人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2011/02/15  (連載 第21回)

タイムマネジメントに必要なチーム力

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 すべての人に公平に与えられている『時間』--この時間の使い方、過ごし方 によって、チームあるいは個人の成果・成長度合いが異なってきます。

 筆者は昨年、複数の企業から「タイムマネジメント」の研修を依頼され、あら ためてこのテーマについて考える機会をいただきました。計画した通りに時間管 理ができれば良いわけですが、現実には自分の思いとは裏腹に時間管理を阻害す る要因が出てきて、思わぬロスや計画の変更を余儀なくされることが少なくあり ません。

「急ぎの案件から次々と片付けた。重要だが、期間のある案件はついつい後回し にしてしまった。そして、重要案件の期日が近づいた。もっと、早くから準備し ておけば良かったのに・・・。今からだと間に合わない!」

「仕事の約束を守るため、自分のやり方で進めていた。ある時、突然顧客(もし くは上司)から経過報告を求められた。顧客(上司)は、そのやり方では困ると 言ってきた。自分のやり方で進めれば約束を守れるのに・・・。今からだと間に合 わない!」

「仕事を進める上で心配なことはあった。祈るような気持ちでいたのだが・・・。 心配事は現実になった。そのトラブルの対応に多くの時間を費やした!」

「メンバーのモチベーションの向上を最優先に取り組んできた。しかし、人中心 のマネジメントだけでは、仕事の成果を求めることが難しいと感じている。人の マネジメントと仕事のマネジメントのバランスをどのように取るべきか?」

 依頼されたタイムマネジメント研修は、上記の計画的な時間管理を阻害する要 因を取り除くことを目的に、4つのキーワードでカリキュラムを構成しました。

 「課題管理」「ステークホルダー管理」「リスク管理」「メンバーの管理」

 今回は、若手リーダーを対象に実施した「タイムマネジメント研修」から、 「課題管理」と「メンバーの管理」の様子をご紹介し、タイムマネジメントから 導き出した課題を確認したいと思います。

1.重要度・緊急度を評価して管理する「課題管理」

 ピーター・ドラッカーは、著書「マネジメント」で次のように述べています。
「マネジメントはただちに必要とされているものと、遠い将来に必要とされるも のを調和させなければならない。いずれを犠牲にしても、組織は危険にさらされ る。今日のために明日犠牲になるものについて、あるいは明日のために今日犠牲 になるものについて計算する必要がある。それらの犠牲を最小限にとどめなけれ ばならない。それらの犠牲をいちはやく補わなければならない」

 課題ごとに重要度と緊急度を評価して、どの課題から着手するかと訊ねた時、 重要度も緊急度も高い課題が「最優先」となることは自明です。さて、問題は次 に優先度が高いのは、重要度が高くて緊急度は低いものか、緊急度が高くて重要 度は低いものかということです。受講者の多くは、後者を優先するのが実態だと 答えます。じゃ、前者はいつどんな形で取り組むのかが問題です。そして、「重 要案件の期日が近づいた。もっと早くから準備しておけば良かったのに、今から だと間に合わない!」とならないために課題を管理する必要があります。

 研修では、プロセス思考をベースとした課題管理アプローチを紹介し、ケース 研究を行いました。受講者から「今までは緊急度をベースに課題管理をしていた が、重要度の観点からも課題管理を行う必要性を感じた」との感想を聞き、日常 業務に追われ重要な課題になかなか着手できない現状を確認しました。

 ドラッカーは、「マネジメントにはバランスが必要だ!」といろんな事例をあ げて論じています。
「課題の管理は、ただちに必要とされているもの(緊急度の高い課題)と、遠い 将来に必要とされているもの(重要度の高い課題)を調和させること」
 残念ながら課題管理に特効薬はありません。しかし、このことを意識している 人とそうでない人とのアウトプットの差は、時を重ねることで歴然となってくる でしょう。

2.仕事の成果とメンバーの満足度のバランスで管理する「メンバーの管理」

 このテーマもドラッカーの次のコメントが私たちに問いかけています。
「仕事と労働(働くこと)とは根本的に違う。仕事をするのは人であって、仕事 は常に人が働くことによって行われることはまちがいない。しかし、仕事の生産 性をあげるうえで必要とされているものと、人が生き生きと働くうえで必要とさ れるものは違う。したがって、仕事の論理と労働の力学の双方に従ってマネジメ ントしなければならない。働く者が満足しても、仕事が生産的に行われなければ 失敗である。逆に仕事が生産的に行われても、人が生き生きと働けなければ失敗 である」

 仕事の論理と労働の力学は果たして相容れないものなのでしょうか?
 仕事の目的を伝えず、やること(手段)ばかり指示する上司の下では、確かに モチベーションは高くなりません。しかし、目的を伝え、あるいは一緒に顧客の 目的を考え、その目的の達成を念頭に手段に展開する人はモチベーションも高く、 生産性も高いはずです。
 ドラッカーの問いかけは「どちらか一方に偏ることなくバランスを考えよ!」 と言っているのであって、両立できないことではなさそうです。

 研修ではまず、「仕事の目的と手段を確認する」、「顧客の目的、顧客の顧客 を考える」、「メンバーの育成」について確認しました。その上で、グループ討 議のテーマとして「仕事の生産性とメンバーの満足度を高めるために、どのよう に取り組めば良いか?」について検討しました。

 テーマそのものに結論があるわけではなく、ここでは参加者の経験や考えを披 露する中から、リーダーとして組織の中でどのようにメンバーと関わればよいか を話し合うことを目的としました。受講者は、20代後半から30代前半の若い リーダーでしたが、彼らがまとめた内容は講師である筆者も得ることが多いもの でした。

 あるグループは、「メンバーの満足度と生産性の向上のために、相手を知る努 力こそ一番重要!」との結論を出しました。そのためには「アットホームな雰囲 気作り」、「腹を割って話す」、「雑談や飲みニケーション」などの相手を知る ための場作りが必要になること。そして、仕事の生産性をあげるためには「仕事 の目的を明確にする」、「当人の受け入れ準備度(やる気や能力)を確認する」、 「ある程度仕事を任せ、メンバー同士で解決する習慣を身につけさせる」などの 意見がでました。

 他のチームの発表でも「飲みニケーション」という言葉が出てきたことには、 彼らの年齢からすると正直驚きました。「今の若い人たちはドライで、仕事は仕 事、プライベートはプライベートと割り切ることが多い」とよく言われます。筆 者も若い人たちにそんな傾向があるのではないかと感じていたからです。
 しかし、彼らは「仕事の生産性とメンバーの満足」を考える中で、オフタイム の交流も必要だと結論を出したのです。受講者の中でも若い一人に聞きました。
「前から飲みニケーションって重要だと思っていましたか?」 「以前は確かにプライベートの時間にまで職場の人と行動を共にすることには抵 抗がありました。歳の近い先輩に誘われても断っていました。でも、後輩が入っ てきて教える立場になってから考え方が変わりました。それ以来、できるだけ職 場の人とオフタイムも一緒に過ごすようになりました」

 チーム成果の最大化を目指すならば、仕事だけの関わりでなく、相手を知る努 力をすることが必要。教科書から導き出した答えでなく、自分たちの経験から導 き出した結論でした。

 アジアカップで優勝したザックJAPANでも、オフタイムの選手の交流がチ ーム力を高めた要因のひとつといわれています。ザッケローニ監督は、次のよう に話しています。
「期間中に3人の選手が誕生日を迎えて、それをお祝いしたのが楽しかった。岡 崎、永田に子供が生まれて、期間中に祝ったこともうれしかった」
 また、「なぜ、チームが一丸となれたのか?」とのインタビューに、「一丸となれた瞬間を考えてみると、ヨルダン戦に引き分けてからシリア戦まで の期間だったと思う。テクニカルスタッフやほかのスタッフも、役割をもう1回 確認しようと話したし、選手たちも素晴らしかった。特に、経験豊富な選手たち がリーダーシップをとって、チームを一つにしようとしていた。中でもキャプテ ンの長谷部が、ベテランと若手の融合を効果的に図ったと思う。苦労を一緒に乗 り越えることで強くなった。これまで長く監督をやっているが、ここまでベンチ スタート、控えメンバーが結果を出す、決定的な仕事をするのを見たことがない。 大切なのは、チーム全員がひとつの方向を向いていくことだと思う」

 アジアカップのザックJAPANメンバーの平均年齢は25歳未満と、大変若 いメンバーです。そんな若いメンバーが、チームのために試合では献身的に貢献 し、オフタイムでの交流でお互いを知ることに努めていました。
 今回ご紹介した研修でも若いリーダーが、チーム力向上のためにオフタイムも 使って「相手を知ること」を課題とあげています。若い人たちのこんな思いが、 日本の組織力を高めていくような気がします。

 「タイムマネジメントのポイントは、チーム力の向上にある」

 そんなことを考えさせられる研修でした。

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