人材育成コラム
“人財”育成のツボ
2012/02/15 (連載 第33回)
信念を煥発する
ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表
安藤 良治
この「あるべき姿」を描くために、どうすれば良いのでしょうか。
問題解決につなげるためには、この「あるべき姿」を具体的に定める必要があります。
成果は何か: | ゴールに到達したことを確認できる具体的な成果、量や数値指標で評価できる項目を設定します |
条件は何か: | ゴールの到達時期、使える予算、人的資源、その他の制約条件等を定めます |
現在、私はある企業のコンサルティングを担当させていただいています。ここ では、該当する本部長自らが率先して、目指している目標を社員に明示した上で、 若いメンバーを中心とした複数のプロジェクトを立ち上げました。各プロジェク トでは、活発な討論を繰り返し、プロジェクトの課題を解決すべく展開していま す。このプロジェクトの多くは、おそらく成功裏に展開できるように思います。
私が、「成功するだろう」と思う根拠は以下の3点です。
- 全体のあるべき姿をトップ自身が明示し、皆に周知している
- 自らゴールに到達したいと願うメンバーが、プロジェクトメンバーに選任されている
- 事務局が、プロジェクトメンバーと連携して、ステークホルダー(利害関係者)との調整を行い、全体の進行を管理している
プロジェクトに関わるトップ、メンバー、事務局が「あるべき姿」を共有し、 目標達成のために力を合わせられれば、多くの場合、問題は解決します。もちろ ん技術的な問題、予算の問題等で当初設定した目標を軌道修正することがあるか もしれません。しかし、最初にあるべき姿が明確になっていれば、その軌道修正 は、関係者も合意の上での改訂となって進むことでしょう。
こういうプロジェクトの支援を行う仕事は、大変やりがいもあり、若い人たち の「何とかしたい」という思いに触れ、ある種の感動を受けることもしばしばで す。
一方で、あるべき姿の定まらないプロジェクトに関わるのは大変です。精神的 にも疲れます。私自身が率いなければならないあるプロジェクトで、私自身がそ の「あるべき姿」を描くのに苦労しています。リーダーが「あるべき姿」を描け ないで奔走ならず、右往左往しているのですから、同じプロジェクトのメンバー の士気が高まるはずもありません。
「長い眼で見れば、必要だと思うこと」に取り組みだしたのですが、「誰がお 金を出すのか、ビジネスとして成り立つのか」、「誰が必要としているのか、誰 の何のためになることなのか」--。この辺りがすっきりしません。実現性の低 いまま「成果と条件」を無理に設定しても、それが果たして意味のある行為とな るのか、悩みは絶えません。
悶々とした日々が続いていた折に、私の師匠から「自叙伝を書いたので、親し い人を集めてパーティーをしたい」と声がかかり、久しぶりに師匠に会いに行き ました。そして、いただいた自叙伝の中から、私の師匠の「生涯の師は、中村天 風先生です」とのくだりを見つけました。
コンサルタント経験の長い我が師匠ですが、その生涯の師が中村天風先生とは 知りませんでした。実際に天風会の2週間の実習訓練にも参加し、中村天風先生 から直に教えを受け、論理では解決し得ない多くの学びを師からいただいたよう でした。
であれば、私も中村天風から「何か教えをもらえないか」と思い、以前読んだ 中村天風瞑想録「運命を拓く」を読み直してみました。
第8章「人生の羅針盤」は「信念」をテーマに説いています。
信念、それは人生を動かす羅針盤のごとき尊いものである。
したがって、信念なき人生は、ちょうど長途の航海の出来ないボロ船のようなものである。かるがゆえに、私は真理に対してはいつも純真な気持ちで信じよう。
否、信ずることに努力しよう。
したがって、信念なき人生は、ちょうど長途の航海の出来ないボロ船のようなものである。かるがゆえに、私は真理に対してはいつも純真な気持ちで信じよう。
否、信ずることに努力しよう。
「信念」が自らの目指すべき方向を決めるのだと言っています。
信念が出てこないと、人生は不可解なことがいっぱいなんだから、あっち
へウロウロこっちへウロウロとして、本当に安心立命の人生に生きることが
出来ないという滑稽な結果だけになってしまう。信念を持つということを多
くの人は、大変むずかしいことのように思っているが、決して難しくも何と
もないんだよ。
自分自身でよく考えてみよう。我は信念があるのかないのか、弱いか強い か。信念というのは頑張ることではない。煥発(かんぱつ)してこなければ 駄目だ。自分の心の中から抉り(えぐり)出さなければ駄目だ。信念の方は、 出たくて出たくて、うずうずしているんだから。
自分自身でよく考えてみよう。我は信念があるのかないのか、弱いか強い か。信念というのは頑張ることではない。煥発(かんぱつ)してこなければ 駄目だ。自分の心の中から抉り(えぐり)出さなければ駄目だ。信念の方は、 出たくて出たくて、うずうずしているんだから。
私自身の経験の中でも、「本当に何とかしなければならない」「一歩前に踏み 出さなければならない」と強く感じたときには、夢の中で閃きを得たり、トイレ でふと思いついたりすることがしばしばありました。寝てもさめてもそのことに 集中して意識できるとき、「目指すべき方向」「信念」のようなものが、煥発す ることがあったように思います。
中村天風は、銀行の頭取時代に自らの信念により、尊い仕事をする道を選んだ といいます。
尊い真理に国境はない。尊い因縁に恵まれて、こうして集まってきた以上、
自然の摂理に従い、ただ自分だけでなく、世の人々を幸せにするために生き
てこそ、この世に生まれた生き甲斐があるのだ。だから、どうぞ、人のため、
世のために、本当に心の底からお願いしておく。改めて今日から、古い人も
心を入れ替えて、“信念の人”に成りなさい。
時の天皇、総理大臣にも教えを説き、現代の経営者の師でもあった中村天風。 師の教えを少しでも今に受け継ぎたいものです。
さて、私が悶々としているテーマにも、精神を集中して取り掛かり、信念を煥 発させたいと思います。信念が、「あるべき姿」を描き、「成果と条件」を明確 にすることにつながることを信じて。
