健分野の研究者たちがより多くのデータを求めているまさにこの瞬間、その情報をもっている人々は情報を公開しないこと、あるいはそもそも情報を収集しないことを奨励されていると言っていい。
 私たちは未知の脅威に出くわすと恐れ、自分にその脅威が及ばないことを願います。報道機関も連日その脅威を報道し、その報道から私たちの不安はますます高まります。

 一方で「米国でのインフルエンザの猛威」については日本ではあまり報道されていません。
 2月8日の共同通信によれば、
「米国で新型肺炎よりインフル脅威」

 新型コロナウイルス対策を巡り、米疾病対策センター(CDC)のレッドフィールド所長は7日、「米国民にとって今、真の脅威はインフルエンザだ。中国湖北省に滞在歴がない人で、呼吸器症状がある場合は可能性が高い」と訴えた。新型ウイルスの予防目的でのマスク使用も「勧めない」とした。
 米国ではインフルエンザが猛威を振るっており、CDCは全米で少なくとも2200万人が感染し、1万2千人が死亡したと推計している。感染者は増加傾向にある。
 一方、米国の新型ウイルス感染者は十数人で、中国渡航歴がある人が中心だ。所長は「一般の米国民の感染リスクは低い」とした。
 1万2千人も死者が出ているにも関わらず、世界はインフルエンザよりもコロナウイルスを心配しています。インフルエンザは、既知のものであり、毎年米国では1万人以上が亡くなっているという事実から、もはや特別な脅威とは考えていないのかもしれません。インフルエンザに関しては、渡航禁止もなければ、特別な隔離もしていません。そのことを問題視する世間の目もありません。
 コロナウイルスの猛威がいつまで続くのか?季節性インフルエンザと同様4-5月頃に沈静化してくれることを願うばかりですが、今しばらく状況を見守る必要があるようです。

 さて、コロナウイルスの脅威によって、各国が取った行動は、世界経済に大きな影響をもたらしています。
 製造、流通、サービスすべての産業に負の影響をもたらしています。この影響の大きさは、コロナウイルスの猛威が沈静化する頃から、報道によって明らかになってくることでしょう。
 世界全体が影響を受けている経済的危機が今、訪れています。
 この危機への備えはできているでしょうか?
 BCP(Business Continuity Plan)の必要性を痛感します。
 経産省が提供している「事業継続計画策定ガイドライン 」の冒頭を引用します。
 日本では、地震、火災・爆発、大規模なシステム障害などが相次いでおり、その結果、基幹となる事業の停止に追いこまれるケースが見られる。この場合、財物への直接の被害や、基幹事業が停止している間の利益を損なうばかりでなく、取引先や顧客を失う大きな原因となり、ひいては事業からの撤退を余儀なくされることになりかねない。

(中略)

 危機が発生したときに、企業に対して問われるのは、その企業が危機に直面した時であったとしても事業を遂行(継続)するという社会的使命を果たせるかどうか、である。これは、マニュアル化という次元で解決できる問題ではなく、危機に直面したときの「企業経営のあり方」そのものなのである。企業は、自身の被害の局限化という観点に留まらず、コンプライアンスの確保や社会的責任という観点から対策を講じなければならない。
 企業経営者は、個々の事業形態・特性などを考えた上で、企業存続の生命線である「事業継続」を死守するための行動計画である「BCP(Business Continuity Plan)」及び、その運用、見直しまでのマネジメントシステム全体である「BCM(Business Continuity Management)」を構築することが望まれる。
 このガイドラインは、情報セキュリティガバナンスの観点から作成されたものですが、BCPやBCMに関しては、あらゆる危機を抽出して対策を事前に策定するという点では、すべての事業に通じるものです。
 ぜひ、一読して自社の準備状況の点検に活用されることをお薦めします。
(ガイドラインは、こちらです)
https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/downloadfiles/6_bcpguide.pdf

 私たちの事業は、社会に貢献する社会的な使命を負ったものであるはずです。危機に直面しても、早期に事業の回復をすることが求められます。BCPの大きな特性は、「目標復旧時間(RTO:Required Time Objective)」を定めることとあります。事前にリスクを想定して準備していなければ、復旧時間を定めることなどできません。
 今回の危機から、いち早く脱して正常な市場を取り戻したいものです。そのためにも一人ひとりが主体的に行動し、そして互いに連携して対処していきましょう。


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