人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2011/03/24  (連載 第22回)

相手の真意を引き出す質問「と、いうと?」

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

東北地方太平洋沖地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

 コミュニケーション力を高めるためには、「質問力」が大変重要な要素になり ます。今回は、ある研修でのインタビュー実習の様子をお伝えし、頭では分かっ ているものの、実際には思い込みからなかなか相手の真意を引き出せない「質問」 について考察します。


「閉じた質問」と「開いた質問」

 「閉じた質問」とは、「はい」「いいえ」だけで答えることのできる質問のこ とです。AかBかを確かめる際に有効で、短時間に情報を絞り込むことができま す。「開いた質問」とは、5W1Hによる質問のように、相手が具体的に答えを 話す必要のある質問です。先入観なく、相手の考えを引き出すことができます。

 さて、この閉じた質問と開いた質問には、それぞれ長所もあれば短所もありま す。コミュニケーションの目的に応じてうまく使い分ける必要があります。
 閉じた質問の長所は、前述したように「情報を絞り込めること」です。その他 にも答えにくいことでも「答えやすくなる」、あるいは口数の少ないメンバーで も答えることができるなどの利点があります。一方、質問者が的外れな質問をし ていては、いつまでたっても答えに行き着かないというのが欠点でしょう。また、 「はい」「いいえ」の回答だけでは、相手の気持ちや背景にあることを汲み取る ことができないことも短所といえます。

 開いた質問の長所と短所は、閉じた質問の裏返しです。5W1Hでずばり相手 から答えてもらえること、相手の本音や発生している事象の事実だけでなく原因 や背景についても自由に話してもらえることが、開いた質問の長所といえます。 一方で、話題が発散したり、ポイントが不明確になったりすることが短所です。


経験のあるリーダーほど「閉じた質問」が多くなる

 インタビュー実習を通じて感じることは、経験のあるリーダーほど「閉じた質 問」が多くなるということです。
 経験豊かな人は、「経験(K)」によって「勘(K)」が働く時、仮説として ある答えが浮かんできます。その仮説を「度胸(D)」を持って、ずばり相手に 投げかけます。これが、閉じた質問です。この閉じた質問によって、相手から肯 定の「はい」をもらえれば、仮説が正しかったことになり、いち早く正しい答え を見出すことができます。

 ところが最近は、「KKD」に頼ってはいけないということがよく言われるよ うになっています。しかし私は、KKDによって正しい答えをいち早く導き出せ るのであれば使わない手はないと考えます。KKDの発揮は、正しい経験の積み 重ねの証です。KKDを発揮できるリーダーは、決断力があり、仕事の生産性も 高いといえるでしょう。

 にもかかわらず、KKDに頼ってはいけないとは、どういうことでしょう。そ れは、時代の変化が激しすぎて、過去の似たような経験で判断することは危険で あり思わぬ思い違いにつながることが増えてきたことが背景にあります。
 これまでとは異なる事象に直面した際は、KKDに頼らず、というよりKDD が発揮できないので「開いた質問」を用いることになります。現場に生じている 事象を客観的に捉え、その事象に直面していたメンバーから背景や原因となる情 報も集めて判断することが必要になるからです。


リスク対応に必要な「なぜなぜ分析」

 開いた質問の一つに「なぜなぜ分析」があります。原因を究明するために5回 「なぜ」を繰り返せという企業もあるほどです。なぜを繰り返せる人と、ある情 報から短絡的に対策を導き出す人の差を考えてみましょう。

担当者
何故1リーダー
担当者
何故1リーダー
: 今期は当部の利益が大幅に減少するかもしれません。
: どうしてだ?
: 数億円の賠償請求があるかもしれません。(※1)
: そりゃ大変だ、優秀な弁護士を手配して少しでも賠償額を少なくできるよう対応しよう。
※1から
何故2リーダー
担当者
何故2リーダー

: どうして賠償請求が起きるのか?
: 顧客からの厳しいクレームがあるかもしれません。(※2)
: そりゃ大変だ、クレームに対し真摯に対応するよう関係者に徹底しよう。
※2から
何故3リーダー
担当者
何故3リーダー

: 厳しいクレームとは?
: プラントの納入が1週間遅れるかもしれません。(※3)
: そりゃ大変だ、プラント納入が遅れないよう関係部署に徹底しよう。
※3から
何故4リーダー
担当者
何故4リーダー

: 何が原因で納入が遅れるんだ?
: 外注先からの部品納入が10日遅れるかもしれないからです。(※4)
: では、外注先の納品管理を徹底しよう。
※4から
何故5リーダー
担当者

何故5リーダー

: 納期が遅れると思う理由は?
: 今回は、顧客要望でコストの安い部品を海外から調達することになっており、新しい調達先が心配です。
: 新しい調達先を重点に納品管理を徹底しよう。

 上記の例で何故を5回繰り返す何故5リーダーは、原因を特定してから、対策 を打てています。しかし、現実には何故1リーダーのように表面的な情報だけで 判断するケースも少なくありません。
 研修の場面でも、表面的な問題事象だけを捉えて対策をまとめるケースを数多 く見受けます。短絡的に対策を導くのでなく、開いた質問によって原因を特定す る習慣を身につける必要があるようです。


相手の真意を引き出す言葉「と、いうと?」

 原因をする特定には、前述の「なぜなぜ分析」が有効です。では、リーダーが メンバーの本音(真意)を導き出すのに有効な言葉は何だと思われますか。それ は「と、いうと?」という質問です。

 例えば、リーダーがKKDによって「顧客の仕様変更が作業量を増やしている 原因なのか?」と閉じた質問をします。その際、質問されたメンバーがやや言い づらそうに「それもあります…」と言葉を濁したとき、リーダーが彼の表情や表 現をどのように汲み取るかが問われます。
 ここでも短絡的に結論を出すリーダーは、メンバーから「それもある」という 「YES」の解を得たとして、顧客の仕様変更を原因として対策を打つことにな るでしょう。

 一方、そのメンバーの表情や表現から「なにかあるな」と感じたリーダーは、 ここで「と、いうと?」と聞きます。この質問は、言いづらそうにしていた言葉 を導き出す言葉となります。この質問の響きには、「あなたはもっと言いたいこ とがあるのですね、心の内をどうぞ開いてください」とのメッセージがあります。 また、この質問をしたことでそのメンバーは「リーダーは自分の気持ちを汲み取 ってくれている。本音を話さなきゃ」と感じます。

 相手の表情や表現を見て、少し間をおいて「と、いうと?」の質問を投げかけ ることで、なかなか引き出せなかった相手の真意が垣間見え、それまで考えてい なかった真実への対応につながることもあります。
 研修でも、「と、いうと?」のキーワードを伝え、受講者はいつこのキーワー ドが使えるかをずっと意識してインタビュー実習に挑みました。

 ある受講者のアンケートで、「インタビュー実習では、教わった内容を頭で理 解していても実践できず、うまくいかないことばかりだった。しかし、今後の業 務で間違いなく同じような場面があると思うので、少しずつでも実践していきた い。間違いなく『と、いうと?』は口癖のようになると思う」

 意識しないと、経験のある優秀なリーダーほど「閉じた質問」の多用が目立ち ます。閉じた質問が有効な部分も多くありますが、時として相手の真意を確かめ る質問「と、いうと?」を深呼吸してから使ってみてはいかがでしょうか。これ までとは違う、メンバーとの関係が生まれるかもしれません。


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