人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2015/11/20  (連載 第78回)

ストレスと向き合うことで強くなる

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 「ストレス」について、あなたはどう思いますか?
 以下の表現の内、どちらの方が自分にしっくりくるでしょうか?
A ストレスは健康に悪いから、なるべく避けたり減らしたりして管理する必要がある。
B ストレスは役に立つから、なるべく受け入れて利用し、うまく付き合っていく必要がある。
 いよいよ来月から「ストレスチェックの実施」が義務になります。厚生労働省が、「ストレスチェック制度導入マニュアル」や「ストレスチェックの調査票」を用意し、従業員50人以上の事業所に対して、ストレスチェックの実施と面接指導の実施等を事業者に義務づける制度が創設されました。
 本コラムの読者は、この制度の導入と対応に関わっておられる方も多いかと思います。

 さて、この制度の運用にあたって、運用の当事者が冒頭の質問に対して、Aと考えている人と、Bと考えている人とでは、対応が随分違ってきます。
 「ストレスチェックを実施したところ、全体的にスコアが高い!」
 Aの考えの人は、「スコアが高い」ことそのことにアラームを出し、ストレスを減らすあるいは回避する策を講じようとします。
 Bの考えの人は、「スコアが高い」ことの原因を探り、ストレスの内容によって、個別の対応策を講じようとします。

 「どちらが正しいのか?」

 「ストレスチェック制度」導入に関わっている方、あるいは関心のある方に、是非読んでいただきたい図書を紹介します。
 「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」(ケリー・マクゴニガル著、神崎朗子訳、大和書房)
 本コラムでは、この図書の一部を紹介し、ストレスに対する考え方の参考にしていただければと思います。
 著者のマクゴニガル氏は、冒頭の質問に対し、以下のように言っています。
 5年前だったら、私は迷うことなくAを選んだことでしょう。健康心理学者として、わたしは心理学や医学のさまざまな研修を受けてきましたが、ストレスが有害であることは、明白で疑いようのない事実として教えられてきました。
 ストレスは病気のもとであり、たんなる風邪ばかりか、心臓病、うつ病、依存症など、さまざまな病気のリスクを高める。ストレスは脳細胞を殺し、DNAにダメージを与え、老化を促進する。
 しかし私は、ストレスについての考え方を改めました。

 1998年にアメリカで3万人を対象にした調査
 「この1年間でどのくらいのストレスを感じましたか?」
 「ストレスは健康に悪いと思いますか?」
 調査の結果、強度のストレスがある場合には、死亡リスクが43%も高まっていました。死亡リスクが高まったのは、強度のストレスを受けていた参加者の中でも「ストレスは健康に悪い」と考えていた人たちだけだった。
 「ストレスは健康に悪い」と思っていなかった人たちには、死亡リスクの上昇は見られなかった。それどころかこのグループは、参加者の中でも最も死亡リスクが低かった。

 研究の結論、「人はストレスだけでは死なない」
 「ストレスは健康に悪い」と思い込んだ場合に限って、ストレスは有害になる。

 長い間、「ストレスは有害」と思い、授業やワークショップで話していた著者が、正反対のことを展開した著書を出したわけですから、大変興味深い内容です。
 全体の構成として、「自分自身がストレスをどのように捉えるか?」この捉え方次第で、「ストレスは力に変えられる!」ことを展開しています。
いくつかのポイントを抜粋して紹介します
 ストレスとは、自分にとって大切なものが脅かされたときに生じるもの

 ストレスと意義とは密接な関係にある
 どうでもいいことに関しては、ストレスは感じない
 有意義な人生を送りたいと思ったら、ある程度のストレスは付きもの

 ストレスを受け入れると、自分自身のことを以前とは違う目で見られるようになる
 それまでは無理だと思い込んでいたことも、できるかもしれないと思えるようになる

 マインドセット効果
 「ストレスには良い効果があるのだと思い込む」このようなマインドセット実験を行うと、成長指数が高まり、ストレスに向かおうとする

 ストレスを感じてもなるべくポジティブな考え方をするための3つのステップ
  1. ストレスを感じたら、まずそれを認識する。ストレスを感じていることを受けとめ、体にどんな反応が表れているかにも注意する
  2. ストレス反応が起きたのは、自分にとって大切なものが脅かされているせいだと認識して、ストレスを受け入れる。ストレスを感じるからには、何か積極的にやりたいと思っていることがあるはずである。脅かされているものは何か?なぜそれはあなたにとって大切なのか?
  3. ストレスを感じたときに生じる力を、ストレスを管理しようと無駄にしないで、利用しよう。あなたの目標や価値観にあったことにエネルギーを使うにはどうすればよいかを考えてみよう

 ストレスには、いろいろな種類があり、回避策を考える必要があるものもあれば、受け入れて、向き合い、そして自分の成長につなげられるストレスもあります。そのことを具体的に分かりやすく教えてくれています。

 今回の厚生労働省による「ストレスチェック制度」は、本来的には「メンタルヘルス不調を防いで、イキイキした職場環境を実現する」ことに目的があります。
 しかしながら、制度導入と同時に「スコア」自体が話題となり、回避策や低減策ばかりが論じられるようになると、「緊張感のない職場」、「覇気のない職場」が増え、日本企業の活力の低下、結果として却ってメンタル不調者が増えることになるのではないかと心配しています。

 「失敗経験から、成長する」
 失敗というストレス状態を受け入れることで成長できるということは、多くの人が認める事実でしょう。失敗経験を反省し、次に生かそうとする、苦しいけれども受け入れ、乗り越えてこそ成長があります。

 「プレゼンテーションを前に極度に緊張する」
 極度の緊張というストレス状態を受け入れて、これまでの成果を披露する。この緊張状態を受け入れる方法は人によって様々です。
 いま、話題になっている「聞くだけで自律神経が整うCDブック」を聴いて、大量に分泌しているアドレナリンを落ち着かせる人。
 ラグビーやアメリカンフットボールのような試合では、よりアドレナリンを高めるような掛け声で、極度のストレス状態を力に変えようとする人、様々です。
 そのような緊張状態を克服してこそ、達成感があります。

 「ストレスチェック制度」は、実態を把握する上では大変有効な制度となることでしょう。しかし、スコアだけにとらわれることなく、事実を精査して対処すべきことに対処する姿勢が求められます。
 ストレスをポジティブに捉え、論じる。そんな風潮を高めることが、活力のある職場を築くことになると思います。

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