人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2013/09/24  (連載 第52回)

2020年、そして“その先”の未来に

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 「2025年、私と私の友達、私のこどもたちは、どのような人生を送っているのか?」
 「朝の10時には、どういう仕事をしているのか?」
 「ランチは、誰と一緒に食べるのか?」
 「どのような業務をおこなっているのか?」
 「私たちは、どこに住んでいるのか?」

 こんな疑問を自分自身に投げかけ、「働き方の未来コンソーシアム」を立ち上げ、その議論をもとに著書にまとめた人がいます。
 リンダ・グラットン。彼女はロンドン・ビジネススクールの教授として経営組織論の世界的権威として活躍する一方、2人の息子の母親として2人の未来の行く末を心配する親でもあります。
 その著書「ワーク・シフト」では、冒頭の質問、2025年にどんな未来を迎えるのかを問いかけ、

 「漫然と迎える未来」の暗い現実
 「主体的に築く未来」の明るい日々

 の観点から、いくつかの未来ストーリーを展開しています。
 2025年の未来を形づくる要因として、
   (1)テクノロジーの変化
   (2)グローバル化の進展
   (3)人口構成の変化と長寿化
   (4)社会の変化
   (5)エネルギー・環境問題の深刻化
の5つの要因を掲げ、各々の要因を象徴する32の現象を取り上げています。
 そのいくつかの現象を紹介します。
 「世界の50億人がインターネットで結ばれる」
 「地球上のいたるところで『クラウド』を利用できるようになる」
 「ソーシャルな参加が活発になる」
 「24時間、週7日休まないグローバルな世界が出現した」
 「新たな人材輩出大国が登場しつつある」
 「世界のさまざまな地域に貧困層が出現する」
 「寿命が長くなる(100歳は当たり前の時代)」
 「国境を越えた移住が活発になる」
 「家族のあり方が変わる」
 「余暇時間が増える」
 「環境上の惨事が原因で住居を追われる人が現れる」
 「持続可能性を重んじる文化が形成されはじめる」

 5つの要因、32の現象を説きながら、孤独で貧しい未来を迎えないために、私たちは働き方をシフトさせる必要があるとリンダ・クラットンは言います。
 「一つの企業の中でしか通用しない技能で満足せず、高度な専門技能を磨き、ほかの多くの人たちから自分を差別化するために『自分ブランド』を築く」
 「難しい課題に取り組むうえで頼りになる少人数の盟友グループと、イノベーションの源泉となるバラエティーに富んだ大勢の知り合いのネットワーク、そしてストレスを和らげるための打算のない友人関係という、3種類の人的ネットワークをはぐくむ」
 「大量消費主義を脱却し、家庭や趣味、社会貢献などの面で充実した創造的経験をすることを重んじる生き方に転換する」

 私たちはいつごろから「激動の時代」とか「変化の激しい時代」という言葉を使うようになったのでしょうか?
 そして、2025年に向かって、その変化のスピードはITの進展も加わってますます速くなるようです。
 世界中がインターネットでつながり、休む暇もなくグローバルな競争が繰り広げられる未来。そこには、競争に敗れた人たちが世界のあちこちで貧困層となって暮らす姿が想像できます。人々の幸せをもたらすための変革が、一方で貧困層を生み出していくという皮肉な現実。
 これからも続く「激動の時代」を「漫然と迎える」のか、「主体的に築く」のか--。それによって、自分の未来は確かに違ってくることでしょう。
 その点で、リンダ・クラットンの3つのシフトには説得力を感じます。

 さて、日本人にとっては2025年という年を考える前に2020年という新たな目標が生まれました。
 56年前の1964年に開催された東京オリンピックは、戦後の復興ぶりを世界にアピールする意味を持つ大会でした。このオリンピックを機に、日本は戦争の痛手から一早く立ち直り、高度経済成長期を迎えました。東海道新幹線や首都高速道路の開通、羽田空港の増改築など首都を中心としたインフラ整備が一気に進みました。世界も目をみはる驚異的な経済成長を成し遂げた日本。この成長に、五輪は大きな役割を担ったと言えます。

 2020年の五輪は、東日本大震災からの完全な復興を世界に示すという目標があります。オリンピック関連施設や交通網の整備とともに、原発問題も含めた完全な復興を2020年までに行うという明確な目標が課せられました。
 IOC委員会で東京開催が決定した後の記者会見で安倍首相は言いました。
 「みんなが力をあわせれば、夢がかなう。国民のみなさんとともに示すことができたと思う」
 「開催国として、すべての選手のみなさんがその実力を出し切り、ベストな競技ができるようにする義務がある。そして、今日この日(9月7日)、東京を選んだのは正しかった。そう世界の人々から評価されるように頑張っていく」
 「世界中からたくさんのお客様が日本にやってくることになる。最高のおもてなしでお迎えするのが、ホスト国である日本の責任でもある。日本はすばらしい、そう思ってもらえる絶好のチャンスを私たちは手にした」
 「2020年の東京五輪、パラリンピックでは、震災からの復興を見事に成し遂げた日本の姿を、世界の中心で活躍する日本の姿を、世界中の人々に向けて強く発信していく。それこそが、今回の東京開催決定の感謝の気持ちをあらわす最善の道だ」

 世界に向けて発信したこれらの発言は、首相の決意であるとともに、私たち国民も一緒に達成すべき約束だと思います。
 2020年に向けて、国、自治体、企業、そして国民が連携して取り組めれば、次の未来は、今よりも明るく期待の持てるものになるように思います。
 1964年が高度成長期をもたらし「ものを作り消費する」時代を形づくった転換点とすれば、2020年は人々の交流や、「おもてなし」に代表される「人の優しさ、温かさを重んじる」時代への変換点になった--。こんなことが言える、そんな年を迎えたい。
 皆さんは、2020年をどのように迎えるでしょう。そして、その先の未来は?

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