人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2015/01/20  (連載 第68回)

新時代の徒弟制度、OJL(On the Job Learning)の定着と実践 シリーズ(9)学習を評価する

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 新年明けましておめでとうございます。
 2015年が皆様にとって、明るく、充実した年となることを心よりお祈りいたします。

 さて、昨年4月よりお伝えしてきた「新時代の徒弟制度、OJL(On the Job Learning)の定着と実践」シリーズも今回で最終回となります。
 テーマは「学習を評価する」
 学習の評価モデルとして定着しているのが、「カークパトリックの評価モデル」と言えます。
レベル1満足度対象者の学習状況をアンケートにより把握、評価する
レベル2理解度研修終了時に理解度、習熟度をテストにより把握、評価する
レベル3行動変容研修結果が目標通りに業務に的確に利用できているかを業務レビューなどにより把握、評価する
レベル4利益貢献研修結果、業務に対する効果として、利益がどのくらい上がったかを評価する
 この評価モデルは、集合研修の導入効果を評価する際に語られることが多かったように思います。
 私のように企業研修の講師として活動する者にとっては、一日あるいは数日の研修という場で、学習者が、「研修を受けて良かった」(レベル1)と思い、「設定した学習目標を習得」(レベル2)し、「明日からの業務に活かす」(レベル3)ことを願っています。そして、結果として学習者の行動変容が、「利益貢献」(レベル4)につながることを期待しています。
 期待している一方で、レベル3「行動変容」やレベル4「利益貢献」を見届けられないもどかしさを感じているのも事実です。

 そんな折、ITHRD(人材育成協会)でラーニングファシリテータ育成プログラムを一緒に開発・普及しているメンバが、カークパトリックの新モデルが出ていることを見つけました。
 ジェームス・D・カークパトリックは、臨床心理学者として組織開発分野を中心にコンサルタントとして活躍する中で、父ドナルド・カークパトリックの考案した「学習の4段階評価モデル」の有効性を実感しました。
 そこでジェームスは、新評価モデル「ニューワールドカークパトリックモデル」を提唱しています。この新しいモデルは奥様と共に考案されたというので親子2代家族ぐるみでの研究成果です。
 この新評価モデルの特徴は、レベル3の成果を実際に出すためのアクションを提示していることだと思います。
 具体的には、レベル3の行動変容を「モニタリングと調整」によって行うとしている点です。何によって「モニタリングと調整」するかと言えば、「OJL」(On the Job Learning)です。OJLという言葉が、ここで明確に出ています。
(今回もITHRDに関連資料を用意していただいたので、詳しくはこちらの5頁をご覧ください
 ⇒ http://www.ithrd.jp/images/ITLFgakusyuu.pdf
 「学習者の行動をモニタリングしながら、勇気付けを与え、行動変容の促進を強化し、その成果に対して報酬を与えよう」とするのが、レベル3の新しい概念です。

 この新評価モデルを確認した際、私は「OJLを推進する意義が高まった」と感じました。そもそも、私の担当している研修は、学習者の行動変容のための一手段にしかすぎません。一つの研修だけで全人格と向き合い、その後の行動変容にまでつなげることには限界があります。
 職場における指導者が、学習者と対話しながら、学習目標を定め、日常の仕事を通じて学習することを促進し、日常の仕事だけでは習得しえないテーマについて、集合研修という場を利用して学習する。そして、そこで学習した成果を実務に活かすことで一層の「行動変容」と「成長」につなげていく。
 OJLが育成の中心にありながら、補完的に集合研修を活用していく姿が、今後の育成のあり方だと思います。
 そのためには、現場の指導層と集合研修を運営する側とのコラボレーションが欠かせません。現場の指導層は、今一度「成人」である学習者に対して、どのように接すればよいかを理解し、学習計画「教案設計」や「ストーリーボード」を作成して、相手の心に伝わる「教授法」や「双方向コミュニケーション」を駆使することが求められます。
 「ラーニングファシリテータ」としての素養を身に付けた指導者が増えることで、学習者の学習意欲は増し、職場が活性化する。結果としてカークパトリックのレベル4「利益貢献」につながるものと確信しています。
 「OJLの推進」は、学習者が成長することは当然のことながら、指導者自身の成長に大いに貢献するものと思います。指導者層の育成には、ラーニングファシリテータの素養を身に付けることが欠かせないと言っても過言ではありません。企業の人財育成に取り組まれている方々と一緒になって、このテーマに関してさらに議論を深めていければと願っています。

 昨年4月よりシリーズでお送りした「OJLの定着と実践」も今号で終了となります。今後はITHRDの「ラーニングファシリテータの育成」に注力しながら、現場と共に私たちラーニングファシリテータも成長していきたいと思います。

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