人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2014/06/18  (連載 第61回)

新時代の徒弟制度、OJL(On the Job Learning)の定着と実践 シリーズ(2)指導内容の計画 -教案設計-

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

「社員の一段の成長を支援する、OJL(On the Job Learning)」

 OJLを導入することで、社員が主体的に学ぶ文化を醸成でき、その指導者は「人を育てる」経験の中から、他者に「良い影響を与える」リーダーとしての素養を養うことが可能になります。このコラムでは、指導者の観点から「OJLの定着と実践」についてシリーズで展開しています。

 第2回のテーマは、「指導内容の計画-教案設計-」です。
 教案設計というと、正に教師の仕事のような響きがあり、現場の指導者には距離があるテーマのように感じるかも知れません。しかし、人を育てるというミッションを持った以上、無手勝流に思いを伝えるのではなく、筋道を持った「指導計画」が必要です。
 「学習者は誰で、どんな素養を持ち、どんなことに興味・関心を示すか?」
 「何を学ばせるのか?」
 「何故その学習をさせるのか?」
 「どうやって理解・学習・気づきをさせるのか?」
このような問いかけが指導計画(教案設計)のベースとなります。
 今回は、教案設計の中でも「目的・目標を明確にする」「学習者のモデルを明確にする」に焦点を絞って展開します。

(1)目的・目標を明確にする

「何を学ばせるのか?」、「何故その学習をさせるのか?」

 日々の仕事に忙しい指導者は、学習対象者の取り組むべき仕事を提示する際、その仕事の目的や背景の説明を疎かにして、「やり方」のみを説明していることが往往にしてあります。
 目的を知らされずにやり方(手段)だけを伝えられた仕事。そんな仕事を与えられた時、その人は自分の仕事を他者に何と説明できるのでしょう?
 このコラムでも何度か取り上げた「レンガ積み職人」の寓話の一人目の職人の回答を思い出します。
 一人の職人に、何をしているのか尋ねました。
「見ればわかるでしょう。レンガを積んでいるんですよ。こんな仕事はもうこりごりだ」
 寓話では、二人目、三人目の職人が出てきます。
 次の職人に同じことを尋ねると、
「レンガを積んで壁を作っています。この仕事は大変ですが、賃金が良いのでここで働いています」

 三人目の職人にも同じことを尋ねると、
「私は修道院を造るためにレンガを積んでいます。この修道院は多くの信者の心のよりどころとなるでしょう。私はこの仕事に就けて幸せです」
 指導者であれば、学習対象者が三人目のレンガ積み職人のように、目を輝かせて自分の仕事を語ってほしいと思うのではないでしょうか。

 先月のことですが、私はあるメーカーの入社3年目社員を対象にした2日間の研修を担当しました。この研修では、「巻き込み力の強化」をテーマにステークホルダーの洗い出し、ステークホルダーへの対応、コミュニケーション、マーケティングの5Cなどを学習してもらいました。
 マーケティングの5Cとは、自社、顧客、競合の3Cに、顧客の顧客、顧客の競合の2Cを加えた5つのCで「自分の仕事の役割」を見直そうという学習です。このテーマでの学習の際、先ほどの「三人のレンガ積み職人」の寓話を紹介しました。
 そして、受講者に尋ねました「今、自分の仕事を紹介するなら、どちらかと言えば三人目の職人の回答に近いという人は手を挙げてください」
 数人が手を挙げました。私は手を挙げた人に尋ねました。
「○○さんは、どんな仕事をされているんですか?」
「私は、水処理施設に使うある装置の設計を担当しています。私の仕事は、市民が安心して美味しい水を飲める、そんな施設の働きに貢献しています」
「そうですか。○○さんは、そんな仕事に就けて…」
やや照れながら彼は回答しました。「幸せです」と。
 思わず私は拍手をし、それにつられるように受講者全員が拍手をしました。
 この発言が、他の受講者に良い刺激を与えたのは確かなようです。
「自分も同期の前で、胸が張れる仕事をしていると言いたい!」
 そして、この後に取り組んだマーケティングの5Cのワークは、みんな真剣に顧客の顧客について思いを馳せ、自分の取り組んでいる仕事の意義や役割をまとめていました。

 この研修では、最後に「巻き込み力の強化策」についてグループで話し合い、その発表を全員の前で行いました。その発表は代表者だけの発表ではなく、一人ひとりが今後取り組んでいくことを宣言します。ある人はその宣言の中で言いました。
「私は『5C』、特に顧客の顧客のことを意識して取り組んでいきます」
 仕事の目的を伝える、その仕事の先にいる「顧客」そして更にその先の「顧客」にどんな役割、貢献をしているのかを知ることが、動機付けに大変重要です。
 「教案設計」の最初に取り組むべきことは、「仕事の目的を明らかにする」ことであり、そこから具体的な手段へと展開していきます。

(2)「学習者のモデルを明確にする」

「学習者は誰で、どんな素養を持ち、どんなことに興味・関心を示すか?」

 教案設計では、教案の中身を議論する前に学習者のモデル化に取り組むことを求めています。
 前述の3年目研修について補足します。私は昨年、つまり2年目の彼らと「考える力の強化」をテーマに問題解決法の学習を行いました。
 2年目で「考える力の強化」、3年目で「巻き込み力の強化」をテーマとした研修を行なうことは、顧客であるメーカーの方針によるものです。幸運にも2年連続して私が担当させていただいたことで、いろんなことを考え、感じることができました。
 2年目の「問題解決法」の学習はやや難易度が高く、「理解した」というよりも考える習慣の緒に就いたレベルの学習になっていたかもしれません。正直もう少し経験を積んでからの方が吸収できるかもしれないと思いました。1年経った彼らを見て、その思いは強く働きました。

 一方、3年目に行った「巻き込み力の強化」のテーマは、対人関係スキルを磨く内容ですので、内容的には特別な知識がなくても大丈夫。例えば新入社員でも分かるものです。難易度はそれほど高くありません。
 単純に難易度から判断すれば、2年目と3年目のテーマを入れ替えた方が良いとも考えられます。
 しかし、そう単純なものではありません。3年目になって議論している彼らの様子を見て、2年目よりも仕事を任されている自覚、自分の責任を強く感じだした発言が多いことに気づきました。彼ら自身が、責任ある仕事に取り組む中で、「対人関係強化」の必要性に気付いている今だからこそ、この議論ができるのです。学習する内容は、自ら学びたいと感じるテーマが重要で、単に順番に学習すれば良いのではなく、うまく動機づけできる内容をテーマとして選定する必要があります。
 そのためには、「学習者は誰で、どんな素養を持ち、どんなことに興味・関心を示すか?」を明らかにすることが必要です。

 今回の「教案設計」に関しても ITHRD(IT人材育成協会)のホームぺージに関連資料をリンクさせていただきます。どうぞ参考になさってください。
http://ithrd.jp/index.php/blog/ojl

この記事へのご意見・ご感想や、筆者へのメッセージをお寄せください(こちら ⇒ 送信フォーム