人材育成コラム

リレーコラム

2020/01/20 (第116回)

自分らしい生き方

ITスキル研究フォーラム 理事
株式会社日立アカデミー 取締役

石川 拓夫

 今年は、ねずみ年。オリパラの年でもある。子孫繁栄の末広がりの年になってほしいものだ。

 さて、この年末年始は子供が大学受験なので、どこへも行かず自宅で過ごした。受験の次男・三男(双子)は、年末年始もなく正月2日から模試だった。7月に部活動を引退してからは受験一色でよくやっている。時間が足らない焦りのなか、最後まであきらめない姿勢で向かっている。自分にとって満足のいく結果が出てくれることを祈っている。

 受験といえば、大学入試改革の柱の一つだった来年1月の大学入学共通テストへの記述式問題導入が見送られることになった。この決定は、採点精度への不安や自己採点の難しさなど、その予想される実態から賢明な判断だったと思うが、時期が遅すぎた。次年度から制度が大きく変わるため、浪人を嫌い、意中の大学に挑戦せず、すでに他の大学の推薦入学に決めた学生もいるという。このような学生は今どんな気持ちだろうか? そのあとの学生生活に影響が出なければよいと祈るばかりである。でも大学入学はゴールではなく、通過点であり、学びたいと思うものを学べるルートはいくらでもある。受験競争の価値観からすれば、納得がいかない学生もいるかもしれないが、まっすぐ前を向いて進んでもらいたいものだ。社会は柔軟でもっと懐が深いと思う。

 就活も21年度がスタートしている。この休暇に我が家に遊びにやってきた就活中の大学生が「一般職はなくなるのですか?」と質問をしてきた。私からは「総合職、一般職という区分が徐々に変わるかもしれないね。グローバル職、ローカル職と区分している会社もあるよ。仕事の違いではなく、地域限定かそうでないかなどの違いになっていくかもね。いずれにせよデジタル化によって代位される仕事はなくなる方向だろう。人間にしかできない仕事で自分がやりたい仕事を念頭に置いて考えてみたらどうだろうか」とアドバイスした。この大学生が、なぜ一般職を話題にしたかは不明だが、選択肢の一つにあるのは確かだろう。深入りはしなかったが、多様化が進む現在、その理由の根源は様々にあるのだろう。

 一方年末に会ったあるOBの先輩は、70歳前後なのだが、真顔でこれからベンチャーを立ち上げたいと言っていた。最初は冗談かと思っていたが、どうも真剣らしい。引退後長くベンチャーの支援を行っておられた方だが、支援するよりも自分でやってみたい気持ちが強くなったようだ。私のロールモデルの一人だが、ますますエネルギッシュな話が出てきて、少々面食らった。とてもかなわないと思った。

 受験、就活、セカンドキャリア……。こんな話を聞くにつけ、人生100年時代に、一つの価値観でゼロか一かで考える時代ではないなあとあらためて強く感じる。やはり自分にとって幸せは何かを、自分の内側に問いかけながら生きていくのだろう。それは言い換えれば自分らしい生き方を追い求めることなのだろう。自分らしく生きることは難しいことだとは思うが、それを追求できる懐の深い社会であってほしいと強く思う。

 最後に新年に見た映画『ALWAYS 三丁目の夕日'64』のワンシーンを紹介したい。六ちゃんが好きになった青年医師について、近所の知人の医者が語った言葉だ。この青年医師は保険制度の外側にいる人たちに対して、ボランティアで無料診療を行っている。

 「今はみんなが上をめざしている時代です。みんな豊かで便利な暮らしをしたいと思っている。医者だってそうだ。みんななりふり構わず出世したいと思っている。しかし菊池君は違う生き方をしている。私は不思議に思って彼に聞いてみたんです。私のようなロートルならいざ知らず、彼のような血気盛んな若者がなぜ出世を望まないのか? 彼は、うれしいからだと答えた。お金持ちになるより人の安心する顔を見る方が幸せなんだと。幸せってなんでしょうなあ……。こんな時代に得難い若者です。二人のことはよく考えてあげてみてください」

 現実はこんなわかりやすいものではないし、時代も違うのだが、とても心にしみた。ただ良心的ないい人ではなく、自分らしく生きることの強さを感じる。幸せの基準は様々だ。受験、就活などどんな結果であっても自分らしい生き方を模索してもらいたいと思う。それは自分にもいえることだと思う。



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