人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2014/01/21  (連載 第56回)

不屈不撓(ふくつふとう)の一心

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 新年明けましておめでとうございます。2014年が皆様にとって、明るく、充実した年となることを心よりお祈りいたします。

 少し古い話になりますが、負債総額2兆3000億円、一般事業会社として日本最大の倒産劇を演じ、会社更生法の適用を受けた日本航空。その再建のため、 稲盛和夫氏は2010年2月会長に就任しました。会長就任の挨拶で稲盛氏は、社員たちに向かって、強く訴えます。

 新しき計画の成就は只不屈不撓の一心にあり。
 さらばひたむきに、只想え、気高く強く、一筋に

 「どんな苦労があろうとも、どんな困難に直面しようとも、全員の力でこれを乗り越え、必ず日本航空を再建しよう」との思いを、積極思想を説いた思想家、 中村天風氏の言葉を借りて、社員に訴えかけました。
 稲盛氏の思いは、見事成就し、2011年3月に終了した新生日本航空の初年度の営業利益は1884億円。何と会社創設以来の最高の実績を残したのです。 翌2012年3月期は、東日本大震災の影響を受け、売上高が減少したにもかかわらず、営業利益2048億円を達成しました。
 78歳の高齢のため周囲からの反対が多い中、自らの就任受諾の条件として、無報酬で取り組まれた日本航空の再建。稲盛氏は、日本航空の会長に就くことの 意義、大義を次の3つとして語っています。

 1.日本経済への影響
 2.日本航空に残された社員たちの雇用を守る
 3.利用者である国民の利便性の確保

 稲盛氏のこの行動には、全く私心が見られません。国並びに国民のために身命を賭して取り組まれた偉業に感銘します。
 これらのことは、稲盛氏の著書『燃える闘魂』(毎日新聞社刊)に紹介されています。昨年の暮れにこの本を読み、30年近く前のことを思い出しました。
 当時人事部で教育を担当していた私に、上司が何も言わずに私の机に一冊の図書を置いていきました。上司は本を置くとさっさと職場を出ていくので、何の意 図なのか確認のしようがありません。パラパラとめくるとなにやら読んでみたくなる内容でした。
 「ま、読めということやな」
 私にとってはとても怖い上司で、存在感が大きく、多くの刺激を与えてくれた方です。一方で、何も言わずに本を机の上に置いていくように、私に宿題を課し、 「禅問答」でもして楽しんいるようなところがありました。その対応に悩まされながらも、「考える力」を与えてくれた上司でした。

 その時渡された図書が、『ある少年の夢-京セラの奇蹟』(加藤勝美著、現代創造社刊)です。
 稲盛氏の少年時代から始まり、27歳で30人弱の仲間と京セラを設立、そして京セラが奇跡のような発展を遂げていく様を紹介しています。まるで稲盛氏の 伝記のような本でした。昭和54年初版の図書で、この年稲盛氏はまだ47歳。
 この本を読んで、「自分も何かをしなければ!」と強い刺激をもらいました。稲盛氏が27歳で会社を立ち上げた当時、同志となる数人で誓紙血判をしていま す。
「私利私欲で血判するのではない。われわれは能力はないけれどもみな一致団結して世のため人のためになることをなしとげたいと、ここに同志が集まり血盟す る」
という趣旨の文に、そこに集まった同志全員が血判したとあります。
 そして同志とともに死に物狂いで働いて、その結果として奇跡のような業績をあげてきた、軌跡を知ることができました。この本を手にした時が26、27歳 だったこともあり、「自分には何ができるか、しなければならないか」と考えるきっかけをもらったように記憶しています。

 そして、2014年の初めにこの「ある少年の夢」を読み返してみました。
 正に、稲盛氏の人生そのものが「不屈不撓の一心」で送られてきたことを確認しました。そして、80歳を過ぎてなお私たちに「燃える闘魂」を持ってことに 当たれとの強いメッセージを伝えてくれています。
 「ある少年の夢」から感銘を受けた一節を紹介します。
 企業が伸びていくというのは、その企業を治めている人間の器量が伸びて行く分だけ伸びていくということだ。
 ただ単に企業が伸びていって、それに管理者がついていくということは絶対にありえない。タイミングが合って運よく伸びた事業部があってもある時点で頭打 ちになり、伸びたものを維持することもできない。
 本当に伸びていくというのは、そこを治めている人の器が、その伸びる規模に値する場合にしか伸びていかない。
 その器量は、部下を育てていく能力、営業の力量、技術力、人をまとめていく能力、生産を管理していく能力などが組織化されて、部下を育てるような教育が なされていて、部下そのものも含めて成長していかないと規模は拡大していかない。
 自らも必死になって働きながらも、人を育てること、育てられるような人を育てることの重要性が伝わってきます。

 改めて2014年、皆さんは「不屈不撓の一心」で取り組む命題は決まりましたか?
 周りの環境も気になるところですが、自らの命題に一心に取り組める年としたいものです。

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