人材育成コラム

“人財”育成のツボ

2016/01/20  (連載 第80回)

箱根駅伝2年連続優勝 青山学院大学陸上部にOJLを見た!

ITスキル研究フォーラム 人財育成コンサルタント / PSマネジメントコンサルティング 代表

安藤 良治

 新春恒例となった箱根駅伝。「ハッピー大作戦」というキャッチフレーズを掲げて挑んだ昨年の覇者「青山学院大学陸上部」、なんと1区から10区まで首位を譲らない完全優勝で2連覇を成し遂げました。
 昨年の「ワクワク大作戦」に続き、キャッチフレーズを掲げ、優勝することが当然のようにインタビューに答える監督、緊張よりもレースを楽しむようにニコニコしている選手の表情、これまでの見慣れた駅伝の姿と何か異なる様子に違和感を感じた人もいるのではないでしょうか。
 当初感じたこの違和感。私は、駅伝中継の中で徐々に解消されていきました。「上級生、下級生の別なく、皆で掃除をする姿」「規律正しい生活」「学生の自主的な運営に任せた練習メニュー」等々、地道な努力の積み重ねがあって、チームの結束を高めてきたことが紹介され、「やるべきことをやってきた自信」がこのパフォーマンスを生み出していることを知ったからです。

 メディアに登場する機会も多くなった青学陸上部の原監督。
 駅伝取材だけでなく、バラエティにも顔を出し、駅伝指導者としての知名度は現在最も高いのではないでしょうか。
 その原監督が、昨年12月にビジネス書を出していました。
「フツーの会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉」
青山学院大学陸上競技部監督 原 晋 著 アスコム刊
 何とも長いタイトルです。冒頭の紹介文をそのまま転載します。
 2015年の正月まで、私は一部の熱心な駅伝ファン以外、誰も知らない無名の監督でした。さらに言えば、私の現役時代は箱根駅伝出場、オリンピック出場などという華々しい経歴は皆無。そんな私が、なぜ青学陸上競技部で成果をだせたのか。
 それはきっと、営業マンとして実績を積み重ねる過程で、チームをつくり上げるにはなにが必要なのか、人を育てるとはどういうことなのかなど、たくさんのことを学んだからです。そして、それをスポーツの現場に持ち込めれば成功するのではないかと思っていたのです。ダメダメだった私だからこそ、今までの常識にとらわれずに、陸上界の常識を打ち破ることができたのだと思います。
 ビジネスのグラウンドには、「人と組織」を強くするノウハウがたくさん埋まっています。ビジネスで培われ、青学陸上競技部で醸成されたこの「ノウハウ」が、今度は皆さまのビジネスの現場で一つでもお役に立てられれば、これほどうれしいことはありません。

 「人を育てるとはどういうことか?」
 ビジネスの世界もスポーツの世界も変わらない。

 きちんとした文化を築けば、その文化の中で「自立した」ビジネスマンが育ち、陸上選手も育つ。この仮説を持って、青山学院大学陸上部を率いて結果を出した経過を本書は語っています。

 最初から順調に仮説通りに文化づくりが進められたわけではなく、幾多の失敗があったこと。
 自分自身の選手生活、社会人としての最初の頃のダメだった自分を反面教師に、「文化づくり」の必要性を確信したこと。
 ダメな時期に「左遷」の経験を経て、「気づき」、「良き指導者との出会い」があって、「自立した行動がとれるようになった自分」、「明確な目標を持って実績を上げたビジネスマン時代」、これらの経験を陸上部の指導に適用させてきたこと。
 自らの反省とともに導き出した指導スタイルが赤裸々につづられているので、説得力があります。
 著書にある「47の言葉」のひとつに「コーチングの前にティーチングあり」という言葉があります。
 「コーチングの前にティーチングあり」

『未熟な組織に自主性を与えても成長はない』
 目標を実現するためにはなにが必要で、自分たちは何をすべきなのか、具体的に教える段階が必要です。やり方を知らない人たちに自主性を与えても、どうしたらいいのかわからないうえに、間違った方向へ行く可能性があります。ピアノを弾けない人に「あなたの考えた表現でこの曲を弾きなさい」というようなものです。
『組織の進化には、4つのステージがある』
 私は就任当初からの指導を振り返って、組織の進化には4つのステージがあることに気づきました。
 ステージ1が就任3年目まで私がやってきた、部員に知識や技術を細かく教えていく段階です。次が、ステージ2。スタッフを養成して少しずつ権限を与えます。さらに選手の自主性を重んじるステージ3に進みます。こうしてステージをアップさせると同時に、徐々に部員に責任を与えていく。そして最終的なステージ4に入った段階で、よくいわれるコーチングという指導法が大きな効果を発揮するようになります。

ステージ1「命令型」   :知識や技術を細かく教えていく段階
ステージ2「指示型」   :スタッフを養成して、少しずつ権限を与える
ステージ3「投げかけ型」 :選手の自主性を重んじると同時に、責任を与える
ステージ4「サポーター型」:ここでコーチングの指導法を導入する

 「育つ文化をつくる」ためには、その文化の状態を確認して、その状態に応じた育成施策を適用することが必要と原監督は言っています。
 このことは、本コラムで何度も扱ってきたOJL(on the job learning)を進める上で大変重要なことです。
 原監督は、監督の立場で文化を築くために指導方法を変化させてきました。
 OJLでは、相手に応じて適切な指導や助言を与えるのがファシリテータです。

 昨年の7月のコラム「人が育つ文化を作る」でも書きました。
「人が育つ文化」
 その文化の下では、人々は礼儀正しく、先人からの教えを学び、倣い、その文化の継承者として型を守る【守】
 型を身に付けた者は、変わりゆく環境の下で、変化に挑み、環境に適合する、そして自分自身の型の有りようを探求し、新たな型の開発に取り組む【破】
 経験を積んだ者は、新しくその文化に入ってきた者を育て、まずは型を教え、学びの支援者として、その者の成長を見守る。指導者としての素養を身に付けた者は、やがて自ら率いる郷(職場)を与えられ、そこに自ら新しい文化を形成する【離】

 原監督は、自らの経験を通して結果を出しました。正にOJLの実践者といえると思います。
 皆さんも原監督のビジネス書を手にとってはいかがでしょうか。

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