人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2014/10/20  (連載 第65回)

新時代の徒弟制度、OJL(On the Job Learning)の定着と実践 シリーズ(6)ストーリーボードの作成

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 私は、企業研修の講師という仕事に就いてから9年になります。仲間と開発した問題解決法「創造的実行プロセス(B−CEP)」の講師をメインとして活動してきました。顧客の中には、5年以上も継続してお付き合いをさせて頂いている企業もあります。私たちのような仕事では、リピートをいただけることが何よりも嬉しいことです。もちろん事業として継続していただける喜びもありますが、研修の振り返りと次回への要望をいだけることで、内容のブラッシュアップと私自身の成長につながることの喜びの方が大きいと言えます。

 さて、そのようなお付き合いをさせて頂いている顧客の研修で、今年ある変化がありました。研修アンケートのフォーマットを全面改訂したのです。
 昨年までは、「講義の内容」に関する6項目と「講師」に関する8項目の14項目について5点評価で回答いただくものでした。顧客側で用意された新フォーマットは、「研修内容」7項目、「講師」2項目、「研修資料他」4項目の合計13項目について確認するもので、各項目ごとに選択肢が異なり、必ずしも点数で評価できないものに変わりました。

 例えばこのような設問がありました。
「内容のレベルは、あなたにとって適切でしたか?」の設問があり、その選択肢
(1)低かった、(2)適切だった、(3)高かった
の3つから選択する内容です。この設問の場合は、(2)以外の回答がどの程度あるかに着目する必要があります。
 今年最初に行った上述のB−CEP研修で、新しいアンケートを用いて評価してもらうと「(2)適切だった」が71%、「(3)高かった」が29%、「(1)低かった」はなしとの結果でした。
 昨年までのアンケートでは、同じ評価をしているものはなく、近い項目として「講習内容は有益なものだった」と比較してみると、5点評価で4.7と比較的高い評価をいただいています。この評価を前提にすれば「(2)適切だった」の評価は90%は欲しいところです。にもかかわらず70%程度の評価になっているのは何故か?
 アンケートの項目が変わったことにことによって、これまでは運営上問題ないと思っていたことに目を向ける必要がでてきました。

「この評価は、今回だけの問題か?」
「それとも、繰り返し同じ研修を実施してきた中で、私の中に何かマンネリとなったり、丁寧さが不足してきたことは無いか?」
 2日間の研修の運営を見直す作業に取り掛かりました。
 研修のカリキュラム、研修で使用するスライド(120枚)、ラーニングアクティビティ(講義、演習、個人ワーク、グループ討議、全体でディスカッション等)の構成を記載した「ストーリーボード」を確認しながら、研修の場面を「イメージシミュレーション」します。
 長年お付き合いしてきた顧客なので、これまでの改良により「学習者のモデル」はほぼ正確に掴めていると思います。その結果、「問題解決の学習は難しい!」という固定観念の打破は出来たと考えます。
 「学習者のモチベーション」を意識してARCSモデルに照らした構成もできてきたように自負していました。
(ARCSモデルについては先月のコラムを参照ください)

 「何が、学習者に難しいと感じさせるのか?」
 これまでのアンケートで全体でも4.5以上の評価を重ねてきた研修なので、完成度も高く、抜本的な改訂は必要ないように思えます。
 そこで研修のスライドを一枚目から眺め、私が話している内容とその時の学習者の反応について考えました。
 研修のイントロでは、「学習の目的」を伝えます。
 その次に、これまで受講した人の感想を紹介してきました。
 「この研修を受けた人たちは、こんな感想を述べていましたよ。」
と伝えることで、受講者に「実践で活用できる内容を2日間学べるんだな」と意識してもらえるように紹介してきました。
 紹介するということは、こちらが一方的に話をしていることになります。
 これまでは問題がないと考えていた「掴み」の部分ですが、もっと受講者が能動的に、「双方向のコミュニケーション」をする必要があるのではないか、ARCSモデルのA「注意」(面白そうだなぁ)と感じてもらう工夫が必要ではないか、と考えました。

 そこで、「これまでの受講者の感想」を紹介する時間を割愛し、受講者と会話する場面を設けることにしました。
 「これまでに課題を管理する××のようなことで困った体験をした人はいますか?」
 数名に質問を投げかけ、ご自身の体験を紹介してもらいます。
 「続いて、リスクに関する課題を事前に対策していなかったために苦労した体験のある人は?」
 また数名に体験を紹介してもらいます。
 次にプロセス思考を適用しているマネージャが、どのような質問を投げかけて意思決定しているかを私から簡単に紹介しました。
 この受講者との会話型のイントロによって、
 「みんな問題解決では苦労した経験がある。プロセス思考を適用すると合理的な問題解決につながるかもしれない。」と感じてもらい、能動的な学習につながることを期待しました。

 このような見直しをした上で、今年2回目のB−CEP研修を行ないました。見直しの対象としたアンケート項目「内容のレベルは、あなたにとって適切でしたか?」の設問の回答結果は、「(1)低かった」はなし、「(2)適切だった」92%、「(3)高かった」8%に改善し、目標とした(2)の回答90%をクリアすることができました。
 研修内容そのものは変更せず、イントロを変更したのみでこれだけアンケート評価が変化した事には、私自身も正直驚きました。
 アンケート様式の変更が、研修の見る視点を変え、研修内容のブラッシュアップと私自身の成長につながった出来事でした。
 見直しに役立ったのが、研修の運営を「見える化」している「ストーリーボード」です。
 ジェリー・ワイズマンの著書「パワー・プレゼンテーション」(ダイヤモンド社刊)には、このストーリーボードについて以下のような記述が有ります。
 各ツールを見ていく前に大切なことがある。一歩下がって、プレゼンテーションの流れをチェックし、全体を吟味することだ。このとき図(省略)に示したストーリーボードを活用するといいだろう。

 テレビや映画のディレクターが作品を考えるときに、ストーリーボードという方法を使う。これは60秒のコマーシャルであろうが、何億円もかけた大作映画であろうが、同じである。ディレクターは、各場面のカメラアングルなど細かい点まで決めた後、個々のシーンを1つの流れとしてどう一体化させるべきか、ストーリーボードを使ってあれこれと考えをめぐらせる。
 映画では、ディレクターが鑑賞者にメッセージを伝え、共感してもらうために、 研修では、インストラクタが受講者に目的に合致した学習をしてもらうために、そして、OJLでは、OJLの指導者が学習者に対して「仕事を通じて学び、成長してもらうために、グランドデザイン(全体のカリキュラム)を描き、1つの流れとしてつながるよう「ストーリーボード」を作成して、考えをめぐらせる。

 ITHRDのホームページに「ストーリーボードを作成する」のスライドを用意していただいたので参考にしてみてください。
http://ithrd.jp/index.php/blog/ojl/98-2014-10-1-itlfstory

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