人材育成コラム
“人財”育成のツボ
2013/07/18 (連載 第50回)
自身の中にある動機付けの体験
ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表
安藤 良治
本コラムの第18回(2010年11月)では、「職場の指導にもARCS動機付けモデルを取り入れる」をテーマにアメリカの教育工学者ジョン・M・ケラーが提唱した「ARCS動機付けモデル」を紹介しました。(→ こちら [別ウィンドウでオープン] )
私は、職場の指導者研修やマネジメント研修で、このコラムを引用しながら、ARCS動機付けモデルの学習を進めています。
今号では、私が実際に使用している教材の紹介とその活用方法について触れ、ARCS動機付けモデルという理論を難しく伝えなくても、受講者自身の体験の中に貴重な教訓を持っていることをお伝えしたいと思います。
ARCS動機付けモデルは、学習意欲を高める手立てを4つの側面に分けて考えるのが便利だとケラー教授が定義したモデルです。つまり
注意 (Attention) ≪面白そうだなぁ≫
関連性(Relevance) ≪やりがいがありそうだなぁ≫
自信 (Confidence) ≪やればできそうだなぁ≫
満足感(Satisfaction)≪やってよかったなぁ≫
関連性(Relevance) ≪やりがいがありそうだなぁ≫
自信 (Confidence) ≪やればできそうだなぁ≫
満足感(Satisfaction)≪やってよかったなぁ≫
という側面です。この4つの頭文字をとって、ARCSモデルと名付けたのです。
ARCSモデルは、「授業や教材を魅力あるものにするためのアイディアを整理する仕組み」として、インストラクションデザインに取り組む人たちの基本となっています。職場の指導者にとっても、育成対象者をその気にさせるモデルとして参考になります。
私が指導者育成の研修に実際に使用している教材は、『塾講師の池田君、A君の指導に奮闘!』(PDF形式)です。読んでいただくとお分かりのように第18回コラム(2010年11月)を改編したものを教材としています。
先月ある企業の「職場指導者研修」で、実際にこの教材を使って、育成対象者のモチベーションを高めるためにはどうすればよいかを学習しました。その際の流れを紹介します。
1.最初にARCS動機付けモデルに関する簡単な紹介(3分)
2.教材を読んで設問に答え、白紙に記載「個人学習」(10分)
3.各人が作成したものをグループ内で紹介(10分)
(この時は1グループ6人編成)
4.グループ代表を選び、代表者が全員の前で紹介(10分)
この時は5グループ編成のため、5人が発表
5.まとめ(5分)
2.教材を読んで設問に答え、白紙に記載「個人学習」(10分)
3.各人が作成したものをグループ内で紹介(10分)
(この時は1グループ6人編成)
4.グループ代表を選び、代表者が全員の前で紹介(10分)
この時は5グループ編成のため、5人が発表
5.まとめ(5分)
約40分で「モチベーションを高める」をテーマにした学習を行いました。
グループ代表者の発表の様子を紹介します。
Aグループ代表
「私はこのケースを読んで思い出したことは、私が新入社員の時に温かく迎えてくれた職場の上司のことです。上司は、いつも私に声を掛けてくれ、課題を与えながら指導してくださいました。その様子を思い起こすと、A(面白そうだな)と感じさせてくれ、R(やりがいがありそうだな)と思わせ、C(やればできそうだな)と主体的に取り組もうという私の意識を高めてくれましたね。そして、S(やってよかったなぁ)と成功体験も与えてくれました。正に上司はARCSモデルを実践してくれていたのだなぁと思いました」
Bグループ代表
「私は学生時代に中学1年生の家庭教師をしました。最初は、中々勉強に取り組もうとしない中学1年生とどう向き合うかと悩みました。最初から勉強のことばかり話すと集中できなくなるようでしたので、一日の始まりはいつも雑談から始めるようにしました。このケースの池田君の取った行動と同じことをしていました。結果として、3年間担当して見事志望校に入学できたことで、私にとっても貴重な体験と同時に勉強になった経験でした」
Cグループ代表
「私は昨年、新人研修の講師を担当しました。COBOLを教える講師だったのですが、講師の経験はなく、うまく受け入れてもらえるか大変不安でした。私は、できるだけ受講者から質問が出るように工夫し、質問が出ると「どうしてその疑問が浮かんできたのかな」と単純に質問に答えるのでなく、何に関心があるのかを確かめるようにしました。このことで受講者との双方向の会話を楽しめる様になり、雑談も交えながら受講者と共に学習できるようになりました。私の工夫はARCSモデルに近いと思ったので紹介しました」
Dグループ代表
「私は学生時代、塾の講師をしていました。担当する子供の中に、いつも数学で0点の女の子がいました。数学は嫌いで、最初から分からないとさじを投げているようでした。教わりたいという気持ちがないのですから、教材の内容を伝えても意味がありません。そこで、簡単な問題でいいから、一つでも『分かった』と体験をすることで、興味を持ってもらえるのではと思い、初歩的な問題に取り組むようにしました。一問が正解できると本人も喜びました。そして宿題に正解できた問題と同じような問題を出し、次の時に答え合わせをしました。少しずつ本人が自信を持てるようになり、勉強する意欲も出てきました。ここから、池田君のケースとそっくりです。私にとっても大変良い経験になりました」
Eグループ代表
「私は学生時代、イベントのアルバイトをしていました。企画のリーダーを担当した時に、そのイベントを成功させるために、参画メンバーのモチベーションに気を配りました。イベントですからスタッフの乗りの良いことが絶対条件と思っていましたので、関心を高める工夫をしていました。その時の行動は、ARCS動機付けモデルに沿った行動だったように思います」
「私はこのケースを読んで思い出したことは、私が新入社員の時に温かく迎えてくれた職場の上司のことです。上司は、いつも私に声を掛けてくれ、課題を与えながら指導してくださいました。その様子を思い起こすと、A(面白そうだな)と感じさせてくれ、R(やりがいがありそうだな)と思わせ、C(やればできそうだな)と主体的に取り組もうという私の意識を高めてくれましたね。そして、S(やってよかったなぁ)と成功体験も与えてくれました。正に上司はARCSモデルを実践してくれていたのだなぁと思いました」
Bグループ代表
「私は学生時代に中学1年生の家庭教師をしました。最初は、中々勉強に取り組もうとしない中学1年生とどう向き合うかと悩みました。最初から勉強のことばかり話すと集中できなくなるようでしたので、一日の始まりはいつも雑談から始めるようにしました。このケースの池田君の取った行動と同じことをしていました。結果として、3年間担当して見事志望校に入学できたことで、私にとっても貴重な体験と同時に勉強になった経験でした」
Cグループ代表
「私は昨年、新人研修の講師を担当しました。COBOLを教える講師だったのですが、講師の経験はなく、うまく受け入れてもらえるか大変不安でした。私は、できるだけ受講者から質問が出るように工夫し、質問が出ると「どうしてその疑問が浮かんできたのかな」と単純に質問に答えるのでなく、何に関心があるのかを確かめるようにしました。このことで受講者との双方向の会話を楽しめる様になり、雑談も交えながら受講者と共に学習できるようになりました。私の工夫はARCSモデルに近いと思ったので紹介しました」
Dグループ代表
「私は学生時代、塾の講師をしていました。担当する子供の中に、いつも数学で0点の女の子がいました。数学は嫌いで、最初から分からないとさじを投げているようでした。教わりたいという気持ちがないのですから、教材の内容を伝えても意味がありません。そこで、簡単な問題でいいから、一つでも『分かった』と体験をすることで、興味を持ってもらえるのではと思い、初歩的な問題に取り組むようにしました。一問が正解できると本人も喜びました。そして宿題に正解できた問題と同じような問題を出し、次の時に答え合わせをしました。少しずつ本人が自信を持てるようになり、勉強する意欲も出てきました。ここから、池田君のケースとそっくりです。私にとっても大変良い経験になりました」
Eグループ代表
「私は学生時代、イベントのアルバイトをしていました。企画のリーダーを担当した時に、そのイベントを成功させるために、参画メンバーのモチベーションに気を配りました。イベントですからスタッフの乗りの良いことが絶対条件と思っていましたので、関心を高める工夫をしていました。その時の行動は、ARCS動機付けモデルに沿った行動だったように思います」
この発表を聞いていて、指導者として苦労したことのある人なら、その苦労と工夫の中にARCS動機付けモデルの体験を持っているものだな、と感じました。
特に前述のAグループ代表者の発表は、指導者として育成する立場の受講者に大変良い刺激を与えてくれました。
「自分も相手と向き合い、動機付けのための工夫をしなければ」
皆さんの職場でも、それぞれが持っているARCS動機付けモデル体験を聞いてみては如何でしょう?
その題材として今回紹介したケースはご自由にお使いください。ただし、お使いなった際は、是非その時の様子をWEBのご意見欄に投稿していただきたくお願いいたします。
さて、今号のコラムで私にとっては記念すべき第50回となりました。4年を超える年月を経たことになるわけです。長い間お付き合いいただいた読者の皆様に、まず感謝申し上げます。また、iSRF関係者の皆様には適切なアドバイスやWebページへの転載で工夫していただくなど、多くのご支援を頂いたことに厚く御礼申し上げます。
Webページでは、コラムに関するご意見を入力できるようにしていただいていますが、徐々にご意見もいただけるようになったことを大変嬉しく思います。私の友人は、コラムが配信されるとその日のうちに直接、メールで感想を送ってくれます。このような存在が、毎月コラムを書く気にしてくれました。
先日のiSRFセミナーでも、お会いした仲間からいろいろな声を聴きました。「最初の頃より、随分読みやすくなったよ」と言う人もいれば、「コラムの文章が長くなりすぎてない?」と指摘してくれる人もいました。少しは進歩がみられるものの、良文となるにはまだ道遠しといったところでしょうか。
50号を節目に後進に譲るべきかとも考えたのですが、小出編集長から「続けてほしい」とのご意見をいただいたものですから、読者の皆様には今しばらくお付き合いいただければと思います。
